「雑談」とは、「とりとめのない話」のことです。しかし、コミュニケーションが重要だとされる仕事において、雑談を単なるとりとめのない話にとどめておいていいものでしょうか。
モルガン・スタンレーやGoogleを経て経営コンサルタントとして活躍するピョートル・フェリクス・グジバチさんが、ビジネスにおける雑談の重要性とそのコツを教えてくれました。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人
【プロフィール】
ピョートル・フェリクス・グジバチ
ポーランド出身。連続起業家、投資家、経営コンサルタント、執筆者。プロノイア・グループ株式会社代表取締役、株式会社TimeLeap取締役、株式会社GA Technologies社外取締役。モルガン・スタンレーを経て、Googleで人材開発・組織改革・リーダーシップマネジメントに従事。2015年に独立し、未来創造企業のプロノイア・グループを設立。2016年にHRテクノロジー企業モティファイを共同創立し、2020年にエグジット。2019年に起業家教育事業のTimeLeapを共同創立。『世界の一流は「雑談」で何を話しているのか』(クロスメディア・パブリッシング)、『心理的安全性 最強の教科書』(東洋経済新報社)、『世界最高のコーチ』(朝日新聞出版)、『CREATE WORK』(SBクリエイティブ)など著書多数。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
仕事上における雑談は、成果に結びつかなければならない
仕事において最終的に求められるものは、もちろん「成果」です。担当したプロジェクトがどんなにいいプロセスをたどったとしても、成果を生み出せなければ評価されることはありません。
つまり、プライベートの友人との雑談ならともかく、「仕事上における雑談」は、やはり成果に結びつくものでなければならないというのが僕の考えです。
では、成果に結びつく雑談とはどんなものでしょうか? 僕は、長期的で建設的な人間関係を構築するためのものだと考えています。そのような良好な人間関係をつくらずにチーム内に敵をつくってしまえば、その人から足を引っ張られるといったリスクが出てくるからです。
そういう視点から雑談をとらえている人こそが、仕事ができる人です。実際、雑談内容をひもとけば、仕事ができる人なのかどうか、ある程度見えてきます。
仕事ができる人は、欲しい成果から逆算して物事を考えます。やはり、成果こそが仕事で求められることだと考えているからでしょう。クライアントと1時間の打ち合わせをするのなら、その1時間でアウトプットすべきことはなにか、そのアウトプットを得るためになにをすればいいのかと考えます。そこから雑談の内容も考えるわけです。
そうすれば、必要なアウトプットにつながらない脱線しすぎた雑談にはなりません。
雑談で目指すのは、「ラポール」をつくること
「いい雑談」の例を挙げると、それぞれの関係性にもよりますが、特に知り合ってそれほど時間がたっていない関係であれば、「自分をしっかり理解しようとしてくれている」「きちんと人間関係を構築しようとしてくれている」と相手に思わせるような雑談です。
これが、「ラポール」をつくることにつながります。ラポールとは、フランス語由来の言葉で、「お互いの心が通じ合い、穏やかな気持ちでリラックスして相手の言葉を受け入れられる関係性」を意味します。
ビジネスパーソンであれば聞き飽きたことかもしれませんが、誰とも関わることなく成立する仕事などありません。仕事の規模が大きくなればなるほどそれに関わる人も増えます。ビジネスパーソンにとって、他者と良好な人間関係を築くことが重要であることは言うまでもないでしょう。
その良好な人間関係を築くために、ラポールが欠かせないのです。「お互いの心が通じ合い、穏やかな気持ちでリラックスして相手の言葉を受け入れられる関係性」です。仕事で関わる人たちとそんな関係性を築けたら、いい仕事ができそうな気がしてきませんか?
そして、肝心のラポールをつくる方法のひとつが、「自分をしっかり理解しようとしてくれている」「きちんと人間関係を構築しようとしてくれている」と相手に思わせる雑談なのです。人間は、自分に関心をもってくれている人に心を開くからです。「この人は自分に興味がなさそうだ……」と感じる人に心を開こうとは思いませんよね?
雑談上手への第一歩は、簡単なオープンクエスチョン
失礼ながら、日本のビジネスパーソンには雑談が苦手な人が多いという印象をもっていますが、もちろんすべての日本人がそうだというわけではありません。経営者レベルにある人の多くは、雑談が上手です。立場が上になればなるほど多様な人たちと接することが増えるため、それと比例して教養も身についていくことも理由のひとつなのだと思います。
特に印象に残っている方を挙げると、アンティークジュエリーの輸入販売を行なう会社の代表の方です。その方のオフィスにはお茶室があって、初めて伺ったときにもまずそこに通されました。
そして、一緒にお茶を飲みながら、「どういう仕事をしていますか?」「どうしてその仕事を選んだのですか?」「将来はどうしたいですか?」というふうに、代表はまさに僕に関心をもってたくさんの質問を投げかけてくれたのです。もう、自分の話はほとんどしないほどでした。
個人的な考え方から、「私はこう思うんだ」とか「こうすればいい」、「あなたはこういう人ですね」といったことを言うのは簡単です。でも、それでは押しつけがましいという印象をもたれる可能性も否めません。
「今日も暑いですね」「こういう日はやっぱり冷えた生ビールがいいですね」なんて雑談をしている人もたくさんいるでしょう。でも、そこからなにが生まれるでしょうか? 相手に「この人はなにを言いたいんだろう?」「なにをしに来たんだろう?」と不信感をもたれてしまっては、ラポールをつくることは困難です。
自分の考えを一方的に話すのではなく、相手に話をさせるための簡単なオープンクエスチョンをすることが、雑談上手になる第一歩なのだと思います。
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