あの人と会話をすると、なんだか心地よく、受け入れられていると感じる。つい、普段は職場でいわないようなことまで話してしまった……。
そんなふうに、他者が思わず心を開いてしまう人を、心理学では「オープナー」と呼びます。上司や部下に同僚、先輩や後輩、取引先の担当者が、なかなか自分に心を開いてくれないとお悩みの方に、オープナーになる方法を紹介します。
心理学の「オープナー」とは?
心理学におけるオープナー(opener)とは、相手の自己開示(自分の気持ちや個人の情報を、ありのままに伝える)を引き出すのが得意な人のこと。開示者をリラックスさせ、ごく自然に「この人に話しちゃおうかな……」という気にさせてしまいます。
現在南カリフォルニア大学にいるリン・キャロル・ミラー(Lynn Carol Miller)博士や、上越教育大学の越良子教授らが行なった過去の研究によると、オープナー特性が高い人は、開示者の精神状態を良好にし、開示者から好かれることが示されているそうです。
仕事でもプライベートでも、コミュニケーションをとるうえで非常に役立つスキルですね。ミラー博士の調査によると、オープナーの心理学的な特性は次のとおりです。
- 自己認識力(※)が高い。
- 人々の周囲にいると心地よく感じる。
- →つまり、総じて人間が好きである。
- 視点を変えて物事を見る能力が高い。
(※自己認識とは、自分の感情や強み・弱み、目的などを認識できていること)
自分が「オープナー」である可能性
Millenium Challenge Corporation の政策フェローであるマリサ・フランコ(Marisa Franco)博士は、『Psychology Today』内で、リン・キャロル・ミラー博士らが作成したオープナーであるかどうかを評価するアンケートを紹介しています。
日経ビジネススクール講師で、産業組織心理学、社会心理学の専門家である三上聡美さんの言葉を参考にしつつお伝えします。
- 人々は頻繁に、自分自身のことをわたしに話す。
- よく、聞き上手だといわれる。
- わたしは、大いに他者を受け入れようとする。
- 人々は、わたしが秘密を守ると信頼してくれる。
- 人々は、わたしに対し、とても簡単に心を開いてくれる。
- 人々は、わたしといるとリラックスしてくれる。
- わたしは、人の話を聞くのが好きである。
- わたしは、人々が抱えている問題に同情しやすい。
- わたしはよく人々に、何を考え、どう感じているか話すようすすめる。
- 人々が自分自身のことを話し続けられるように、わたしは相手の話の腰を折らない。
もしも、「けっこう当てはまる」と感じたなら、あなたはオープナーかもしれません。
「まったく当てはまらない」と感じたなら、次に紹介する「オープナー」になる方法を試してみてはいかがでしょう。どれも実践しやすい内容ですよ……!
「オープナー」になる方法
フランコ博士は、ミラー博士の研究にもとづき、「オープナーになる方法」を5つにまとめてくれました。かみ砕いてお伝えします。
- 相手の話に集中し、言葉をさえぎることなく、最後までしっかりと聞く。
- 人の話を聞いている際、「わかるわかる」と自分の感情や好みに合う場合のみ共感するのではなく、相手の立場になって感情移入し、なおかつ否定もしない。たとえば相手が「〇〇されてガックリした……」といったら、「そんなの大したことないよ」「そういえばわたしも――」などというのではなく、「うわー、それはつらいねー」といった具合に反応する。
- 他者を理解するために、まずは自己認識を養う。自分で自分に対し客観的になり、どう感じ、どう考えているかを常に意識する(たとえばイライラしたら、「何をイライラしてるの?」と自分に話しかけるのもおすすめ)。それにより、他者に対してもさまざまな視点で見ることができるようになる。
- たとえば同じ映画を観た人、同じ本を読んだ人に対し、どう感じ、どう思ったか質問してみる。その相手が、自分と同じ感覚をもっているかどうか確かめるわけではなく、他者がどんなふうに考えるのか知るため。
- 人の話を熱心に聞くと、その相手と親交を築いていくことができる。相手があなたに自分自身のことをさらけだしたら、それはあなたを信頼している証拠。そうした「人々の声に耳を傾ける喜び」のひとつひとつを見つけていく。
「オープナー」になる、もうひとつのアドバイス
もしもあなたが、「自分は会話が下手だから、逆立ちしてもオープナーになんかなれない」と考えているなら、決してそうではありません。
「うまく話さなきゃ」と、自分の言葉や所作だけに意識を向けてはいませんか? その意識を相手に向けてみたとき、世界がガラリと変わる可能性があります。
日経ビジネススクール講師の三上聡美さんは、「何を話したらいいのかわからない」と不安になったり、自分がうまく話すことを重視したりする前に、まずは相手の話に耳を傾けるようアドバイスしています。
結果として、関心を寄せられた相手は少しずつ心を開き、熱心に聞いて秘密も守ってくれるあなたを信頼するようになるでしょう。
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フランコ博士がまとめた「オープナーになる方法」の5番目にあるように、オープナーであることは、いくつもの喜びを得られることにほかなりません。
ぜひとも、チャレンジしてみてくださいね。
(参考)
Psychology Today|How to Get People to Open Up
PsycNET|Openers: Individuals who elicit intimate self-disclosure.
日本心理学会第78回大会|多次元オープナー尺度の検討-コミュニケーション参与スタイル、他者発言頻度との関連-
マイナビウーマン|失敗したことを気楽に言う上司の心理「オープナー」とは?
越良子, 塚脇涼太, 平山菜央子(2009),「自己開示における被開示者の特徴の検討--開示者の開示動機との関連から」, 上越教育大学研究紀要, Vol.28, pp. 29-39.
STUDY HACKER|「いるだけでチームの雰囲気が良くなる人」はSQが高い。“10個の特徴” あなたはいくつ当てはまる?
QT PROモーニングビジネススクール|オープナー(三上聡美 産業組織心理学、社会心理学)
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