頭が働かなくて困ってない? 小学生にはおなじみの “アレ” が前頭前野を活性化させる

書写を行う学生

音読は大脳の約70%を活性化させ、脳機能を高めると研究で明らかにされているそうです。そのため「音読で頭がよくなる」などと言われていますが、じつは書写だって負けていないのです。

「脳のエンジンを全開にして仕事や勉強に取り組みたい」「脳が活性化する方法はどんどん取り入れたい」という方に、詳しく説明しましょう。

書写について

「書写」とは、その文字のとおり書き写すこと。学校教育においては「文字を正しく整えて書く」ことを目的とする学習指導を指します。経典を書写する「写経」を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。

また、書写は精神科の作業療法にも用いられるといいます。精神疾患を患う人は前頭前野の機能が低下すると報告されていますが、書写はその前頭前野を活性化させるそうです(※)。もちろん音読でも前頭前野は活性化するとのこと。

(※森川孝子・篠原英記・松尾善美・中前智通・山本大誠・大瀧誠・梶田博之(2007),「近赤外分光法を用いた書字課題における脳血液動態の検討」, 神戸学院総合リハビリテーション研究, 第2巻, 第2号, pp.23-30.)

人間の脳の部位と各部分の機能。なぜかモヒカン

書写で頭がよくなるワケ

書写や音読で活性化する脳の前頭前野とは、ワーキングメモリ、思考、創造性、コミュニケーション、集中力などに関わる知的活動の中枢のこと。ワーキングメモリとは、目的を達成するために記憶や情報を組み合わせ、処理を行なう脳の機能のことです。

公立諏訪東京理科大学教授の篠原菊紀氏によれば、そのワーキングメモリが「学力や頭のよさ」に結びつくと考えられているそう。また、東京大学大学院総合文化研究科研究員の細田千尋氏は、前頭前野が最も知能(IQ)レベルと深く関連すると述べています。

ちなみに漢字を書写すると、手を動かしなさいと指令を出す運動野や、位置関係など空間情報を扱う頭頂連合野、文字の知識がしまわれているという下側頭回なども働くとのこと。音読と同じように書写でも脳が広範囲に働くのです。

また、株式会社NeU(東北大学と日立ハイテクによる脳科学カンパニー)が運営する「Active Brain CLUB」によると、ただ目的なく手指を動かしても、前頭前野はあまり働かないのだとか。書写には必然的に題材の文字を書き写す「目的」、正しく整えて書き写す「目的」があるので、前頭前野が活性化するための条件が備わっていると言えるでしょう。

これが、書写が音読に負けていない理由。そして、書写で頭がよくなる理由です。

カラフルな脳のイラスト

どう書写を取り入れるか

音読だけではなく、書写でも「頭がよくなる」可能性が高いとわかりました。では、どのように書写を取り入れていけばいいでしょう。

「Active Brain CLUB」によれば、書写には短い文が適しているとのこと。そのため、よく知られる歌人や俳人――松尾芭蕉、与謝野晶子、正岡子規、石川啄木、小林一茶などの「短歌や俳句」を題材にするようすすめています。

教科書に載るような文章なら、より正しく整えて書こうという気持ちが高まるかもしれませんね。 それらの短い文を、できるだけ毎日同じ時間に、ふたつくらい書き写すといいそうです。

短い文を毎日同じ時間に書き写している女性の様子

書写に「好き」と「初めて」をプラス

さらに、もうひとつ、楽しく効果的に書写を取り入れるための提案があります。まずは専門家の解説から。

東北大学脳科学センター教授の瀧靖之氏によれば、大人でも子どもでも、学び続けるかぎり「脳の情報伝達の回路」は確実に増えていくそうです。ただし、「嫌いだけどやらなきゃ」ばかりだとストレスホルモンが分泌され、記憶をつかさどる脳の海馬や、今回注目している前頭前野が萎縮してしまうのだとか。

逆に「好き・楽しい」といった感覚をもちながら学ぶと、脳は本来の力を発揮できるそうです。

また、前出の篠原氏によると、「初めて読む文章」を音読しているときは前頭前野の活動が高まるけれど、「何度も読んだ文章」を気持ちよく音読しても、感情や快感に関わる脳の大脳辺縁系の活動は高まるものの、前頭前野の活動はほとんどないのだそう。

一方で、読んでいる文章の内容や世界観に思いをはせながら(想像しながら)音読を行なうと、脳の側頭頭頂接合部の活動が高まるそうです。

そこで、「最近初めて聴いて気に入った曲の歌詞を、短くワンフレーズごとに書写する」ことを提案します。ロックでもヒップホップでもレゲエでも、アニメの歌でもなんでも、ジャンルは限りません。好みで、まだ馴染んでいない曲の詩であることだけが重要です。

短歌や俳句の書写では意欲が湧かない、習慣にしにくいという方には特におすすめですよ。上記のメカニズムを参考にすれば、

  • 好き・楽しい
  • 初めて・まだよく知らない
  • 好きなので内容に思いをはせやすい

といった要素が、多少なりとも書写の効果を高めるはず。「お気に入りの曲の歌詞を覚える」という目的も加わるので、より脳は活性化しやすくなるでしょう。

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書写で頭がよくなる理由、そのためのよりよい方法を探ってみました。よろしければ仕事や勉強前の脳ウォーミングアップとして取り入れてみてくださいね。

(参考)
森川孝子・篠原英記・松尾善美・中前智通・山本大誠・大瀧誠・梶田博之(2007),「近赤外分光法を用いた書字課題における脳血液動態の検討」, 神戸学院総合リハビリテーション研究, 第2巻, 第2号, pp.23-30.
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脳科学辞典|前頭前野
コトバンク|書写とは

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