ビジネスパーソンの皆さんは、普段、雑談をしていますか?
「人見知りだから雑談はちょっと……」
「雑談なんて時間の無駄」
「何を話したらいいのかわからない」
このように感じているビジネスパーソンは多いのではないでしょうか?
一見意味がないことのように感じられる雑談ですが、じつは、仕事にも役立つスキルのひとつでもあります。今回は、「雑談はなぜ大切なのか」「どうすれば雑談がうまくなるのか」について考えていきましょう。
雑談はなぜ大切?
コミュニケーション総合研究所代表理事の松橋良紀氏は、「人間関係を築くのは雑談力次第である」と説明します。松橋氏いわく、人は、雑談を通して、相手の人柄や誠実さを嗅ぎ取り、相手が信用できるか否かを判断しているのだそう。
「この人の言う事なら信じてみよう」と思われるか、「こいつ、しょうもないやつだな。関わるのはやめておこう」と思われてしまうかは、何気ない会話で伝わってしまうのです。
(引用元:リクナビNEXTジャーナル|人間関係を築きたいなら、まず「雑談力」を磨こう)
たとえば、初対面の営業パーソンに、開口一番に商品の完璧なプレゼンをされたとしても、その人を信用できなければ胡散臭く感じられてしまうかもしれません。しかし、プレゼンの前に交わした何気ない雑談の中に、その人の「悪い人ではなさそう」な一面が垣間見えたり、誠実さが感じられたりすれば、すすめられた商品にも興味が持てますよね。
また、同じ社内の人間が相手でも、事務連絡しか交わしたことのない同僚より、普段から雑談を交わす同僚のほうが信頼できるでしょう。日頃から雑談を交わす相手が困っているときには、関わりのない相手が困っているときよりも、積極的に手を差し伸べてしまうかもしれませんね。雑談は、人間関係と同時に、仕事の進めやすさも円滑にするのです。
さらに、雑談はチームワークを高め、売上を伸ばすという研究結果も出ています。マサチューセッツ大学の教授であり、フォーブス誌が “7 most powerful data scientists in the world(世界で最も有力なデータサイエンティスト7人)” の1人として紹介したサンディ・ペントランド氏は、従業員たちの交流を調査しました。すると、実績を出しているチームは雑談の量が多いということが判明したそう。
また、ペントランド氏がHarvard Business Reviewで発表した記事によると、コールセンターの従業員を調査した際にも、雑談の多いチームは、そうでないチームよりも売上が高かったと言います。
一見、無駄な時間のように感じられる雑談は、むしろ賢い時間の使い方だと言えますね。
しかし、雑談といっても、何を話したらいいのかわからないという方や、コミュニケーション能力に自信がないという方もいるでしょう。どうすれば雑談力を磨くことができるのでしょうか。以下で詳しくご紹介します。
1. 情報をギブ・アンド・テイクする
脳科学者の茂木健一郎氏によると、「いい情報は人によってもたらされる」のだそう。
現代はインターネットからさまざまな情報を得られますが、それらの過剰にあふれている情報は、誰もが発信できるものですし、重要な情報とそうでないものを見分けるのが難しくなってきています。
結局のところ、質の高い情報は、ある程度信頼のできる人と話をしてこそ得られる場合が多いのです。情報は人によってもたらされるもので、それを手に入れる場所が雑談なのだと、茂木氏は語っています。
良い情報を手に入れる方法は、まずは相手の役に立ちそうな情報を提供することです。自分から積極的に良い情報を話す人になれば、それを聞いた人も「私もこんな情報を知っていますよ」とお返ししたくなるものです。情報は「ギブ・アンド・テイク」するもの、与えるのともらうのがセットで成り立つものだと考えましょう。
茂木氏は、雑談のネタになるような情報を積極的にインプットすることを推奨しています。
自分の本業や好きな事、趣味などについては、誰もが積極的に情報を仕入れようとするので、その過程で「これは◯◯さんが好きそうだ」「△△さんが知ったら、喜びそうだ」と思えるものを記憶にインプットしておきます。最初はそれだけで十分です。実際に本人に会ったら、「この前、こんな情報を聞いたんだけど」と教えるだけ。
(引用元:茂木健一郎(2018),『最高の雑談力』, 徳間書店.)
