自分は仕事や人間関係でストレスフルな状態。一方で同僚は、楽しく働きながら結果も出している……。「この違いは何?」と思ったことはありませんか?
彼らは仕事で失敗したときや思い通りにいかないとき、最強メンタルになれる「合言葉」を心のなかで唱えているのかもしれません。その合言葉とは、「まあいいか」。
英訳すると「oh well」になることから、さまざまな物事を「まあいいか」と受け流せるこの思考を「オーウェル思考」といいます。では、なぜ「オーウェル思考(=まあいいか思考)」が成功を引き寄せる最強メンタルなのでしょうか。その理由をご説明しましょう。
「まあいいか思考」が成功を引き寄せる3つの理由
「まあいいか」と思える人には、仕事での成功に必要な3つの能力が備わっています。
1. 集中力をキープできる
人材コンサルタントで多くのビジネス書を手がける吉田幸弘氏は、「まあいいか思考の人は許容範囲が広く、イライラすることが少ないため、高い集中力を維持できる」と説きます。集中力をキープできると仕事のペースが早くなり、能力が高いと周囲から評価されやすいとのこと。
一方で許容範囲が狭く、他人のすることにイライラしてしまう人は「マスト思考」をしていると吉田氏は言います。彼らは「must(すべき)」というルールに縛られ、そのとおりにならないと気持ちが乱されて集中力が低下しやすいため、高いパフォーマンスを発揮できません。
たとえば、呼び出した部下がなかなか来ないとき。「上司の呼び出しには30秒以内に駆けつけるべき」と考えるマスト思考の上司は、部下にイライラして集中力が低下してしまいます。一方で「まあいいか思考」の上司なら、「急ぎの用事を片づけているのだろう」と考え、イライラせず落ち着いて本来の仕事に取り組めるのです。
2. 気持ちをうまく切り替えられる
30年以上の長きにわたって『島耕作』シリーズを手がけている漫画家の弘兼憲史氏は、「とにかく “まあいいか” と思うようにしている」と語る、最強メンタルの持ち主のひとり。
なぜ「まあいいか」と思うようにしたのか、それは「どうにもならないことをくよくよ悩んでも、精神衛生上よくないし、時間と労力の無駄だから」と、弘兼氏は言います。うまく気持ちを切り替えられるからこそ、長く活躍できるのかもしれませんね。
たとえば、仕事で失敗したとき。「自分はなんてダメなやつなんだ」と自分を責めても、過ぎたことなのでどうにもなりません。それより「まあいいか、今後は同じ間違いを繰り返さないように気をつけよう」と前を向くほうが、ミスは減り成功を引き寄せられるでしょう。
3. チャレンジ精神
ビジネスで成功するには「チャレンジ精神」が必要不可欠。そして「まあいいか思考」の人にはその精神があると、精神科医の和田秀樹氏は述べます。
先ほどお伝えしたように、失敗しても「まあいいか」と楽観的に考えられるのが彼らの強み。楽観的に考えられた結果、「今度はできる」→「やっぱりできた」→「また挑戦しよう」と、よい思考のサイクルが生まれるのだそうです。
もしコンペで落選したとき、「自分には向いてない、もうやめよう」と考える人よりも、「まあいいか、今回のアイデアをブラッシュアップして別のコンペにも出してみよう」と、失敗を財産にして次にチャレンジできる人のほうが、のちのち大きな成功を収めることは言うまでもありません。
では、「まあいいか思考」になるにはどうすればいいのでしょうか? 3つの方法をお教えしましょう。
【まあいいか思考になる方法1】知的謙虚さをもつ
「すべき」という考えにとらわれて、他人のしていることが気になり仕事に集中できない人は、「まあいいか思考」の人がもつ「知的謙虚さ」を意識するとよいと和田氏は説きます。知的謙虚さとは、自分のなかにある正解を絶対だと思わないことです。
人それぞれの考えを認め「まあいいか」と許容範囲を広くもてば、自分の作業に集中できるようになるのは先述のとおり。加えて、仕事がうまくいかないときにも知的謙虚さは役立ちます。たとえば、自社サービスの顧客満足度が落ちている場合。「事前に考えたプランは間違えていないはず」と固執するより、「顧客にサービスについて改めてヒアリングしよう」「部下の意見も取り入れてみよう」と自分の正解だと信じている事柄を疑ったほうが、問題点を早急に見つけて対処できることもあるはず。
知的謙虚さを身につけるトレーニングとして和田氏がすすめるのは、本やニュースに出てくる、「人に自信をもって説明できない言葉」を調べることです。仮に「アーティストが曲のさわりだけ生歌を披露しました」というニュースがあったとして、あなたは「さわり」の意味はわかりますか? 「曲の始まりじゃないか?」と自信なげに答えた方はいないでしょうか。正解は「サビの部分」です。
こうして、わかったつもりになっている言葉を改めて調べる過程で「自分の正解は思い込みに過ぎないかもしれない」と気づくことが、知的謙虚さを身につけるよいトレーニングになるそうですよ。
【まあいいか思考になる方法2】他人の目を気にしない
どうにもならないことを悩んでしまう人のなかには、他人に否定されたくない気持ちが強い人もいるかもしれません。そんな気持ちを抱えたままだと、なかなか「まあいいか」とは思えないものです。
「まあいいか思考」の人は、他人の目を気にしないと和田氏は言います。なぜなら、相手の気持ちを勝手に予想しても的外れであることが多いから。たとえば仕事がうまくいかないとき、「できない部下だと上司に思われたかもしれない」という考えがよぎっても、それが上司の真意とは断言できません。それよりも「まあいいや、考えても仕方ない」と切り捨てて、自分がすべきことを考えるほうが余計なストレスがかからず、最高のパフォーマンスを発揮できると思いませんか?
