進学、就職、転職、異動――新しい環境に飛び込むときは、期待と不安が入り混じるもの。頑張りすぎたり、自分らしくない振る舞いをしたりして、徐々に息切れしてしまうのは避けたいですよね。
最高のかたちで新生活スタートを切るために――無理なく新しい環境に慣れるための「10のしないこと」を考えてみました。
新生活では「すべきこと」ではなく「しないこと」を決めよう
「毎朝5時に起きて朝活を始めよう!」
「仕事終わりに勉強することにしよう!」
このように、新生活のスタートを機に、これまでの自分を大きく変えたいと考える人は多いはず。しかし、多くの場合、長続きせずに終わってしまいます。それもそのはず、脳科学者の林成之氏によると、「人は基本的に変化を嫌うもの」なのだそうです。
つまり、新しい環境に慣れようとすることも、変化を嫌う脳にとっては大仕事と言えます。それに加えて、「あれもこれもしよう!」とToDoを増やしたら……脳がパンクを起こすのも当然ですよね。
そこで、無理なく新生活に慣れるために、まずは「しないこと」を決めることをおすすめします。以下は一例ですが、あなたの脳に余裕を確保する助けになるはずです。
まずは「これまで通りの生活」を心がけて
「1. 夜更かし・徹夜はしない」
「2. 食事を抜いたり、食べすぎたりしない」
脳神経外科医の築山節氏は、大きな変化に対応するためには「変わらない部分」を持つことが必要だと述べます。
ここで言う「変わらない部分」とは、基本的な生活習慣のことです。良質な睡眠・食事を基盤とした規則正しい生活を送ることは、大きな変化に対応するための基本中の基本とのこと。不規則な生活を送ると脳の活動が不安定になり、感情に波が立ちやすくなったり、集中して仕事や勉強に取り組む時間が持てなくなったりするのだそう。
新生活だからと、張りきって徹夜をしたり、仕事を優先するあまり食事を疎かにしたりしてはいけません。これまでの生活リズムを崩さないことを心がけましょう。
「『いい人』と思われたい」と思うなかれ
「3. 肩に力を入れたり、作業時に悪い姿勢をとったりしない」
「4. 息が詰まるほど自分を追い込まない」
新生活で新しい人間関係をつくるとき、「『いい人』『できる人』と思われたい」と考えてしまう人も多いはず。こうした「自分をよく見せようとする気持ち」が緊張を招き、気疲れを引き起こすのは、新生活の始まりによくあることです。そんなときは、行動から思考を変えてしまいましょう。
行動心理学に詳しい、コミュニケーションアドバイザーの伊勢田幸永氏によれば、脳は行動に引っ張られる性質があるとのこと。気持ちが張りつめていると感じたら、ぜひ緊張をほぐす行動をとりましょう。
たとえば肩に力が入っていたら、「肩にぐっと力を入れて落とす」のを2~3回繰り返します。縮こまった姿勢になっていたら、体を伸ばしましょう。息が詰まるのも過度な緊張のサイン。浅い呼吸に気づいたら、鼻からゆっくり息を吸うように心がけましょう。
新しい環境で「どこに身を置くか」が大切
「5. 感謝の気持ちを忘れない」
新しい環境に慣れるのに精いっぱいのとき、私たちはついつい感謝の気持ちを忘れてしまいがちです。しかし、「ありがとう」の言葉は、周囲との信頼関係が築けるだけでなく脳の活性化にもつながると、医学博士の川﨑康彦氏は言います。新しい環境に飛び込んだ自分を支えてくれている人への感謝の気持ちは、忘れないようにしましょう。
「6. 自分と違うタイプの人を避けない」
新しい出会いの中には、自分と違うタイプの人との出会いもあることでしょう。しかし、「合わない」と避けるのは早計かも。川﨑氏によれば、人は「物事を理論的にとらえるタイプ(=理論型)」と「物事を感情的にとらえるタイプ(=感情型)」に分類できるとのこと。そして、異なるタイプの人が行動を共にすれば、お互いのいいところが噛み合うと述べます。たとえば、新しい企画を考えるとき、入念な下調べをするといった理論型の計画的な行動は感情型の参考になるでしょうし、感情型の直感的な感覚が理論型にいい影響を与えることもあるはずです。
