【脳生理学者が解説】社会人が「ストレスフリー」でいるための超基本的な5つの日常習慣

有田秀穂先生インタビュー「セロトニンとオキシトシンの効能」01

仕事をしている限り、切っても切れない関係にある「ストレス」。理不尽でわがままな上司や取引先に振り回され、「ストレスに押しつぶされそう……」と嘆いている人もいるのではないでしょうか。

ただ、仕事にストレスはつきものとはいえ、できればなるべくストレスを感じない毎日を送りたいものです。ストレスに関する著書も多い脳生理学者の有田秀穂(ありた・ひでほ)先生は、ふたつの神経伝達物質が鍵だと語ります。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人

「ストレスに強い人」など存在しない

世のなかには、「ストレスに強い人」と「ストレスに弱い人」がいると考えられがちです。でも、ストレスに強い人など存在しないと考えてもらったほうがいいでしょう。なぜなら、どんな人であっても過剰なストレスを受ければストレス性疾患をわずらいますし、疾患が長引けばうつ病を発症する可能性も十分にあるからです。

では、どうして私たちはストレスを感じるのでしょう? 答えは、脳に「ストレス中枢」というものがあるからです。ストレスを受けると、ストレス中枢が活性化して興奮し、脳や身体の各所に司令や情報を発信します。その司令や情報はさまざまで、たとえば外部の危険に対処するためのものもあります。

ストレス中枢が備わっている最大の理由は、自分の生命を守るためです。外部からくる刺激は、人間にとって心地よいか不快かのどちらかしかありません。自身に危険を及ぼしそうな不審者や猛獣がすぐそばにいたとしたら、その刺激は不快なものですよね。その不快な刺激を放っておけば、生命が危険にさらされます。そういった不快な刺激から生命を守る、いわば危機管理センターの役目を果たしているのが、ストレス中枢なのです。

ですから、ストレス中枢というのは我々にとってとても大切なものであり、生存のために必要だからこそ、ストレスを感じるということです。しかし、すでにお伝えしたように過剰なストレスがストレス性疾患を招くことも事実ですから、不要なストレス中枢の興奮はなるべく鎮めることが大切になります。

有田秀穂先生インタビュー「セロトニンとオキシトシンの効能」02

ストレスを受けてもすぐに回復させる「セロトニン」

そうなると、ストレス中枢の興奮を鎮める必要が出てきます。そこで活躍するのが、「セロトニン」「オキシトシン」というふたつの神経伝達物質です。

セロトニンは「幸せホルモン」とも呼ばれ、心の元気をつかさどる神経伝達物質。しかしこのセロトニンは、「ストレスと戦う」といった性質をもっているわけではありません。セロトニンの性質を、私はいつも置き物の「だるま」に例えます。手足がないだるまは小突かれると簡単に転んでしまいますが、すぐに起き上がります。いわば、「復元力」をもっているのです。

セロトニンがもたらしてくれるのも、この復元力です。ストレスを受けて心にダメージを負ったとしても、セロトニンの働きでだるまのようにすぐさま起き上がることができる。先に「ストレス中枢の興奮を鎮める」と言いましたが、厳密にはセロトニンによって「ストレスから回復する」ということです。

このセロトニンの分泌を促すには、朝からの活動が重要です。なぜなら、セロトニンは起床したときから夜に寝るまでのあいだに分泌され、睡眠中は基本的に分泌されないものだからです。そのセロトニンの分泌を促す活動が、「歩行」「呼吸」「咀嚼」の3つのリズム運動となります。

歩行ならウォーキングやジョギングのほか、エアロバイクでもいいでしょう。呼吸ならヨガやマインドフルネスの呼吸法にマインドフルネスのもととなった禅の呼吸法、また歌を歌うことや読経も含まれます。最後の咀嚼は、毎食よくかんで食べるということのほか、ガムをかむことを習慣化してもいいと思います。

セロトニンの分泌を促す活動

  1. 歩行:ウォーキング、ジョギング、エアロバイク
  2. 呼吸:ヨガ、マインドフルネス、禅の呼吸法。読経。歌を歌う
  3. 咀嚼:よくかんで食べる。ガムをかむ

有田秀穂先生インタビュー「セロトニンとオキシトシンの効能」03

直接的にストレス中枢の興奮を鎮める「オキシトシン」

ストレス中枢の興奮を鎮めるための、もうひとつの鍵となる神経伝達物質がオキシトシンです。オキシトシンは、まさにストレス中枢の興奮を鎮めるというそのままズバリの力をもっています。