たとえば、同じ職場の他部署の同僚に、相手の知らなそうな社内の情報を雑談がてら共有してみてはいかがでしょう? 自分にとっては当たり前な情報でも、相手にとっては仕事に役立つ話かもしれませんし、単純に新鮮でおもしろいかもしれません。
仕事に限らず、休日に観た映画がおもしろかったのであれば、映画が好きそうな同僚にシェアするなど、プライベートの情報でもいいのです。そこから会話が発展したり、相手の思いがけない一面を見られることを楽しみましょう。
相手が喜ぶ情報であれば、その人も役立つ情報を教えてくれるでしょうし、たとえ喜ばなくても悲観する必要はありません。誰かが喜びそうなネタを仕入れていくことで、自分の情報の精度も上がっていきます。
2. 相手のニーズに応える
茂木氏によると、雑談は楽しむものであり、クリエイティブなもの。そして、クリエイティブな雑談の方法として「アドリブ能力」を挙げています。茂木氏いわく、雑談が苦手な人は「アドリブに弱い」のだとか。
雑談とはライブですから、次に何が起こるか、どういう展開になるかはまったく予想がつきません。(中略)目の前の相手とうまく雑談するためには、当意即妙、かつ融通無碍に対応していくしかありません。そういうアドリブ能力のある人が、雑談の達人です。同時に、仕事ができる人です。
(引用元:茂木健一郎(2018),『最高の雑談力』, 徳間書店.)
アドリブ能力とは、相手のニーズを的確につかんで、それを上回る対応をすることのようです。
たとえば、取引先から予算内で対応できないような内容を要求された際に、「それはできません」と、きっぱりと言ってしまえば関係が悪化しますよね。「ぜひお客様のご要望に応えたいです。ただ、ご希望のクオリティを達成するためには、通常より高いコースにはなってしまいますことをご了承いただけますか? 必ずご満足いただけるような結果にしますので、ぜひ私どもにお任せください」のように、相手にとって納得でき、かつ期待以上のものを出してもらえそうな話し方をすれば、信頼してもらえる可能性が高まるでしょう。
上手な切り返しをするには、利他的な精神を見せることが大切です。対応が難しそうな内容が話題にあがっても、すぐにあきらめてしまえば会話も弾まなくなります。前述した例のように、相手にとってプラスになりそうなことを考えて提案してみましょう。ニーズに応えるアドリブを心がければ、自然と会話も円滑になるはずです。
3. 「場数」を踏むことが重要
相手の喜ぶ情報を提供することや、ニーズに応えるアドリブ力が大切であると説明してきましたが、やはりお喋りが苦手な人や、雑談への苦手意識が拭えない人にとっては、抵抗があるかもしれません。
コツはわかっていても自分にはできそうにない、と感じてしまう人へのアドバイスとしては、「場数」を踏むことをお勧めします。苦手なことの場数なんて踏みたくない、と感じてしまうかもしれませんが、「ドーパミン」の力を使えば、苦手なことの上達を喜びへと変えていくことができるのです。
ドーパミンは中枢神経に存在する神経伝達物質で、快の感情、意欲、学習などに関わっており、ドーパミンが増えると、楽しさや幸福感を感じられるのだそう。このドーパミンは、物事に対して努力し、成果や報酬が出た際に、脳内で放出されることがわかっています。
報酬物質とも言われるドーパミンですが、とくに新しいことに反応しやすい性質を持っているそう。慣れない人と雑談するシチュエーションは、まさにドーパミンが出やすいと言えるでしょう。
会話がうまくいけばドーパミンが放出され、人と雑談することが楽しくなり「もっといろいろな人と話したい」と感じるようになるのです。
失敗することもあるかもしれませんが、それを恐れて引っ込み思案でいると、いつまでもドーパミンが放出されません。何度も雑談を繰り返すことで慣れ、会話がうまくいくようになり、ドーパミンが出るようになり、もっと話したくなり……。という好循環を作っていきましょう。
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グローバル化が進む現代では、さまざまな価値観の人たちと雑談できる力を蓄えておくことが、仕事の幅を広げるうえでも必要になってくるでしょう。雑談には、予測できない展開が多く、苦手意識を持つ人にとっては辛いことかもしれませんが、相手に役立ちそうな情報を日頃から探したり、場数を踏むことを心がけたりして、一歩ずつ雑談力の高い人を目指してみてはいかがでしょう?
(参考)
リクナビNEXTジャーナル|人間関係を築きたいなら、まず「雑談力」を磨こう
茂木健一郎(2018), 『最高の雑談力』, 徳間書店.
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【ライタープロフィール】
Yuko
ライター・翻訳家として活動中。科学的に効果のある仕事術・勉強法・メンタルヘルス管理術に関する執筆が得意。脳科学や心理学に関する論文を月に30本以上読み、脳を整え集中力を高める習慣、モチベーションを保つ習慣、時間管理術などを自身の生活に取り入れている。