多くの時間を仕事に費やし、自分の趣味を“ないがしろ”にしてはいませんか? 「今は仕事の成果をあげることだけで精一杯。のんびり趣味を楽しむのは引退してからでいい」と考えるのは間違いかもしれません。むしろ趣味に没頭するほうが、仕事のパフォーマンスも上がるそうですよ。
社員が趣味を楽しめば会社も右肩上がり!?
米経営学誌ハーバード・ビジネス・レビューで紹介されたある調査によると、多くのビジネスパーソンには、趣味を含む、“時間がなくて取り組めない活動” が複数あるのだとか。おそらく日本のビジネスパーソンも同じことでしょう。
これに対し、クラウドの通信ソリューションを提供する Nextiva のディレクター、ガエタノ・ディナルディ(Gaetano DiNardi)氏は、仕事だけに没頭し、趣味にほとんど時間を割かない状況は、社員のみならず企業にまで損害を与えると説明しています。
社員ひとりひとりが没頭できる趣味を持っていると、個々における仕事のパフォーマンスが向上し、それにともない企業の生産性も上がるとのこと。社員は趣味を楽しんだほかに、給料アップという嬉しいプレゼントまでもらえる可能性があるわけです。
人材紹介事業などを行うアクシスコンサルティング株式会社のコラムには、「優秀な人ほど、趣味の時間を死守している」と、転職の相談にくるビジネスパーソンの傾向について触れています。
優秀だから趣味の時間をつくれるともいえますが、ディナルディ氏の言葉を踏まえると、趣味を楽しんでいるからこそ、仕事に好影響が及び、その社員が働く企業も恩恵を受ける、とも考えられるわけです。
趣味によって向上する3つのスキルとは?
1日中忙殺されるだけの仕事を抱えているというディナルディ氏が、自身の経験を通じて結論づけた「趣味によって向上する3つのスキル」を紹介しましょう。
趣味によって向上するスキル1【創造性】
目標や成果、締切りで頭がいっぱいになることは、革新的かつ独創的なアイデアを求められ続ける仕事のパフォーマンスに、負の影響を及ぼします。
しかし、音楽・写真・アート・物づくり・料理といった、クリエイティブな趣味は、創造力を再び目覚めさせるのだとか。私たちに精神的な余裕を与え、頭を真っ新な状態にしてくれるからです。
認知神経科学教授の Arne Dietrich 氏によれば、私たちが閃きの瞬間(Eureka!)を待っているとき、あるいは芸術的なインスピレーションを体験しているとき、「思考(大脳新皮質)」と「感情(大脳辺縁系)」は一緒に働くそう。 そして、「思考」と「感情」が連携して働くと、私たちはより創造的になれるとのこと。
ペンシルバニア大学教育大学院の上級研究員・Annie McKee 氏は、「感情」が「脳の機能」に影響を与え、「脳の機能」が「創造性」に影響を与えると説明します。そのためには、正しい“感情的な状態”が必要とのこと。それがまさに、趣味を楽しむ時間です。
アイデアが出ない、いい考えが浮かばない。
そんなときは、クリエイティブな趣味で「論理的思考」と「感情」の両方を働かせ、創造性をせき止めている門をドカーンと開きましょう。
趣味によって向上するスキル2【視点】
アイデアを創出できたとしても、そのあとには厄介な問題が残っています。それは、「他者がどう受け止めるか」ということ。せっかく出したアイデアを生かしたいなら、それについても考え抜く必要があります。
ところが、仕事だけに没頭していると、ただ業務をこなすことや、とにかく完成させること、特定のターゲットだけに気をとられてしまうことが起こりがちです。他者の目を通して物事を見ること、違う視点で世界を見ることを、つい忘れてしまうのです。
しかし、クリエイティブな趣味に取り組むと、たとえばディナルディ氏のように音楽をつくったり、あるいは絵を描いたり、陶芸にいそしんだり、ミステリー小説を書いたりする場合、「この作品に触れた人々は、どんな反応を示すだろう?」と、いろいろ想像しやすくなります。
ディナルディ氏によれば、自分のつくった曲を初めて聴いた人が、どう反応するかを考え続けることで、その「視点」を取り戻せるのだとか。そして、その意識を保ったまま仕事に戻ることができるそうです。
ダートマス大学タック経営大学院のマネジメントと経営組織の教授である Pino G. Audia 氏は、大企業のリーダーがどのようにして、個人のスキルから見た視点を組織の能力に変えることができたか示しています。
クリエイティブな趣味を楽しむということは、自分以外の視点を得るということ、そして、企業全体の底上げになる可能性も秘めているというわけです。
