平日は、早起きして出社し、仕事が終わって帰宅するとヘトヘトで何もできない。週末は、予定を詰め込んだり、ダラダラとNetflixを観たりしているうちに、気がついたらまた月曜日がきている……。
ビジネスパーソンは、「私は時間に余裕がある」という人よりも「いつも時間がない」「忙しい」という人のほうが多いでしょう。忙しいことが当たり前になりすぎて、むしろ暇な時間があると不安さえ感じるかもしれませんね。
現代病ともいえる、この「忙しくないと不安」という状態は、一見、たくさんのことをこなす、充実したワークライフに思えるかもしれません。しかし、長い目で見たとき、人間的な成長や、ビジネスパーソンとしての成功や満足感につながっていると言えるでしょうか。
今回ご紹介するのは、Googleで働いた経験を持つジェイク・ナップ氏と、YouTubeで働いた経験を持つジョン・ゼラツキー氏のふたりのシリコンバレーの有名人が提唱する「メイクタイム」という時間術。以下で詳しく見ていきましょう。
「メイクタイム」で、こなすだけの毎日から抜け出す
「メイクタイム」は、元Google社員のジェイク・ナップ氏と、元YouTube社員ジョン・ゼラツキー氏のふたりが執筆した著書『時間術大全 人生が本当に変わる「87の時間ワザ」』の中で紹介されている時間術です。彼らが提唱するのは、仕事の効率を高める方法ではなく、自分にとって本当に重要なことに時間を費やす方法です。
ジェイク氏とジョン氏は、現代人が常にバタバタしている理由をふたつ挙げています。ひとつめは「多忙中毒」であること。つまり、「忙しい状態を喜んでいる」ということです。常にTODOリストがたくさんあり、目の前の仕事を迅速に片付け、短時間で可能な限り多くのことをこなす……。このような状態がデフォルトになっているのです。
ふたつめは、「無限の泉」に時間を侵食されていること、つまり、ほんの少しの空いている時間すらも、SNSや動画コンテンツなどの、常に更新され続けるエンターテインメントに埋め尽くされているということ。インターネットが原因で、自分をコントロールできなくなっている人は多いのではないでしょうか。
デジタル文具「Bambooスマートパッド」を展開する株式会社ワコムが、20代から40代の社会人363名を対象に行なった「時間」に関する調査によると、77.7%の人が、やりたいことやしないといけないことが “時間が原因でできていない” そう。時間が足りない主な理由は、仕事量、時間の使い方、家事、SNSを見てしまうなどが挙げられるようです。
ただ過ぎていく時間の中で、最低限のやるべきことだけをやって、残りの時間はInstagramをのぞいたり、YouTubeを視聴したり……。このような生活の中に、静かな環境で心身を落ち着かせ、自分の人生と向き合う時間はどこにあるのでしょう。時間に追われるうちに、本当の自分らしさすらも失ってしまうかもしれませんよ。そうならないためにも、皆さんも「メイクタイム」を実践してみてはいかがでしょう。
「メイクタイム」の実践方法
メイクタイムは毎日行なうもので、以下の4ステップがあります。
ハイライト
まず始めに本日のハイライト(最重要事項)、つまり「今日、絶対にやりたいこと」を決めましょう。選び方の方法はふたつあります。
ひとつめは、緊急度の高いものを選ぶ方法。たとえば、「上司に依頼された緊急の仕事を終わらせる」「締め切りが迫っている原稿を完成させる」「明日のパーティに必要なケータリングを手配する」などが挙げられます。
ふたつめは、満足感や喜びを得られるものを選ぶ方法。こちらは、緊急度の高いものとは異なり、やらなければならないことではなく、やりたいこと、やり終えたときに充実感を得られるものを選びます。たとえば、「ブログ記事を1本書き終える」「副業に役立つ本を読む」「母親に電話をする」など。
このように、「私がやりたいことは何だろう?」と考える時間を1日の中に作ることによって、自分自身の感情や願望に耳を傾けることができるのです。
レーザー
次に、レーザー光線のように集中し続けるために、気を散らすものを撃退します。
私たちの周りは誘惑だらけです。意思の力でそれらをはねのけるのは難しいものですよね。スキマ時間には、スマートフォンでSNSをチェックしたり、動画を観たりと、「無限の泉」についつい手を出してしまうのではないでしょうか。これらに気を取られていると、大事な時間が減るのに加え、意識が分散され、重要なことに集中しづらくなってしまいます。
