「勉強しなきゃいけないと思うのに、やる気が出なくてあと回しにしてしまう」
「日によってやる気にムラがあり、勉強に毎日取り組めない」
このように勉強でやる気をなかなか出せず悩んでいる人は、自分の “感情” に目を向けてみると、状況を改善できるかもしれません。今回は、「自分はどんな感情のときにやる気が出るのか」を把握するのに役立つ「モチベーション曲線」についてご紹介します。
「感情」と「やる気」の関係
感情とやる気には、以下のような関係があります。知らず知らずのうちに、感情はやる気に影響を与えているのです。
ネガティブな感情はやる気を削ぐ
不安に代表されるネガティブな感情は、やる気を削ぎ、学習の妨げになる――そう説くのは、東京女子大学現代教養学部教授の鈴木栄氏。
たとえば、慣れない外国語を使って会話の練習をするとき、「間違っているかも」「恥をかくかも」といった不安のせいで、練習に身が入らなかったり、実際に話してみてもうまく言えなかったり……といったようなことです。
また、心理カウンセラーの高見綾氏によれば、頑張ったのに望みの結果が得られなかったときに抱くようなネガティブな感情は、無気力な状態を引き起こしやすいそう。
頑張って勉強して資格試験を受験したけれど、前回も不合格で、今回も不合格。「どうせ何をしてもダメだ」と無力感を覚え、勉強に取り組む気が失せてしまう……。そんなケースが、これに当てはまります。
ポジティブな感情はやる気を高める
アメリカの心理学者バーバラ・L・フレデリックソン氏は、ポジティブな感情によって視野が広がり、意欲も高まりやすくなるという実験結果を発表しています。
実験では104名の学生に、「楽しい」「満足」「ニュートラル」「怒り」「不安」の感情を与える5種類の映像のうち1つをランダムで見せ、特定の感情を抱かせました。その後、20行の「これからしたいことリスト」を作成させたそうです。すると、楽しい・満足のポジティブ感情を抱いた学生は、怒り・不安のネガティブ感情を抱いた学生よりも多くの「したいこと」を挙げることができたのだとか。
上記のことをまとめると、やる気が出なくて勉強に取りかかれないなら、ポジティブな感情をうまく利用するとよいと言えるでしょう。
やる気の高め方がわかる「モチベーション曲線」とは
とはいえ、自分のポジティブな感情を常に把握している人ばかりではないはず。そこで提案したいのが「モチベーション曲線」です。
モチベーション曲線とは、縦軸をやる気、横軸を時間として、モチベーションがどのように変化したかを明らかにしたグラフのこと。これを活用すると、自分がどんなときにポジティブな気持ちになれるかを分析できます。
こちらが、モチベーション曲線のフォーマット例です。この形式の場合、朝から夜まで、1日のやる気がどう変化したかを見える化できます。横軸には、過去数年間といった長いスパンでも、ある1日の始業から終業までといった短いスパンでも、当てはめることが可能です。
経営・組織戦略コンサルタントの西野一輝氏によれば、モチベーション曲線が谷底から上がり始めた部分では、「おもしろい」「楽しい」と感じるような、やる気が出る要因となった出来事があった可能性が高いのだそう。それをふまえると、モチベーション曲線の山の部分でも、高いやる気につながる出来事があったと見てよさそうですね。
そうした出来事を振り返って、「このときなぜ感情がポジティブに動いたのか」「どんなシチュエーションで気分が前向きになったのか」などを明らかにすれば、勉強でやる気を出すためにどうすればよいかもわかるはず。
たとえば、日中に仕事で商談がうまくいった日に、帰宅後の勉強がはかどったのなら、成功体験によって得た「わくわくした」「嬉しかった」といったポジティブな感情が、勉強のやる気にも影響を及ぼしたのかもしれません。であるならば、「勉強する際は、簡単な問題を最初に解き、“クリアできた!” という成功体験を得ることから始める」といった仕組みをつくれば、勉強のやる気を出しやすくなるでしょう。
なお、日本キャリア教育学会会長の下村英雄氏によれば、これと似た形式のグラフを活用したものに「ライフライン法」という手法があるそうです。こちらは、過去のキャリアの浮き沈みを主観的に振り返って曲線を描き、自己分析や、今後のキャリア形成に役立てるというもの。このように、過去の自分の様子をグラフに表すことは有効な振り返り法のひとつなのです。
自分の「モチベーション曲線」を描いてみた
筆者も実際に、モチベーション曲線を描いてみました。筆者は日頃から文学を勉強しており、理解を深めるため文学史も学ぼうと参考書を購入。しかし歴史が苦手なこともあってやる気にムラがあります。そこで、どうすればやる気の高い状態で勉強に臨めるのかを把握するのに、モチベーション曲線が役に立ちそうだと考えたのです。
今回筆者が記録したのは、「その時々で取り組んでいる事柄(行動全般)に対し、どれぐらいやる気が出ていたか」。目安や分析のしやすさを考慮して、縦軸には「低・中・高」、横軸には「朝・昼・夜」の目盛りを設定しました。