いかにセロトニンを分泌する活動をしたとしても、1日仕事をすれば多かれ少なかれストレス中枢が興奮した状態になっています。その興奮を、今度は夕方から寝るまでのあいだにオキシトシンの分泌を促して鎮めることが大切なのです。そのオキシトシンの分泌を促す活動は、「皮膚の触刺激」「会話」です。

前者はマッサージがおすすめですね。ヘッドマッサージやアロママッサージ、リフレクソロジーなど、みなさんの生活圏にもなんらかのマッサージ店があるはずです。帰宅中にそういった店に訪れるといいでしょう。

もうひとつが会話。コロナ禍のいまは難しいですが、仕事帰りに仲間と飲み会をすることもオキシトシンの分泌を促してくれます。ただ、「心地よい」ことが大前提となりますから、苦手な上司と飲むようなことは避けたほうがいいですね。また、オキシトシンの分泌を促すには30分も会話をすれば十分ですし、過剰なアルコール摂取は当然ながら身体によくありませんから、深酒は禁物です。

そういう意味では、女性は会話が得意かもしれません。アルコールがなくとも仲がいい友だちといくらでもおしゃべりできるという女性は多いのではないでしょうか。「友だちとおしゃべりをするとすっきりする」ことの効果は、オキシトシンによるものなのです。

オキシトシンの分泌を促す活動

  1. 皮膚の触刺激
  2. 会話

有田秀穂先生インタビュー「セロトニンとオキシトシンの効能」04

セロトニン&オキシトシン分泌を促すための注意点

ここで紹介した方法はどれもストレスに対処するために有効なものです。また、どれが一番効果的とか、何かひとつを習慣化しなければならないといったこともありません。「昨日の朝はジョギングでちょっと無理をしたから、今日はゆっくり散歩しよう」といった具合に、気分によって何をしてもいいのです。むしろ、飽きずに長く続けるためにも、たくさんの引き出しをもっておくことが大切です。

最後に少しだけ注意点もお伝えしておきます。セロトニンの分泌を促す活動に「歩行」があります。歩くだけなら、通勤時にしているという人も多いですよね。でもじつは、そういう歩行はセロトニンの分泌を促すことにはなりません。というのも、歩行に「集中する」ことが大切だからです。地方に住んでいる人なら問題ないかもしれませんが、目や耳などから外部の余計な刺激がたくさん入ってくるために歩行に集中できない都市部に住んでいる人は、通勤時の歩行とは別にウォーキングなどをすることが必要です。

また、オキシトシンの分泌を促す「会話」にも注意点があり、チャットなど文字によるコミュニケーションにはこの効果はありません。顔や目の表情、しぐさといった非言語の部分が、オキシトシンの分泌を促すキモだからです。電話にも、声色など非言語のコミュニケーションがありますから、オキシトシン分泌を促すことにつながります。ですが、やはり最も効果があるのは、互いの顔と顔を合わせる対面による会話です。

コロナ禍のいまは対面での会話は難しいと思いますが、安心してください。LINEやZoomなどのビデオ通話を使えば問題ありません。ストレスフリーの日常を手に入れるために、そういったツールを積極的に使ってほしいと思います。

有田秀穂先生インタビュー「セロトニンとオキシトシンの効能」05

【有田秀穂先生 ほかのインタビュー記事はこちら】
セロトニン研究の第一人者が語る。デキる人のもつ「2つの力」がセロトニンで高められる理由
勉強に夢中になるには「これ」さえもてばいい。でも “高望み” はストレスになるので要注意

【プロフィール】
有田秀穂(ありた・ひでほ)
1948年生まれ、東京都出身。医師・脳生理学者。東邦大学医学部名誉教授。東京大学医学部卒業後、東海大学病院で臨床、筑波大学基礎医学系で脳神経系の基礎研究に従事。その間、米国ニューヨーク州立大学に留学。東邦大学医学部統合生理学で坐禅とセロトニン神経・前頭前野について研究し、2013年に退職、名誉教授となる。各界から注目を集めるセロトニン研究の第一人者。メンタルヘルスケアをマネジメントする「セロトニンDojo」の代表も務める。『医者が教える 疲れない人の脳』(三笠書房)、『脳科学者が教える やっかいな脳のクセをリセットする 朝5分の呼吸法』(総合法令出版)、『自律神経をリセットする太陽の浴び方』(山と渓谷社)、『ひらめく! ひとり散歩ミーティング』(きこ書房)、『「老脳」と心の癒し方』(かんき出版)など著書多数。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。

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