仕事で起こしてしまったミスへの後悔や、大きなプロジェクトを無事終えられるかという不安など、私たちの生活には日々いろいろなネガティブな気持ちが生まれてしまいがちです。そして、そうした感情のせいで仕事に集中できなかったり、気分が晴れずストレスを感じたり……ということもまた、よくあることではないでしょうか。
誰しもネガティブな思いを抱くことはあります。ですが、それを溜め込みすぎてしまうと、仕事や生活に悪影響が出てしまいかねませんよね。
そこで今回は、ポジティブでもネガティブでもない「ニュートラル」な心の状態に着目し、ネガティブな感情に対処する方法をご紹介します。
ポジティブとネガティブの間にある「ニュートラル」
私たちは、感情は大きく分けて「ポジティブ」「ネガティブ」の2種類しかないと考えてしまいがちです。しかし僧侶の草薙龍瞬氏は、感情には以下の3つがあると言います。
- 快:楽しさ・嬉しさなどのポジティブな気持ち
- 不快:苦しさ・辛さなどのネガティブな気持ち
- ニュートラルな状態:快でも不快でもない状態
つまり、一般的に注目されがちな2種類の感情のほかに、「どちらでもない、フラットな状態」が存在するということです。このニュートラルな状態に気がつかずに、ほかの2つの感情だけにとらわれてしまうことを、草薙氏は “感情の反復横跳び” と表現しています。
ムカッとして、楽しんで、褒められると舞い上がって、叱られると凹んで……こうした感情的な反応を、休むことなく繰り広げています。
怒って、喜んで、怒って、喜んで、の繰り返し。まるで反復横跳びではありませんか。しかも「真ん中」(ニュートラル)が抜けている(!)。これで心が消耗するのは、ごく自然ですよね。
(引用元:東洋経済オンライン|心が強い人は「無感情」を習慣にしている ※太字は筆者が施した)
ニュートラルな状態を意識しないまま、ポジティブな感情とネガティブな感情を行ったり来たりするだけでは、落ち着いた心を手にすることなどできないのです。
ニュートラルな状態はなぜ必要なのか?
ニュートラルな状態の必要性について、草薙氏はさらに次のようにも述べています。
多くの人が勘違いしていることですが、「ネガティブ」からいきなり「ポジティブ」にもっていこうとするのは間違いです。「ニュートラル」から「ポジティブな反応」に向かうことが、正しい(ムリのない)道なのです。
(引用元:同上 ※太字は筆者が施した)
心をニュートラルな状態にするべきシーンの例として、1ヶ月先に控えた資格試験に合格できるか不安に感じている場面を想定してみましょう。
多くの人は、「不安だ」というネガティブな状態から、「大丈夫、合格できる」とポジティブな状態に気持ちを持っていこうとするのではないでしょうか。ですがこのやり方では、「この不安は気のせいだ、大丈夫、絶対合格できる」といった根拠のない自信を不安に上塗りすることにもなりかねません。もちろん、この自信も全く役に立たないわけではありませんが、本質的な問題解決にはなりませんよね。
本質的な問題解決、つまり、不安な気持ちを本当に解消するためにするべきことは、自信を無理に上塗りすることではなく、不安を分析して適切な対策を立てること。たとえば、試験の傾向を分析したり、苦手分野を特定したりして、勉強の計画を立てる必要があるはずです。
自信を持つには、こうして不安要素をいったんなくすことが必要。この過程で生まれる心の状態こそがニュートラルです。ネガティブな気持ちをポジティブなものに変えるには、ニュートラルな状態を経ることが不可欠なのです。
不安な気持ちは「妄想」だと理解する
それでは、心をニュートラルな状態にする方法を2つご紹介します。
1つ目の方法は、「不安は妄想にすぎない」と客観的に理解することです。これは草薙氏が提案するもので、不安とは頭の中で想像しているだけのただの「妄想」なのだから、それに打ち勝とうとする必要はないのだそう。
不安などの妄想にとらわれないようにするトレーニング方法として草薙氏が挙げるのが、「今日の朝食を思い浮かべる」という方法です。目を閉じて、今朝食べた朝食のことをイメージしたあと、目を開けて目の前の明るい景色を見つめます。そうすると、「いま思い描いたもの(朝食)は頭の中にしかない妄想で、目の前にある景色こそが現実だ」ということを強く自覚することができるのです。とても簡単な方法ですが、これを繰り返すうちに、目の前にある現実と不安などの妄想を切り分けて考えることができるようになるそうですよ。
「あのミスのせいできっと周りから嫌われてしまった」などと不安な気持ちになったときにも、この方法をぜひ試してみてください。妄想を妄想として認識することで目の前の現実だけに集中できるようになり、心がニュートラルな状態になるでしょう。
自分にコントロールできる部分はどこかを考える
2つ目は日本アンガーマネジメント協会の戸田久実氏が推奨する方法で、ネガティブな感情を以下の4つに分解して考えてみることです。
- ネガティブな気持ちを引き起こした問題の中身を具体化する
- 1が自分でコントロールできる問題かどうかを考える
- さらに、自分にとって重要な問題かどうかを考える
- コントロール可能かつ重要な問題についてのみ、すぐ取れる行動を考える
このステップを、「仕事のミスをしてしまい、落ち込んでいる」という状況に当てはめて考えてみましょう。
- 集中力が切れていたために普段はしないようなミスをしてしまい、周りからの信用を損ねてしまった。
- ミスをなかったことにするのは不可能だが、周りの信用を回復することは可能である。
- 仕事において、周りからの信用を回復することは、自分にとって重要である。
- ミスを起こした原因を改めて考えることで再発を防止し、周りからの信用を回復するよう努める。
感情と行動を分離して考え、コントロール可能な部分に集中するというのは、すなわち、不安要素をなくすこと。これにより、感情にとらわれることなく心をニュートラルな状態にすることができます。また、この方法を使うと、「ミスして落ち込んでいたために、またつまらないミスをしてしまった」などの悪循環を防ぐことができるのです。
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アメリカのミシガン大学で行われた研究によると、我々が抱く心配事の80%は起こらないもので、さらに16%は準備していれば対応可能なものだそうです。つまり、心配事の96%は実際には起こらないということ。まさに「心配は妄想にすぎない」わけです。
ですから、ぜひ今回紹介した方法を使って、これらの不安や過去にとらわれすぎることなく今やるべきことに集中してみてください。
(参考)
東洋経済オンライン|心が強い人は「不安は妄想」だと知っている
東洋経済オンライン|心が強い人は「無感情」を習慣にしている
ダイヤモンド・オンライン|心配事・不安の96%は実際には起こらない。考えないのが一番
NIKKEI STYLE|イライラが軽くなる ネガティブ感情のリセット習慣
【ライタープロフィール】
梅野凌矢
東京大学工学部所属。鹿児島県立鶴丸高等学校出身。大学では人間の認知システムを中心に勉強中。大学の吹奏楽団体に所属していて、担当はホルン。趣味は音楽ゲーム、読書など。Perfumeがとても好き。