ジェイク氏らは、気が散りにくいスマートフォンを作ることをすすめています。SNSアプリやメッセージアプリは、ホーム画面から消すことで、意味もなくチェックしてしまうのを防げますよ。試してみてはいかがでしょう。
チャージ
チャージは、脳を充電することを指します。
ジェイク氏らいわく、現代の私たちは体に合わない暮らしをしているそう。文明が発達していなかった頃から、私たちの体はそれほど変わっていません。しかし、1日3回食事をする、あまり運動をしない、座りっぱなしで長時間デスクワークをする……など、ライフスタイルは著しく変化しました。
著書では、毎日運動する、定期的に歩き回る、お腹を空かせて脳をクリアにしておく、などの方法が挙げられています。
チューニング
最後は、寝る前に1日を振り返り、その日は何に喜びを感じたか、ハイライトを達成できたか、実践した戦術は有効だったか、と振り返ります。
自分にとって有効な行動だったら続け、あまり効果がない行動はやめましょう。このように、反省と改善を毎日繰り返すことが大切です。
メイクタイムを試してみた
実際に、メイクタイムを実践してみました。
書籍の巻末には「メイクタイムメモ」もついていますが、筆者は自作のシートを作成してみました。
率直な感想としては、今後もメイクタイムを続けたいと感じています。
まず筆者は、ハイライトでは、緊急性が高いものではなく、やり終えたときに喜びを感じられることを選びました。何時間かけて、どれくらい達成したいかも決めてあります。
読書は、時間があるときにしたいとはいつも思っていたのですが、スキマ時間にはついスマートフォンを操作してしまい、ほとんど本を読まずに毎日が終わってしまっていました。仕事と同じように「スケジュールを決めて読書をする」という発想が今まではありませんでしたが、こうすることで、確実にやりたいことに時間が割けて達成感を覚えました。
今後も、ずっとやりたいと思っていて後回しにしていることや、緊急ではないけれど自分にとっては重要なことは、1日のハイライトとして確実に実行していきたいと思います。
レーザーでは、「スマートフォンをバッグにしまっておく」と決めていたのですが、読書中に調べたい単語があり、ブラウザを使うために取り出すことになりました。ただ、読書に集中していると、スマートフォンが近くにあってもそれほど気にならなかったので、しまっておかなくても問題はないように感じます。
チャージに関しては、筆者の場合、お腹が空くと集中力が著しく下がるので、朝食を抜くのはあまり効果的ではありませんでした。
チューニングで、実践したメイクタイムを振り返り、改善できるポイントと継続したいポイントを洗い出します。この一連の流れを毎日繰り返すことで、仕事や緊急事項を疎かにしなくても、本当にやりたいことを達成し、より自分らしく充実した時間を積み重ねられると感じました。
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毎日やるべきことをこなし、スキマ時間は「無限の泉」で埋め尽くし、忙しく過ごしていると、一見充実しているように感じるかもしれません。
しかし、このような繰り返しの毎日はAutopilot(オートパイロット=自動操縦モード)と表現されます。私たちの意思とは別に、外側の圧力(仕事の締め切りや、上司からのプレッシャーや、意思力を奪う動画アプリやSNSなど)に支配されてしまっているとも言えるのです。
自分の意思で、やりたいことのための時間を作り、人生の舵を切るのは自分自身なのだと改めて認識するためにも、「メイクタイム」を実践することは有効でしょう。ぜひ試してみてください。
(参考)
ジェイク・ナップ(2019), 『時間術大全 人生が本当に変わる「87の時間ワザ」』, ダイヤモンド社.
Medium|Make Time: How to Focus on What Matters Every Day
PR TIMES|約9割の社会人は“時間が足りない”と感じていた!
【ライタープロフィール】
Yuko
ライター・翻訳家として活動中。科学的に効果のある仕事術・勉強法・メンタルヘルス管理術に関する執筆が得意。脳科学や心理学に関する論文を月に30本以上読み、脳を整え集中力を高める習慣、モチベーションを保つ習慣、時間管理術などを自身の生活に取り入れている。