学習効果を高めるには、適切な睡眠が欠かせません。日中にインプットした単語などの知識は、睡眠中に記憶として定着するからです。夜に十分な睡眠時間を確保する、昼も適度に仮眠をとるなどで、あなたの勉強効率は確実に高まります。
今回は、睡眠と学習の関係を解説したうえで、記憶定着のメカニズムを利用した学習法をご説明しましょう。さらに、睡眠時に音声を流す「睡眠学習」の実験についてもご紹介します。
睡眠と学習の関係
睡眠は、学習効率を大きく左右する重要な要因です。
甲南大学知能情報学部准教授・前田多章氏は、睡眠がもつ役割のひとつとして「記憶の固定」を挙げています。起きているあいだに覚えたこと・体験したことは、睡眠中に過去の記憶と関連づけられ、整理されることによって、初めて定着するのです。
前田氏によれば、睡眠時間が短すぎると、記憶の固定が十分にできないため、前日に覚えたこと・練習したことなどがうまく身につかない恐れがあるのだそう。睡眠時間を削って勉強するよりも、睡眠に時間を割いたほうが効果的ということですね。
夜にとる長い睡眠だけでなく、短い昼寝も記憶の強化に役立つことがわかっています。ザールラント大学が2015年に発表した論文によると、単語の無作為なペア(milk-taxiなど)を学習してから90分間の昼寝をした被験者は、昼寝をしなかった被験者に比べ、より多くの情報を記憶していたのだそう。
十分な睡眠は、効果的な学習に欠かせないもの。睡眠も学習のうち、といえそうです。
学習効果を高める3つの睡眠ルール
睡眠による記憶定着効果を利用した学習法を、3つご紹介します。
1. 学習は睡眠の直前に
『ずるい暗記術 偏差値30から司法試験に一発合格できた勉強法』(ダイヤモンド社、2015年)の著者で弁護士の佐藤大和氏によると、就寝30分前は「暗記のゴールデンタイム」なのだそう。就寝直前の30分間(量が多い場合、最大1時間)に、覚えたい知識を総ざらいすることで、記憶が定着しやすくなります。
2. 起きたらすぐ復習
翌朝に目覚めたら、前日に学習した内容をどれだけ覚えているか、小テストなどで確認しましょう。
『大学受験の神様が教える 記憶法大全』(ディスカヴァー・トゥエンティワン、2014年)の著者で精神科医の和田秀樹氏によると、朝は前日の記憶が脳内ですっきりと整理され、記憶保持の準備が整っている状態なのだそう。朝に復習をすれば、知識が長期記憶として残りやすくなるのだそうです。
朝は「復習のゴールデンタイム」であるといえるでしょう。
3. 休憩時間はこまめに昼寝
先述したように、短時間の昼寝にも記憶の定着効果があります。昼休みやちょっとした休憩時間に少しでも眠ることで、学んだ内容が頭に残りやすくなりますよ。
「睡眠直前にインプット」「睡眠直後に復習」「日中はこまめに短時間睡眠」というプロセスを繰り返せば、学習した内容が確実に定着していくのを実感できるはずです。
「睡眠学習」は可能か?
参考までに、いわゆる「睡眠学習」についてもご紹介します。
「睡眠学習」の効果
「睡眠学習」と聞いて皆さんが想像するのは、「眠っているあいだにどんどん新しい知識が身につく」という、夢のような学習法でしょう。しかし、メンタリストDaiGo氏によると、睡眠中に耳に入った情報は多少記憶に残ることがあるものの、その知識を取り出して使うのは困難なのだそう。
皆さんも、ドラマなどを見ながら寝入ってしまったとき、眠っているあいだの内容がどのようなものだったのか、覚えていることはまれですよね。やはり、眠っているあいだにどんどん新しい知識が身につくという学習法は、現実的に不可能である、ということになります。
しかし、実は、新しいことを覚えるのではなく、日中(覚醒中)に学んだ知識の記憶をより強固にする目的、つまり「復習」の目的なら、睡眠学習に一定の効果があることが新しい研究でわかってきています。たとえば、日中に学んだ英単語の読み上げ音声を流しながら寝ると、何もせず眠る場合に比べ、英単語が記憶に定着しやすくなる、ということです。
「睡眠学習」の実験1
睡眠学習が復習に効果的だと示した実験は、複数あります。まず、米ノースウェスタン大学が2012年に発表した研究では、2種類のメロディーの練習後に被験者を昼寝させ、耳元で一方のメロディーを流しました。起床後の被験者は、2種類のメロディーのうち昼寝中に流していたメロディーのほうを、より上手に演奏できたそうです。
つまり、睡眠中にメロディーを聞いたことで、睡眠前に学習した内容が無意識下で復習され、記憶が強化されたと考えられます。
「睡眠学習」の実験2
音楽だけでなく、外国語についても同様の実験結果が出ています。
2014年、スイスのチューリッヒ大学は、ドイツ語を母語とする生徒68人を集め、オランダ語の単語を120個覚えてもらうという実験を実施。被験者は以下のグループに分けられました。
- 「睡眠学習」をする
- ただ眠るだけ
- 眠らずにコンピューターゲームをする
- 眠らずに学習をする
単語テストの結果を比較すると、「睡眠学習」をしていたグループは、なんと、起きていたグループよりも高い得点を記録したのです。
「睡眠学習」の実践
「睡眠学習」には、一定の効果があるとわかりました。とはいえ、メンタリストDaiGo氏によると、上述のような「睡眠学習」は、英単語や固有名詞などを覚える「丸暗記系」の勉強において効果を発揮するのだそう。数学の解法など、思考力を使うものには向いていません。
ご紹介した「睡眠学習」を実践するには、市販の学習用音声などがベストですが、覚えたい事項を自分でしゃべって録音するのもよいですね。睡眠の邪魔にならない程度のボリュームで、流しておきましょう。
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学習内容を定着させるためには、適切な睡眠が欠かせません。睡眠時間をしっかり確保するとともに、ご紹介した睡眠テクニックを活用し、学習効率の向上を目指しましょう。
和田秀樹監修(2014),『大学受験の神様が教える 記憶法大全』, ディスカヴァー・トゥエンティワン.
メンタリストDaiGo(2019),『最短の時間で最大の成果を手に入れる 超効率勉強法』, 学研プラス.
EurekAlert!|Neuropsychology: Power naps produce a significant improvement in memory performance
ScienceDirect|Nap sleep preserves associative but not item memory performance
Nature|Cued memory reactivation during sleep influences skill learning
コトバンク|睡眠学習
Business Journal|少ない睡眠時間でも快適かつ有益に過ごす方法
甲南大学|第1回 「睡眠と記憶について/基本的な睡眠とは」
ダイヤモンド・オンライン|「暗記は寝る前」は、もはや当たりまえ。その後の行動が記憶の定着を左右する
STUDY HACKER|インプットは夜、アウトプットは朝。東大生おすすめの「時間別勉強法」
佐藤舜
大学で哲学を専攻し、人文科学系の読書経験が豊富。特に心理学や脳科学分野での執筆を得意としており、200本以上の執筆実績をもつ。幅広いリサーチ経験から記憶術・文章術のノウハウを獲得。「読者の知的好奇心を刺激できるライター」をモットーに、教養を広げるよう努めている。