脳をしっかり働かせて、仕事や勉強のパフォーマンスを高めたい――そう考えるのなら、まずは「口癖」を変えることから始めてみませんか?
じつは、つい口にしてしまうフレーズが、脳を萎縮させたり思考力を低下させたりと、脳に最悪な影響を与えている可能性があるのです。今回は、脳の働きを抑え込んでしまう「悪い口癖」を3つご紹介します。日頃言いがちな言葉がないか、確認してみてください。
1.「疲れた」「嫌い」は脳機能を低下させる
仕事中や勉強中に「疲れた」「おもしろくない」「嫌いだ」などと、無意識のままつい愚痴をこぼしていませんか。こういった否定的な言葉は、脳に悪影響を及ぼし思考力を低下させる原因になるため、意識的に改善したほうがよさそうです。
脳医学者でベストセラー『脳に悪い7つの習慣』著者の林成之氏によれば、否定的な言葉は自分が言うのも、誰かが言っているのを聞くのもよくなく、脳にとって悪影響しかないのだとか。その理由は、否定的な言葉を発したり耳にしたりすることで、脳の「A10神経群」という部位が反応し、目の前のやるべきことに対してマイナスのレッテルを貼ってしまうから。
林氏の説明によれば「A10神経群」とは、危機感や感動、好き・嫌い、おもしろい・つまらないといった感情をつかさどる神経核が集まる部位。目や耳から入ってきた情報に感情のレッテルを貼る役割を担っているそう。そして、貼られたレッテルはその後の脳の働きによくも悪くも影響を与えます。
たとえば、仕事や勉強について「嫌い」「つまらない」など否定的な言葉を発すると、脳には嫌悪感が植えつけられます。その仕事や勉強に対し、脳は活発に働かなくなり、意欲も低下することに。
反対に、「おもしろそう」「好き」などのフレーズでポジティブなレッテルを貼ると、脳の働きが高まり、理解力や判断力、思考力、記憶力が格段に上がるそう。
興味のもてないことについて「好き」「おもしろそう」などと言うのは、最初は難しいかもしれません。しかし、ネガティブなとらえ方を改めることは、確実に脳へプラスの循環を生み出します。
否定的な感情により働きを抑え込まれた脳は、マイナスのレッテルを貼られた物事について、理解しづらいし覚えづらいという状態。一方、ポジティブなレッテルにより判断力や理解力などが高まる(これを「同期発火」という)と、脳は「なるほど!」「もっとやってみたい!」という気持ちを起こしやすくなります。それが意思決定や記憶をつかさどる部位にも伝わり、新しい発想や記憶がしやすくなって学びがどんどん加速していくそう。
取り組まなくてはならない仕事や勉強があるときは、「嫌だな」と愚痴を言うのではなく、「おもしろそう」とポジティブな言葉を発すること。これによってよい循環を起こして脳機能をアップさせましょう。
2.「自分は運が悪い」は脳を萎縮させる
臨床心理士でメディアにも多く出演する山名裕子氏によると、「自分は不運だ」と言ったり思ったりしていると、脳が萎縮して行動の幅が狭まり、失敗への恐怖が高まってしまうそう。
反対に、「自分は運がいい」と言うと、脳が幸福感に包まれるのだとか。というのも、脳に「自分は幸運のもとに生まれたんだ」と認識させることができるためです。これには、特別扱いされると嬉しく感じる心理をくすぐる「ハード・トゥ・ゲット・テクニック」という心理学的な効果が関係していて、「自分は運がいい」という口癖が「自分は特別だ」と自分自身に言い聞かせることにつながり、脳に幸福感をもたらすのだと言います。
幸福を感じていると、人は思考がポジティブになるもの。行動の幅が広がり、新しいチャンスが舞い込んでくる可能性も高まるでしょうし、その際に勇気をもって飛び込むこともできますよね。
また、「自分は運がいい」という口癖は、さらに嬉しい効果ももたらします。山名氏によると、「運がいい」とよく言う人のまわりには自然と人が集まってくるそう。「運がいい人に乗りたい、サポートしたい」という人からの力を受けやすくなり、さらに成功率が上がるのだとか。