趣味によって向上するスキル3【自信】
仕事で行き詰まると、創造力に対する自信は簡単に失われてしまうとディナルディ氏はいいます。しかし、同氏は1時間ギターを弾き続け、完璧に弾きこなすことで、自信を維持できるのだそう。
サンフランシスコ州立大学心理学科などによる2014年の研究では、創造的な活動で「職場のストレスから回復できる」「高パフォーマンスにつながる」という可能性が示唆されました。企業が従業員に創造的な活動を奨励することで、企業自体も恩恵を受ける可能性があるとのこと。
だからといって、無理に長い時間をクリエイティブな趣味に割かなくてもいいそうです。ドレクセル大学看護健康大学助教授 Girija Kaimal 博士らの研究では、わずか45分のアート制作でも、自己効力感を高めるのに十分だと示されたそうです。
たったそれだけで、課題を達成する自信や能力の向上につながるのであれば、クリエイティブな趣味を取り入れない手はありません。きっと感性も磨かれるはずですよ。
趣味を持つビジネスパーソンの3タイプ
アクシスコンサルティング株式会社によると、趣味の時間を大切にしているビジネスパーソンには、3つのタイプがいるそうです。そちらを参考に区分けてみると、こうなります。
1.【オン・オフ切り替え型】:趣味と仕事を完全に切り分けて考えるタイプ。どちらにも全力投球が可能な切り替え上手。
2.【オン主導型】:趣味で知識や人脈を蓄え、できるだけ仕事につなげていこうとするタイプ。仕事のフィルターを通して趣味の時間を有意義に過ごす。
3.【オフ主導型】:仕事は趣味のためにお金を稼ぐ手段だと考えるタイプ。趣味のことを思えば、どんな仕事だって頑張れるかも。
同社も伝えていますが、いずれのパターンにも正解・不正解はありません。その人自身がいい状態で趣味の時間を過ごしたり、仕事をしたりすることが大切です。どう取り組もうかと迷ったとき、参考にしてください。
ディナルディ氏は、最終的に皆が得をするので、少しでも時間ができたら、罪悪感を抱かずに、どんどんクリエイティブな趣味に取り組むようすすめています。
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なお、今回はディナルディ氏の経験や研究成果などを踏まえ、クリエイティブな趣味に焦点を当てていますが、旅やスポーツ、カフェ巡りや寺巡り、映画鑑賞に、小説を読んでワクワクしたりドキドキしたりするのも有効です。
なぜならば、大切なのは「思考」と「感情」が連携して働くことだから。あなたの感情を揺さぶる趣味を、大いに楽しんでくださいね。
(参考)
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー|HBR.ORG翻訳リーダーシップ記事|仕事の時間を減らして趣味にもっと多くを費やそう
コンサル転職&ポストコンサル転職のアクシスコンサルティング【公式】|できる人には必ず趣味がある! 社会人におすすめの趣味7選
Harvard Business Review - Ideas and Advice for Leaders|How to Free Your Innate Creativity
Harvard Business Review - Ideas and Advice for Leaders|Train Your People to Take Others’ Perspectives
Wiley Online Library|Benefiting from creative activity: The positive relationships between creative activity, recovery experiences, and performance‐related outcomes
Drexel News Blog – Stories from Drexel University's media relations team|Study: Just 45 Minutes of Art-Making Improves Self-Confidence
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STUDY HACKER 編集部
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