そうはいっても、「じゃあ他人の目を気にせず振る舞おう」となかなか器用には切り替えられませんよね。元僧侶で自己啓発に関する数多くのベストセラーをもつ小池龍之介氏は、まず、他者に否定されたくない欲望を素直に認めることをすすめています。
そのうえで、「他人に否定されたくない欲望」と「好きに振る舞いたい欲望」を天秤にかけ、どちらかを自分の意志で選ぶのです。前者を優先させてもかまいませんが、後者を優先させて「好きに振る舞ってもまわりは案外気にしないものだ」と気づけば、次第に他人の目が気にならなくなるとのこと。まずは、自分の素直な気持ちに耳を傾けることから始めてみてください。
【まあいいか思考になる方法3】自分は運がいいと信じる
「まあいいか思考」の人にチャレンジ精神があるのは、「自分は運がいい」という考えが根底にあるからだと、和田氏は述べます。「自分は運がいい」と信じていると、物事に対して素直になり、最終的には幸福な状態へ必ずたどり着けると考えられるそう。したがって、たとえ失敗しても、「まあいいか」と現状を楽観的に受け止めて新しい挑戦ができるのです。
一見、非科学的な話ですが、この考えは認知心理学から見ても有効なのだとか。認知(=ものの見方)は、私たち人間の思考や行動に非常に大きな影響を与えるからです。とはいえ、「自分は運がいい」と信じるのは難しい……という人は、まずほめ言葉を素直に受け取ることから始めてみましょう。ここで斜に構えてしまうと、そもそも自分を信じることができなくなってしまいます。
ただし、単にほめ言葉を素直に受け取り現状に満足しているだけでは、チャレンジ精神は育ちません。そこでさらに、自分を客観視する「メタ認知」を気持ちのブレーキ役に据えるといいとのこと。たとえば、上司にほめられたとき。感謝の気持ちを述べつつ「まだまだ勉強不足だ」と自分の立ち位置を客観視するようにしてみてください。そうすれば、「勉強不足なのはたしかだけれど、ほめられたことは事実なのだから、まあいいか」と受け止められるようになり、仕事での成功もうまく引き寄せられるようになるでしょう。
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適度に肩の力を抜き、仕事のパフォーマンスを高めてくれる合言葉の「まあいいか」。ストレスフルになったときは、ぜひ心のなかで唱えてみてくださいね。
【ライタープロフィール】
かのえ かな
大学では西洋史を専攻。社会人の資格勉強に関心があり、自身も一般用医薬品に関わる登録販売者試験に合格した。教養を高めるための学び直しにも意欲があり、ビジネス書、歴史書など毎月20冊以上読む。豊富な執筆経験を通じて得た読書法の知識を原動力に、多読習慣を続けている。
(参考)
マネー現代|仕事が早く終わる人の特徴、「オーウェル思考」とは何か?
ダイヤモンド・オンライン|“まあいいか、それがどうした、人それぞれ”人生を心から楽しむための3つの言葉。
和田秀樹(2016),『「おめでたい人」の思考は現実化する』, 小学館.
小池龍之介(2015),『こだわらない練習 「それ、どうでもいい」という過ごしかた』, 小学館.