「7. 自分にとってマイナスになる人とは無理に付き合わない」
とはいえ、愚痴や悪口が多いなど、付き合いがマイナスになりそうな人もいるはず。そんな人は、必要最低限の付き合いだけをして、距離を置いてしまいましょう。ドロップボックス共同創業者兼CEOのドリュー・ヒューストン氏は、「自分を高めるためには、どこに身を置くかが大切」だと言います。「刺激を与えてくれる仲間たちに囲まれることは、才能や勤勉さと同じくらい重要」とのこと。一方で、いい刺激を与え合えない人たちとの付き合いがマイナスになることは、言うまでもありませんね。
つらいときには「なんとかなる」の精神を
「8. 制約をネガティブにとらえない」
「今まではこのやり方で通ったのに……」「やりたいことが思うようにできない……」新しい環境では、思わぬ制約にぶつかることもあります。しかし、制約をネガティブなものととらえるとストレスがたまりますし、キャリアの幅が広がりませんよね。『世界の一流36人「仕事の基本」』の著者・戸塚隆将氏は、制約を課されることは「やりたいこと(=情熱)」を「自分の能力」と「世間のニーズ」で振るい分けできるチャンスだと述べます。窮屈に思える制約も、とらえ方次第では、自分の成長に役立てられるのです。
「9. オン・オフの切り替えを曖昧にしない」
新しい環境に慣れるまでは、通常よりも多くのストレスを抱えがちです。だからこそ、休日に趣味に没頭する、仕事終わりの楽しみを用意しておくなど、自分なりのリラックス方法を身につけておくとよいと、臨床心理士のみらー氏は言います。クタクタに疲れているのに残業したり、睡眠時間を削ってまで勉強したりなど、オン・オフの切り替えがうまくできずにいると、ストレスをどんどんため込むことになるので注意しましょう。
「10. つらいことがあっても、ずっと続くと思い込まない」
慣れない環境でつらい思いをすると、「自分には合わないかもしれない」などと不安を抱くこともあるでしょう。しかし、前出のみらー氏は、「どうにもならない」と思い込んでしまうと、新しい環境に慣れる前に本当にどうにもならなくなってしまうことがあると指摘します。思い込みに沿った行動をとって現実のものになる「予言の自己成就」が、悪い方向に働いてしまうのですね。不安を募ったときは、「今はつらいけれど、誰でも最初はつらくなるし当たり前。そのうちなんとかなる」と、予言の自己成就をプラスに働かせるようにしてください。
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無理なく新生活に慣れるための第一歩は、生活リズムを整えることから始まります。また、最初はうまくなじめなくても、「なんとかなるさ」と明るい気持ちを持つのも大切です。最高の新生活スタートを切れるよう、「10のしないこと」を心がけてみましょう。
(参考)
株式会社日立ソリューションズ|第75回 脳医学者の林成之氏が語る!脳科学で解き明かす!連続的なイノベーションへのリーダーシップと知の創成
築山節(2009),『脳から変えるダメな自分「やる気」と「自信」を取り戻す』, NHK出版.
かんき出版|新しい環境で緊張の連続…あがり症を克服したいなら、「行動心理学」のメソッドが有効!
ダ・ヴィンチニュース|失敗を恐れて職場で緊張…そんな時は「呼吸」で弱ったメンタルを修正できる!
川﨑康彦(2016),『ハーバードで学んだ脳を鍛える53の方法』, アスコム.
戸塚隆将(2017),『世界の一流36人「仕事の基本」』, 講談社.
ねとらぼ|新生活になじめない人へ ストレスを減らすための4つのポイント
【ライタープロフィール】
かのえ かな
大学では西洋史を専攻。社会人の資格勉強に関心があり、自身も一般用医薬品に関わる登録販売者試験に合格した。教養を高めるための学び直しにも意欲があり、ビジネス書、歴史書など毎月20冊以上読む。豊富な執筆経験を通じて得た読書法の知識を原動力に、多読習慣を続けている。