筆者は、日中は仕事や家の用事などをこなし、夜に勉強するのが基本の生活スタイルです。そこで、数日間いつも通りに生活をしつつ、夜の勉強を終えたあとの寝る前に、その日のモチベーション曲線を描くことに。
朝・昼・夜のタイミングを中心に、「早起きできたので、朝は家事をするときのやる気が高かった。午前中の作業もやる気が高くはかどった。でも昼すぎには眠くなって仕事のやる気がちょっとダウンした……」といった感じで振り返りながら、曲線で表しました。
また、朝・昼・夜に関係なく、前述の「谷底から上がり始めた部分」と「山の部分」には、あとで分析しやすいように出来事の内容もメモしておきました。
以下、筆者が描いた3パターンのモチベーション曲線をご紹介しましょう。
1. 1日を通じて、やる気がなかなか出なかった日
この日は、勉強時間が30分と短め。1日を通じて、やる気がなかなか湧いてこない日でした。前日の夜更かしが響いて、午前中は眠気が強く、仕事がようやく終わったのは19時。思うように仕事が進まなかったもどかしさやイライラで、夜の勉強にも身が入りませんでした。
2. 楽しい予定のおかげで、勉強を頑張れた日
こちらのグラフは、昼すぎに集中力が切れてやる気も低下したものの、夕方にネイルサロンの予約を入れていたので「それまでに終わらせよう」と、もち直すことができた様子を表しています。ショッピングで自分へのご褒美も買えて嬉しかったため、そのぶん勉強も頑張ろうと、2時間ほどテキストを読み進められました。
3. 疲れていたけれど、勉強にそこそこ取り組めた日
最後は、1時間ほど勉強をした日のグラフ。日中に行なった部屋の模様替えが想像以上に大変でしたが、友人と約束していたのでジムにも行きました。夜にはすっかり疲れていましたが、充実した1日に対する満足感がやる気を高めてくれたため、勉強もさぼることなくできました。
モチベーション曲線を描いてみたら、勉強のやる気の出し方がわかった!
今回の実践を通し、自分の感情にきちんと目を向けながら対策すれば、ポジティブな気持ちを保ち、苦手な分野の勉強でもやる気を低下させずに取り組めるということがわかりました。具体的に気づいたことを、3つご紹介します。
1. 1日における、やる気の変化がよくわかった
モチベーション曲線を描いてみると、たしかに、自分のやる気がどう変化したのかよくわかりました。
グラフ化することで、一時的にやる気が出なくなった理由や、回復したきっかけなども考えることができました。その結果、「やる気しないなぁ……」とただなんとなく落ち込むことが減り、それだけでも大きな収穫でした。
2. ポジティブな感情をもつと、やる気も出て勉強がはかどった
また「楽しい」「充実している」というポジティブな感情をもてると、勉強のやる気が高まることも実感できました。
たとえば、勉強時間が少なかった日を振り返ると、仕事が思うように進まず、イライラしていました。一方でネイルサロン・買い物を楽しんだ日や、模様替えにジムにと好きなことをして過ごした日は、勉強もはかどったのです。
3. 自分に合ったやる気アップ法を見いだせた
モチベーション曲線によって「どんなときにやる気が出たか」を把握すると、自分に合ったやる気アップ法を考えられることがわかりました。
筆者の場合、やる気高く勉強に取り組めた日は、勉強前に買い物やジムに行っていました。デスクワークが多いせいか、動くことがやる気をアップさせるきっかけになっていたと気づけたのです。そこで、「お風呂上がりにストレッチをして、勉強を始める」などの対策を思いつきました。これからの勉強に活かそうと思います。
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モチベーション曲線を描けば、いままでは意識していなかった、自分がやる気を出せる傾向や要因がきっと見えてくるはずです。勉強でやる気が出ないことに悩んでいる人はぜひ一度試してみてくださいね。
(参考)
鈴木栄 (2017), “感情が語学学習に与える影響 : 置き去りにされた課題,” 湘南工科大学紀要, Vol.51, No.1, pp.105-114.
マイナビウーマン|【心理学】学習性無力感とは? 具体例と対処法
National Library of Medicine|Positive emotions broaden the scope of attention and thought-action repertoires
下村 英雄 (2010), “50代就業者のキャリアの描像―ライフライン法による成人キャリア発達の検討,” Business labor trend, Vol.2010, No.10, pp.26-32.
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【ライタープロフィール】
藤真 唯
大学では日本古典文学を専攻。現在も古典文学や近代文学を読み勉強中。効率のよい学び方にも関心が高く、日々情報収集に努めている。ライターとしては、仕事術・コミュニケーション術に関する執筆経験が豊富。丁寧なリサーチに基づいてわかりやすく伝えることを得意とする。