あなたは、使命感をもって仕事に取り組んでいますか。おそらく、「いいえ」と答える人が大半でしょう。しかし、熱い使命感に駆られて積極的に行動するのと、生活のため仕方なく働くのとでは、成果に雲泥の差が生じるものです。
「使命感」という言葉は仰々しく聞こえるかもしれませんが、みなさんも大なり小なり使命感を抱いた経験はあるはず。大役を与えられて任務に奮起したり、社会貢献になると感じて仕事に燃えたりといったことはないでしょうか。
自分なりの使命感を意識できれば、やる気が高まり、ポジティブな姿勢で物事に取り組めますよ。今回は、使命感の意味・例文・責任感との違いを説明したあと、ビジネスにおける使命感の大切さと、使命感を得るための方法をご紹介します。
使命感とは
小学館の「デジタル大辞泉」によると、使命感とは「自分に課せられた任務を果たそうとする気概」。仕事に関しては、次のような例文が考えられるでしょう。
- いまの仕事に使命感をもって働いている。
- 自社商品を広めることに使命感を抱いている。
- リーダーを任され、使命感を燃やしている。
使命感といえば、パナソニックグループの創業者であり「経営の神様」と呼ばれる松下幸之助氏です。松下氏は、何をするにも使命感がないといけないと語っていたそう。
松下氏いわく、「産業人の使命は貧乏の克服である」。物資を豊富かつ廉価に生産・提供することで、人々に幸福をもたらせると考えていたのです。強い使命感をもっていたからこそ、松下氏はビジネスにおける数々の逆境を乗り越え、経営者として成功できたのかもしれませんね。
使命感の類語:責任感
使命感の類語に「責任感」があります。同じく「デジタル大辞泉」によると、責任感とは「自分の仕事や行為についての責任を果たそうとする気持ち」。使命感と責任感は、具体的にどう違うのでしょうか。
セミナー運営や教材開発を手がける株式会社インバスケット研究所の代表取締役社長で、『AI時代のリーダーの原則』(ベストセラーズ、2018年)などの著書をもつ鳥原隆志氏によれば、「責任感はもつもの、使命感はつくるもの」。両者はまったく異なるそうです。
鳥原氏によると、責任感とは「自分の行動や行為に対して責を負う覚悟」。たとえば、あなたがチームのリーダーで、各メンバーに業務を割り振ったとします。しかし、メンバーのひとりはその業務に適性がなく、ほとんど進められません。こんなとき、状況を放置せずに割り振りを見直したり、業務に関するアドバイスをしたりするのが、「責任感のある行動」だと言えるでしょう。
一方の使命感とは、鳥原氏によると「自ら使命(ミッション)をつくり出し、それを達成させる強い意志」。誰かから与えられる責任と異なり、使命は自分でつくるもの。「何が求められているか」を分析し、明確にすることで、使命感が生まれるそうですよ。
簡単にまとめると、使命感は能動的なもの、責任感は受動的なもの。もちろん責任感は大事ですが、使命感をもつほうが、ビジネスパーソンとしてより望ましいと言えるでしょう。
仕事における使命感と誇り
使命感や誇りの有無は、仕事のパフォーマンスに大きく影響します。
かつてスターバックスコーヒージャパンの最高経営責任者を務め、『ミッション 元スターバックスCEOが教える働く理由』(アスコム、2012年)などの著書をもつ岩田松雄氏によると、人はミッションがあるからこそ頑張れるのだどか。すばらしいミッションをもてれば、「ビジョン」が明確になり、強い「パッション」が湧き上がるのです。
つまり、「私はこのために働いている」という使命感があるからこそ、仕事を誇りに思え、能動的に動くようになると言えます。
反対に、使命感や誇りを忘れてしまうと、どうなるのでしょうか。戦略コンサルティングを手がける株式会社フィールドマネージメント代表取締役で、『ミッションからはじめよう!』(ディスカヴァー・トゥエンティワン、2012年)などの著書をもつ並木裕太氏は、次のように述べています。
そもそもどんな想い(ミッション)でその仕事を選んで、何がやりたかったのか、これがしっかり自分で認識できていないと、ちょっと嫌なことがあっただけで落ち込み、転職を考えてしまったり、がんばりすぎて燃え尽きてしまって、ある日突然、抜け殻のようになってしまったりします。
(引用元:並木裕太(2012),『ミッションからはじめよう!』, ディスカヴァー・トゥエンティワン. 太字による強調は編集部が施した)
多くの人は、働き始めて間もない頃、「なんのためにこの仕事をするか」と意識していたことでしょう。しかし、日々の業務に追われるうち目の前のことにとらわれ、使命感や誇りといった大切なものが薄れていき、働く意味を見失いがちになるのです。
使命感が足りないと思ったら
では、自分に使命感が欠けていると感じた場合、どうしたら使命を見つけたり、思い出したりできるのでしょうか。
「3つの輪」を重ねる
使命感をもつには、使命(ミッション)が必要です。前出の岩田氏によると、自分自身のミッションを見つけ出すには「3つの輪」を重ねてみるのがいいそう。
- 好きなこと
- 得意なこと
- 何か人のためになること
この3つが重なる部分こそ、あなたのミッションです。まず、1と2が何か、普段の行動や経歴から考えてみてください。そして、1と2をどうすれば活かせるか考えましょう。
- 好きなことはなんだろう?
