「問題を解決する」ためにはどんな方法が効果的でしょうか。かつて世界的コンサルティング企業、マッキンゼーで活躍し、ベストセラー『ゼロ秒思考』(ダイヤモンド社)の著者としても知られる赤羽雄二(あかば・ゆうじ)さんは、自身が提唱する「アクティブリスニング」によって多くの問題を解決できると言います。なぜそうできるのか、アクティブリスニングの実践法とともに教えてもらいました。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカット)
きちんと話を聞いたうえで、相手にあまり遠慮せず質問する
問題を解決するためのアプローチにはいくつかありますが、そのひとつが私の提唱する「アクティブリスニング」です。具体的には、「相手に関心をもち、真剣に話を聞きながら、疑問点があったらあまり遠慮せずに質問する」ことです。
当たり前に聞こえますが、「相手に関心をもち、真剣に話を聞く」とは、どんな態度で聞くことを示すのでしょうか?
きちんと相手の話を聞くという場合、たとえば「傾聴」や「拝聴」といった言葉も使われます。でも、これらは、「目上の人に対してかしこまった態度で話を聞かせていただく。質問などもってのほか」というニュアンスが強いものです。
一方、アクティブリスニングでは姿勢がかなり異なります。真剣に話を聞いているうちに浮かんだ疑問点を、相手にあまり遠慮することなく、質問します。丁寧であれば失礼なことではありません。実際、多くの人は、真剣に話を聞いてもらい、その内容を十分ふまえた質問をされることを嬉しく思います。結果として、話が弾み、質問の答えどころか、こちらが想定もしていなかったこと、あるいは相手が意識していなかったことまでもが引き出され、深い会話になります。
アクティブリスニングがもたらす3つのメリット
このアクティブリスニングには、大きく3つのメリットがあります。
【アクティブリスニングのメリット】
- 相手に信頼される
- 問題の本質・構造がわかる
- 問題を解決できる
1つめは、「相手に信頼される」ということ。自分の話をしっかり聞いて、かつ興味をもって質問してくれる相手に対して、どう思われるでしょうか。「この人は私のことをわかろうとしてくれている」と感じるでしょう。自分をわかろうとし、真剣に話を聞いてくれる人を嫌うことはあまりありません。そういう状況が続いているうちに、好感をもち、信頼感が高まるのが自然な気持ちだろうと思います。
アクティブリスニングの2つめのメリットは、「問題の本質・構造がわかる」ようになることです。相手の話を真剣に聞き、疑問点があったらあまり遠慮せずに質問することで、だんだん問題の全体像が見えてきます。そして、疑問点が解消し、問題の本質・構造が浮かび上がってきます。ただ、あまりにも何も知らないと、事情を理解することやそこでの問題の本質・構造を把握することができませんので、普段から何事にも好奇心をもち、Googleアラートなどを活用して適切に情報収集しておくことが必要です。
3つめのメリットは「問題を解決できる」ことです。問題の本質や構造がわかると、「だったら、こうすればいいんじゃないか」と、解決法が浮かぶようになります。こちらはかなり勉強して、引き出しを多くつくっておくことが必要です。
特にリーダーに有効なアクティブリスニング
アクティブリスニングは決して難しくはないのですが、「なんとなく話を聞いて、なんとなく質問をする」人が多いようです。これはたいへんもったいないこと。せっかくの機会を生かせないからです。
アクティブリスニングは、すべての人にとって力を発揮してくれるものですが、特にリーダーの立場にある人には大いに役立ってくれます。というのも、多くの部下はリーダーに対して遠慮し、萎縮しており、意見を言いづらいからです。
リーダーは仕事柄、部下にあれこれと指示を出します。しかし、部下のほうが現場のことをよく知っている場合も多くあります。部下は「いまの指示はちょっと見当違いなんだけどなあ」などと思いながらも、なかなか言い出せません。下手に言うと、「いいからやれ!」「つべこべ言わずにやれ!」「おまえの話なんか聞いてないんだよ」と言われて嫌な気分になるのがおちだからです。当然、こういう組織がしっかり成果を挙げることなどできません。
そうならないために、リーダーは部下を下に見るのではなく、徹底的に、真剣に話を聞き、現場や組織の本質的な課題を把握する必要があります。「自分は部下の話をきちんと聞いてやるいい上司だ」といった自己満足に陥っている上司が多いので、心したいところです。
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【プロフィール】
赤羽雄二(あかば・ゆうじ)
ブレークスルーパートナーズ株式会社 マネージングディレクター。東大工学部卒業後、コマツにてダンプトラックの開発に携わる。スタンフォード大学大学院に留学後、マッキンゼー入社。ソウルオフィスをゼロから立ち上げるなど、14年間活躍。その後、ブレークスルーパートナーズ株式会社を共同創業し、ベンチャー経営支援、大企業の経営改革、幹部育成、新事業創出に取り組む。韓国、シンガポール、インド、ベトナムなどの企業を支援。著書に『ゼロ秒思考』『速さは全てを解決する』『変化できる人』など国内21冊、海外21冊。合計95万部超。内外での講演多数。東京大学、早稲田大学、電気通信大学、北陸先端科学技術大学院大学講師。
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【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。