謙虚が美徳とされがちな日本社会には、つい「私は運が悪い」と考えてしまう人もいるかもしれません。ですが、そのセリフは脳にとって最悪です。積極的に「運がいい」と言うようにしてみてください。謙虚になるなら、「自分の実力はそれほどでもないけれど、まわりに恵まれているからラッキーを引き寄せられた」というポジティブな謙虚さをもちましょうね。
3.「許せない」は脳が老化しているサイン
「許せない」と口にしたり、許せない相手を攻撃したりするのは脳が老化しているサインなので、すぐにやめたほうがいいようです。
脳科学者の中野信子氏によると、多くの人が「間違ったことをしている人を攻撃するのは当然だ」と思い込む「正義中毒」に陥ってしまっているそう。裏切り者や社会のルールから外れた人など「わかりやすい攻撃対象」を見つけ罰すると、脳内で快楽物質のドーパミンが放出されます。それにより覚えた快感は依存性が高いため、中毒となってしまうわけです。
中野氏いわく、正義中毒の人は、相手を許せない自分に対してもいらだち、苦しんでいるとのこと。また、相手の主張のいい点を取り入れることもできないため、おのずと視野が狭くなってしまうと言います。
このように「許せない」と感じてしまうのには、脳の仕組みが関係しているそうです。高齢者が相手に有無を言わさず、自分が正しいと思い込んでいる主張ばかり繰り返すことがありますよね。中野氏によれば、これは前頭葉の背外側前頭前野が衰え、脳が老化したことが原因なのだそう。すると、思考が硬直化し、自分の思想以外は自動的に却下してしまう確証バイアスが働き、どんどん保守化していくとのこと。
「許せない」とつい言ってしまいがちな人は、正義中毒から抜け出すとともに、脳を老けさせないための対策をしましょう。中野氏がすすめる3つの方法をご紹介します。
- 自分や人の愚かさを許し、客観性をもつ
まずは、人を許せない自分を許し、他者の愚かさを「人間なんだから仕方ない」と諦めることです。そして自分を客観視することも大切。何かに「許せない」と思ったときは、感情が膨らむ前に一度その物事から離れ、あとで「自分は正義中毒になってなかっただろうか」と振り返りましょう。
- 脳を老けさせない対策をする
- 心と時間の余裕をつくりましょう。精神的に追い込まれていると、落ち着いて物事を考えることが困難になるからです。
- 新しい体験を積極的にしましょう。関心のないトピックの本を読む、普段は通らない道を歩く、新しいことを学ぶなどするとよいですね。
- 前頭前野を鍛えるために食事や生活習慣を見直す
- 前頭前野の働きに有効なのはオメガ3脂肪酸(不飽和脂肪酸)。サケやマグロなどの魚類、カキなどの貝類、クルミなどのナッツ類であれば、日頃の食事に取り入れやすいはず。
- 脳のために、睡眠時間をしっかり確保します。ときには昼寝するのもいいでしょう。
「許せない」と口にしてしまう機会を少しでも減らして、“脳に最悪” な状態を脱したいものです。
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当てはまる口癖があった人は、代わりにいい習慣や口癖を取り入れて、脳によい行ないを日々心がけてくださいね。
(参考)
幻冬舎plus|「嫌だ」「疲れた」を口にすると脳がどんどん悪くなる
プレジデントオンライン|何にも長続きしなかった原因はこれだ!
月刊 元気通信|その習慣、もしかしたら脳に悪いかも?!あなたの脳タイプをチェック!
日立ソリューションズ|「同期発火」が組織を強くする。
ダイヤモンド・オンライン|脳が幸福感に包まれる「魔法の口ぐせ」とは?
Oggi.jp|あなたの脳は正義に溺れた「正義中毒」という依存症に陥っているかも?
中野信子(2020),『人は、なぜ他人を許せないのか?』, アスコム.
【ライタープロフィール】
Yuko
ライター・翻訳家として活動中。科学的に効果のある仕事術・勉強法・メンタルヘルス管理術に関する執筆が得意。脳科学や心理学に関する論文を月に30本以上読み、脳を整え集中力を高める習慣、モチベーションを保つ習慣、時間管理術などを自身の生活に取り入れている。