→いつも犬や猫の動画を見ている
→動物が好き - 得意なことはなんだろう?
→大学で動物を世話する方法を学んだし、いろいろな動物を飼っている
→動物の世話が得意 - どうすれば人の役に立てるだろう?
→ペットの育て方について情報発信する
みなさんも、「好きなこと」「得意なこと」「人のためになること」を探り、自分の使命を見つけてみてください。
「なぜ」「なんのために」を考える
同じく岩田氏によると、「なんのために働くか」よりも「どうやって働くか」を重視する人が増えているそう。実際、近年の書籍やインターネットの記事には、「働く目的」ではなく「働き方」に関するものが多いように感じられます。「副業での稼ぎ方」や「ノマド的な働き方」など、目的ではなく手段についての情報が多いのです。
『覚悟力 仕事と人生の不安を断つ思考法』(PHP研究所、2015年)の著者でパーソナルコンサルタントの藤堂昌恒氏も、同様に述べています。仕事に慣れると、「いかにうまくやるか」「いかに早くやるか」ばかり考えるようになりがちだけれど、本当に大切なのは「なぜやるのか」「なんのためにやるのか」なのだとか。
みなさんも、働く目的をあらためて考えてみませんか? 自分が仕事をする理由を数値で可視化する方法については、「『仕事にやりがいがない』人向け、やりがいの見つけ方4選」をご覧ください。
「私」をなくす
ミッションをつくり出すうえで重要なのは「私」をなくすことだと、岩田氏は言います。「自分の出世」や「自分のもうけ」を考えるのではなく、「世のなかをよくしよう「人のためになることをしよう」といった思いで、ミッションをつくるのです。
たとえば、「自動調理ロボットの開発」という手段は同じでも、以下のようにさまざまな目的が考えられます。
- 自動調理ロボットを開発すれば、もっとお金が入り、もっと贅沢できる(私)
- 自動調理ロボットを開発して、世間から注目を浴びたい(私)
- 自動調理ロボットを開発して、家事で忙しい人たちを楽にしてあげたい(無私)
それに、自分のためより他人のために行動したほうが、強い幸福感を得られるという実験結果もありますよ。詳しくは「『周囲の協力をさくっと得られる人』は何をしているのか? 頼み事に “罪悪感” なんて不要です」をご覧ください。
「ミッションステートメント」をつくる
自身のミッションを宣言する文「ミッションステートメント」があります。立教大学大学院ビジネスデザイン研究科特任教授・田中道昭氏の『「ミッション」は武器になる あなたの働き方を変える5つのレッスン』(NHK出版、2018年)を参考にご紹介しましょう。
以下は、ミッションステートメントのテンプレートです。
私のミッションは、【1】を活かし、【2】において、【3】をもとに、【4】に対峙し、【5】することです。
それぞれの数字には、以下の要素が入ります。
- 強み
- 長期目標
- 価値観
- 自分の課題
- やるべき行動
各要素を決める際のヒントは、以下のとおり。
- 強み
自分の「好きなこと」をいくつか挙げ、そのなかから「得意なこと」を抽出。そこからさらに「とがったもの」を探す - 長期目標
30年後を想定 - 価値観
自分の名前に込められた意味を考えてみる。「大和」なら「人の和を大切にする」など - 自分の課題
誰の、どのような問題を解決するか - やるべき行動
「強み」を動詞で表す
5つの要素をテンプレートに当てはめてみたのが、以下の例です。
私のミッションは、【持ち前の明るさ】を活かし、【みんなが発言できる職場づくり】において、【人の和を大切にするという価値観】をもとに、【職場になじめていないメンバーがいる問題】に対峙し、【積極的に声をかけて関係を構築】することです。
みなさんも、ぜひ自分のミッションステートメントを作成してみてください。自分の使命を意識することで、使命感が生まれることでしょう。
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日々の業務に追われる私たちは、働く意味を見失いがち。いま一度、なんのために仕事をするのか考え、使命感をもって働きたいものですね。
コトバンク|使命感
東洋経済オンライン|「なにごとも、使命感がないと、あかんな」
パナソニック株式会社|1932年(昭和7年)
コトバンク|責任感
鳥原隆志(2018),『AI時代のリーダーの原則』, ベストセラーズ.
岩田松雄(2012),『ミッション 元スターバックスCEOが教える働く理由』, アスコム.
並木裕太(2012),『ミッションからはじめよう!』, ディスカヴァー・トゥエンティワン.
藤堂昌恒(2015),『覚悟力 仕事と人生の不安を断つ思考法』, PHP研究所.
田中道昭(2018),『「ミッション」は武器になる あなたの働き方を変える5つのレッスン』, NHK出版.
SHOICHI
大学院修了後、一般企業に就職。現在は会社を辞め、執筆活動をしている。読書、音楽、YouTubeが好き。