勉強でつまずいたとき「リスタートできる人」と「できない人」の違い。“動機づけ” がカギだった

勉強のリスタートに成功する人と失敗する人の違い01

「前に勉強をやめてしまったけれど、もう一度挑戦したい」
「今度こそ、資格試験の勉強をやりきって合格したい」

このように勉強をリスタートしようと決意した人が、まず見直すべきものがあります。それはいったいなんなのか、次こそ挫折することなく勉強を続けられるようになるためのワークとあわせて、ご紹介しましょう。

勉強を「リスタートできる」人と「できない」人の違い

作業療法士の菅原洋平氏は、『ヤバい勉強脳 すぐやる、続ける、記憶する 科学的学習スタイル』で、一度取り組んだ勉強に失敗したあと、勉強を再び始められる人とそうでない人とでは、動機づけに以下のような違いがあるとしています。

  • 勉強をリスタートできる人:「内発的動機付け」に基づいて勉強している
  • 勉強をリスタートできない人:「外発的動機付け」に基づいて勉強をしている

(菅原氏の著書よりまとめた。以下カギカッコ内は同書より引用)

同書によると、「外発的動機付け」とは「なんらかの報酬が手に入ることが前提になっている」動機のこと。たとえば、“上司に評価される”、“ボーナスがもらえる” といった、「お金」や「見栄」を求めるものです。

一方「内発的動機付け」「自分の内部から」つくられるもので、「報酬が前提になっていません」。“もっと詳しく知りたい”、“知識を身につけて、人の助けになりたい” のように、「探求」「上達」「貢献」を求めています。

菅原氏は、動機の違いによって勉強のリスタートに成功するかしないかが決まる理由を、脳科学の観点から、次のように説明しています。

脳は、やる気になっているときに内側前頭前野が働きます。
外発的動機付けの場合、その作業に失敗すると、内側前頭前野の働きは急激に低下します。一気にやる気を失ってしまうのです。
それに対して、内発的動機付けの場合は、作業に失敗しても内側前頭前野の働きは低下しません。

(引用元:菅原洋平 (2020), 『ヤバい勉強脳 すぐやる、続ける、記憶する 科学的学習スタイル』, 飛鳥新社.)

たとえば、

――「この資格に合格すればボーナスがもらえるから」という理由で資格試験の勉強を始めたものの、勉強がはかどらず試験に落ち、一気にやる気を失ってしまった。もう一度勉強する気には、まったくなれない――

といったケースは、外発的動機づけに基づいて始めた勉強が、挫折のあとで再スタートできなくなった、わかりやすい例です。

逆に、

――「この資格に合格すれば、自分の知識によって人の役に立てる」と思って始めた勉強であれば、試験に落ちたとしてもやる気を失うことなく、次のチャンスに向けて再び勉強できる――

わけです。

勉強のリスタートに成功する人と失敗する人の違い02

とはいえ、内発的動機づけに基づき勉強することは、難しいように感じる人もいるかもしれません。外発的動機づけのほうが、一見わかりやすいからです。そこで、勉強する動機を整理して、内発的動機づけを簡単に見つけられるワークをご紹介しましょう。

「内発的動機づけ」を見つけるワーク

自分にとっての内発的動機づけを見つける方法として、人材育成事業を手がけるPHP研究所による、「マズローの欲求五段階説」をもとにしたワークを紹介します。

「マズローの欲求五段階説」とは?

そもそも「マズローの欲求五段階説」とは、アメリカの心理学者アブラハム・マズロー氏が考案した動機づけの理論です。この理論では、人間の欲求を、次の5段階に分けています。

  1. 生理的欲求
    生きていくために必要な、人間の最も基本的な欲求。
    例)眠りたい、食べたい など
  2. 安全の欲求
    安全・安心な暮らしに対する欲求。
    例)経済的不安から逃れたい など
  3. 社会的(所属)欲求
    社会から受け入れられることを望む欲求。
    例)良好な人間関係を築きたい など
  4. 尊敬と自尊の欲求
    集団のなかで認められたいという欲求。
    例)他人から尊敬されたい など
  5. 自己実現の欲求
    自分の能力を存分に発揮したいという欲求。
    例)仕事で自分らしく能力を発揮したい など(※)

(「PHP人材開発|外発的動機づけ」より該当の説明を引用。※の例のみ筆者が作成した)

数字が大きいほど、高い次元の欲求です。詳しくは、こちらの記事『STUDY HACKER|マズローの欲求5段階説とは? 知っておくべき心理の法則』もぜひご覧ください。

PHP研究所によると、内発的動機づけにつながるのは第五段階の「自己実現の欲求」だそうです。

「マズローの欲求5段階説」をもとに「内発的動機づけ」を見つける

そしてPHP研究所は、以下のワークを提案しています。

  1. 「やる気の源となるもの」を、上位のものから5つ書き出す。
  2. 5つの「やる気の源となるもの」が「マズローの欲求5段階説」のどの段階に当てはまるかを振り分ける。

(「PHP人材開発|外発的動機づけ」より手順をまとめた)

