特に理由はないのに、何をしていても気分が晴れない。
なぜだかネガティブな思いが渦巻いて、仕事が手につかない。
そんな状況を改善したいのなら、脳に働きかけて、ポジティブな自分を取り戻しませんか? 今回は、脳科学的に実証済みのものをはじめとする、ポジティブになれる4つの方法をご紹介しましょう。たとえ嫌なことがあっても、ネガティブ感情を引きずらなくてすむようになりますよ。
ネガティブな気持ちをそのまま放置していると危険?
ジョージタウン大学教授のクリスティーン・ポラス氏によれば、ネガティブな感情に陥ると、脳の情報を一時的に記憶・処理するワーキングメモリの働きが妨げられるそう。日常のタスクや創造的なタスクの、処理パフォーマンスが低下してしまうと言います。
また、ジュネーブ大学のエミリー・チャオ=タセリ氏によるグループが行なった研究では、ネガティブな感情を抱いている被験者に、痛みで苦しむ他者の動画を見せたところ、被験者の脳では痛みをつかさどる「島皮質前部」と「中帯状皮質」が活性化しなかったことが判明しました。つまり、自分がネガティブな気持ちだと、脳は他人の痛みにも鈍感になってしまうのです。
このように、脳がネガティブ感情に影響を受けている状態が慢性化すると、仕事や勉強でもよくない事態が起こりえます。たとえば、ワーキングメモリの機能が落ちているせいで勉強がはかどらなかったり、職場で同僚がピンチなのを横目にしつつ手助けできなかったり……。さまざまな場面で支障をきたすため、ネガティブ感情の放置は危険なのです。
では、ネガティブ感情を引きずらずにポジティブになるにはどうすればよいのでしょうか? 4つの方法をご説明します。
1.「奉仕・感謝」の気持ちをもつ
「仕事や勉強をうまくこなすために、ポジティブな気持ちになりましょう」と言われたところで、そう簡単に気持ちを変えることは難しいかもしれませんね。心理カウンセラーの中島輝氏によると、人間は1日におよそ6万個の思考を行なうそうですが、そのうちの4万5千個は「失敗したらどうしよう」「これをやったら叱られる……」といった、自身を守るためのネガティブなものとのこと。つまり、人間はそもそも自然とネガティブな気持ちになりやすい性質をもっているのです。
そんななかでもポジティブな状態を保つために、利他的な行動をとることをおすすめします。脳科学者の岩崎一郎氏によると、セントラルフロリダ大学の研究で、他人を助けようとする利他的な傾向の人の脳では「報酬系」と呼ばれる部位が活発化し、多幸感をもたらす「ドーパミン」という物質が発生しやすくなると証明されたそうです。
また岩崎氏は、他者へ感謝すると脳の複数の領域が活発化するという、ヨンセ大学の研究も紹介しています。脳内でハブ的な役割をもち、脳全体を活性化させ幸せな感情をもたらす「島皮質」という部位を鍛えることにつながるそう。
ついネガティブな考えをしがちな人は、他人に尽くしたり感謝の気持ちを表現したりすることを習慣化してみてください。気持ちが晴れるようになりますよ。
2. 物事を「加点式」でとらえる
先述のように、ネガティブなことを考えてしまいやすいのが私たち人間というもの。そのうえ、ポジティブサイコロジースクール代表の久世浩司氏によると、脳にはネガティブな出来事ほど長く記憶するという性質があるのだそう。
とはいえ、なんでも「またダメだ」「やっぱりできない」と考えるのは禁物。研修講師で、思考のトレーニングも手がける高橋理沙氏によれば、ネガティブ思考が癖になっている人は、不安なことに意識が向きやすいうえ、過去の嫌な出来事をネガティブにとらえ続けるため、自己否定を深めがちなのだそう。
そこで高橋氏は、できなかったことにわざわざ焦点を当てて落ち込む「減点方式」よりも、できたことへ目を向ける「加点方式」で自分を評価することをすすめています。
「仕事でミスをしてしまった」ではなく「ミスをしてしまったけれど、素早くリカバリーできた」といった感じで、自分ができたことのほうに注目するのです。こうすれば、ネガティブな感情を抱いたとしてもすぐに抜け出して、ポジティブな気持ちを取り戻せるでしょう。
3.「マインドフルネス」を実践する