このワークを通じて自分の動機がどの欲求段階にあるのかを知れば、内発的動機づけを見いだすヒントになるはずです。

続いて、筆者がワークを実践してみた例をご紹介しましょう。

勉強のリスタートに成功する人と失敗する人の違い03

内発的動機づけを見つけるワークをやってみた

数年前に挫折していたFP3級の勉強に改めてチャレンジするにあたり、筆者も上記のワークを実践することにしました。

しっかりとした動機づけから始めておけば、不測の事態で勉強が止まってしまっても、前回のように「それっきり」にはならずにすむだろうと考えたのです。

ワークに使用したのは、100円ショップで買った、B5サイズ(罫線7mm、30行)の大学ノート。3行おきに「やる気の源となるもの」を5つ書き出し、それぞれマズローの欲求5段階説のどの段階に当てはまるのかをメモしました。できあがった紙面がこちら。

勉強のリスタートに成功する人と失敗する人の違い04

ノートの内容を書き起こすと、次のようになります。

  • キャッシュフローを分かりやすくまとめられるようになる
    【2】安全の欲求
  • 家族全体のライフプランに沿ってお金の計画が立てられるようになる
    【5】自己実現の欲求
  • 保険の見直しを自分でできるようになる
    【5】自己実現の欲求
  • 経済指標に使う用語をマスターできる
    【5】自己実現の欲求
  • 外貨預金のメリット・デメリット・税制がわかるようになる
    【2】安全の欲求

ノート1ページにも満たない、一見すぐにでも終わりそうなワークですが、筆者は終えるまでに約90分かかりました。その理由とともに、効果のほどを次で説明します。

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内発的動機を見いだしたら、勉強へのモチベーションが上がった!

内発的動機づけを見つけるためのワークを実践して感じた効果や、提案したいことを以下へまとめます。

1. 勉強内容の概要をつかんでおくと、内発的動機づけを見つけやすい

「やる気の源となるもの」をノートに書き出した結果、次のような内発的動機づけを見いだすことができました。

【貢献/家族の役に立ちたい】

  • 家族全体のライフプランに沿ってお金の計画が立てられるようになりたい
  • 保険の見直しを自分でできるようになり、家族の役に立ちたい

【探求心/知識を深めたい】

  • 経済指標に使う用語をマスターして、もっと経済ニュースを理解できるようになりたい

じつは、これらの内発的動機づけは、スムーズに浮かんだわけではありません。ワークを始めた当初は「FP3級の資格勉強を通して、お金の勉強がしたい」といった、具体性のない動機しか思いつきませんでした。

なぜ思いつかないのだろうと考えた結果、「そもそもFP3級では何を学べるのかを、具体的にわかっていない」ということを発見。そこで、テキストを通読し、資格の内容を自分の生活に結びつける作業をしました。これに時間を要したため、ワークに90分かかったのです。

もし、なかなか内発的動機づけが見つけられない場合は、そもそも自分がやりたい勉強は、何を学べるのか? をまず掘り下げることをおすすめします。より具体的な内発的動機づけが見つけられるでしょう。

ちなみに、書き出しながらこんなことにも気づきました。それは、「前回勉強したときは『社会人に人気の資格だから』とか『仲間内で話題になっている資格だから』という理由で勉強していたな……」ということ。つまり、集団のなかで認められたいという「尊敬と自尊の欲求」による外発的動機づけがほとんどだったのです。「だから前回は挫折してしまったのだな」と大いに納得がいきました。

2. テキストを通読すると、より効率的に勉強を始められる

テキストを通読する際は、目次で構成を知り、要点をまとめている箇所に目を通して、どんな知識が身につくのかおおまかにつかんでいきました。この読み方は、内発的動機づけを見つける以外に、勉強への着手にも役立つようです。

資格試験オンライン学習サービス「資格スクエア」代表で弁護士の鬼頭政人氏によると、資格試験に受かる人は、まず「参考書を最後まで一気に読む」そうです。その目的は「全体像の把握」をし「学習計画」を立てる準備をするため。(カギカッコ内引用元:鬼頭政人 (2016), 『資格試験に「忙しくても受かる人」と「いつも落ちる人」の勉強法』, 大和書房.)。

実際に筆者も、これから始めようとしている勉強について把握でき、どういう順序で勉強が進むのかイメージしやすくなりました。

もし決まったテキストがなければ、入門書や、その勉強について詳しく紹介しているウェブサイトなどを読むといいでしょう。そうすれば、挫折を気にせず取り組めるようになるはずです。

***
以前挫折した勉強に再びチャレンジしたいなら、その動機が探求・上達・貢献に基づく内発的動機づけであるか確認してみましょう。外発的動機づけばかりだった場合でも、ワークを通して勉強への理解を深めれば、内発的動機づけを見いだせる可能性があります。ぜひ、今度こそ勉強を成功させるために、実践してみてくださいね。

(参考)
菅原洋平 (2020), 『ヤバい勉強脳 すぐやる、続ける、記憶する 科学的学習スタイル』, 飛鳥新社.
PHP人材開発|外発的動機づけ
STUDY HACKER|マズローの欲求5段階説とは? 知っておくべき心理の法則
鬼頭政人 (2016), 『資格試験に「忙しくても受かる人」と「いつも落ちる人」の勉強法』, 大和書房.

【ライタープロフィール】
かのえ かな
大学では西洋史を専攻。社会人の資格勉強に関心があり、自身も一般用医薬品に関わる登録販売者試験に合格した。教養を高めるための学び直しにも意欲があり、ビジネス書、歴史書など毎月20冊以上読む。豊富な執筆経験を通じて得た読書法の知識を原動力に、多読習慣を続けている。

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