ネガティブ感情を抑えるために、マインドフルネス(瞑想)をしてみるのもいいでしょう。どこか精神論的なイメージをもつ方もいるかもしれません。ですが、早稲田大学教授で日本マインドフルネス学会理事長の越川房子氏によると、マインドフルネスは脳の機能と構造を変化させ、不安やうつ、ストレスの減少に効果があることが、研究でわかっているそう。
ハーバードメディカルスクールの研究者らにより、マインドフルネスを続けた人の脳は、「左海馬」の密度が増していることが明らかにされました。左海馬は感情のコントロールに関係する部位。実際、うつを患う人の左海馬は小さくなっているのだとか。
マインドフルネスといっても、難しそうだと思う必要はありません。越川氏は、ビジネスパーソンが実践しやすいマインドフルネスの方法として、次の「呼吸瞑想」を紹介しています。
- 姿勢を正してイスに座る。
- 視線を斜め前に向けるか、目を閉じる。
- 自然に呼吸をする。息を吸ったときのお腹の動きを感じる。
- 雑念が湧いたらその内容を心に留め、注意を呼吸に戻す。
これらのステップを、5〜10分間繰り返してみましょう。この方法なら、忙しい日々でも実践しやすいですよね。就寝前や起床後、ちょっとした休憩時にマインドフルネスをすれば、海馬の機能を低下させずにすむはず。ネガティブな感情にも対処できるに違いありません。
4.「べき思考」を捨てる
「職場には、始業時間の20分前に必ず到着するべきだ」「勉強は、毎日1時間以上絶対に行なうべきだ」など、自分が設定したルールで自分自身を強く縛りつけてしまう考え方を「べき思考」と呼びます。
日本メンタルアップ支援機構代表理事の大野萌子氏によれば、べき思考に陥ると、必要以上に自分を責めたり、ちょっとしたことで腹を立てやすくなったりするとのこと。これでは、ポジティブな気持ちをもつのはなかなか難しいですよね。
大野氏は、べき思考から脱却する方法として、実行すべきと考えたとしても、必ずしも必要ないことにまでは過剰なエネルギーを注がないことをすすめています。
上記の例なら、始業20分前までに職場に着こうと頑張りすぎる必要はなく、始業時間までに着いていれば良しとしましょう。勉強も、要点を押さえさえすれば1時間丸々勉強する必要はないはず。1時間に満たなかったときは「短時間でサクッと勉強できた!」と考えればよいのです。
“自分ルール” に対するとらえ方を緩めれば、ポジティブな気持ちにきっとなれますよ。
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ご紹介した4つの方法で、ネガティブ感情を引きずらない習慣を心がけてみてくださいね。
(参考)
DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー|ネガティブな状態に陥った時にエネルギーを高める方法
ScienceDirect|Overlooked but not untouched: How rudeness reduces onlookers’ performance on routine and creative tasks
BBCニュース|いやな気持ち、脳にどう影響する? 他人への共感は
東洋経済オンライン|自己肯定感が低い人に表れる危ない5つの特徴
東洋経済オンライン|身勝手な人の脳が「活性化しにくい」カラクリ
ダイヤモンド・オンライン|あなたの自信を下げる「マイナスの思い込み」をなくそう
東洋経済オンライン|自分は不幸だと思う人は脳の使い方を知らない
@DIME|自分に自信が持てなくなるマイナス思考をプラス思考に変える5つのコツ
日経ビジネス電子版|脳の構造を変える! マインドフルネスって何?
National Center for Biotechnology Information|Mindfulness practice leads to increases in regional brain gray matter density
東洋経済オンライン|「こうあるべき」を手放せば、人生は楽になる
【ライタープロフィール】
亀谷哲弘
大学卒業後、一般企業に就職するも執筆業に携わりたいという夢を捨てきれず、ライター養成所で学ぶ。養成所卒業後にライター活動を開始し、スポーツ、エンタメ、政治に関する書籍を刊行。今後は書籍執筆で学んだスキルをWEBで活用することを目標としている。