「言いにくいこと」を部下に伝えるときの3つの基本。中途半端な○○はしてはいけない

部下に問題点を指摘している上司の手元

部下に対し問題点を指摘するのは、上司の重要な役割のひとつです。しかし、「言いにくいこと」を伝えるは苦手だという人も多いのも事実。そのような場面で効果的なのが、「ネガティブフィードバック」というコミュニケーション技術です。

著書『ネガティブフィードバック』(アスコム)が好評を博している、マンパワーグループ株式会社シニアコンサルタントの難波猛さんに、ネガティブフィードバックの基本を聞きました。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人

【プロフィール】
難波猛(なんば・たけし)
1974年生まれ、山口県出身。マンパワーグループ株式会社シニアコンサルタント。プロティアン・キャリア協会認定アンバサダー。人事実践科学会議事務局長。日本心理的資本協会理事。NPO法人CRファクトリー特別アドバイザー。早稲田大学卒業後、出版社、求人広告代理店を経て2007年より現職。研修講師、コンサルタントとして3,000人以上のキャリア開発施策、2,000人以上の管理者トレーニング、100社以上の人員施策プロジェクトにおけるコンサルティング・研修等を担当。セミナー講師、大学講師、官公庁事業におけるプロジェクト責任者も歴任。著書に『「働かないおじさん問題」のトリセツ』(アスコム)、『ネガティブフィードバック 嫌われてもきちんと伝える技術』(まんがびと)、『「リストラされにくい人」になる5つのポイント』(まんがびと)、『「働かないおじさん」は、なぜ「働けない」のか?』(まんがびと)がある。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。

ハラスメントを恐れ、部下になにも言えない上司が増加

私の仕事は人事のコンサルタントです。いろいろな企業から依頼をいただいて、主に管理職向けの研修を行なっています。そのなかで、「上司の立場にある人が、なんらかの問題を抱えている部下に対して厳しいことをなかなか言えない」といった相談を受けることが本当に多いのです。

その最大の原因が、ハラスメントです。最近だとなにを言ってもハラスメントにされるとして、「ハラスメント・ハラスメント」「ハラハラ」なんて言葉も登場していますが、なにをどのように伝えればハラスメントになるのか、あるいはならないのかということに対して上司も会社もすごくセンシティブになっています。

そのような背景があり、特に若手の社員をまるで親戚から預かった子どものように、いわば過保護に育成しようとします。「ハラスメントにならないように」と考えた結果、上司がなにも言わない、言えない状況を招いてしまうのです。

また、その結果として「ゆるい職場問題」も起きています。いわゆる、ホワイトの大手企業に勤めているにもかかわらず、若手社員の離職率が上昇しているのです。

いまの若い世代は、「終身雇用制は終わった」「転職するのが当たり前」という認識をもっています。すると、上司から厳しいことをなにも言われないゆるい職場のなかで、「この会社にいても成長できない」「学生時代の同級生に差をつけられてしまう」と考えます。そうして、意識の高い若手社員の離職率の高さが大きな問題となっているのです。

ハラスメントを恐れ、部下になにもいえない上司が増加していることについて語る難波猛さん

相手の行動の問題を改善するコミュニケーション手法

また、部下に対して上司が厳しいことを言えない原因には、私が自著『「働かないおじさん問題」のトリセツ』(アスコム)で扱った、「働かないおじさん問題」もあります。

かつての年功序列制から実力主義やジョブ型人事制度への移行、ポストオフ制度や役職定年制度の運用、定年後の再雇用や定年延長など労働環境が変化したことで、かつての上司や先輩が若い社員の部下になるケースが増えています。

20代や30代の若い上司からすると、年齢としてもキャリアとしても大先輩にあたる部下に対して厳しいことを言いづらくて当然です。そのため、なんらかの問題を抱えているベテラン社員たちであっても、若い上司がなにも言ってこないからと「自分はこのままでいい」と考え、「働かないおじさん」が増加しているというわけです。

以上のような、部下への指摘が難しくなっているいまの時代にぜひ実践してほしいのが、「ネガティブフィードバック」です。ネガティブフィードバックとは、相手の行動の問題点を指摘して改善を促す手法を指します。

もちろん、ただ一方的に叱ったり感情的に怒ったりするのではありません。心理学的理論やコミュニケーション理論などを用いながら、相手に問題が生じている事実についてきちんと伝えます。そのうえで対話をして相手の行動を変えていくという、双方向型のコミュニケーションの全体像をネガティブフィードバックと呼びます。

相手の行動の問題を改善するコミュニケーション手法について語る難波猛さん

ネガティブフィードバックで意識すべき3つのポイント

このネガティブフィードバックにはいくつかポイントがありますが、なかでも重要なのは以下の3点です。

【ネガティブフィードバックのポイント】

  1. 伝えるべきことは、回りくどくならないようにきちんと伝えきる
  2. 伝えるべきことを伝えたら、相手の話を傾聴する
  3. 中途半端にフォローしない

部下の問題点を指摘するなど言いにくいことを伝える場合、どうしても「嫌われたくない」といった気持ちが生まれます。しかし、上司の役割は部下に好かれることではなく、組織の成果を最大化することです。

そのために部下の問題点に対して指摘が必要なのであれば、嫌われるのを覚悟のうえで、伝えるべきことをきちんと伝えきらなければなりません。そうできずに組織の成果が低下していけば、上司である自分自身の評価も下がってしまいます。

次のポイントは、伝えるべきことを伝えたうえで部下の言い分を傾聴するということ。上司の立場にある人は、つい「こうすべきだ」「こうしてほしい」など部下を説得しよう、論破しようと考えがちです。そうして相手の言葉を遮って上司ばかりが話してしまうと、部下は上司から伝えられたフィードバックについて、じっくり内省できないのです。

最後のポイントは、中途半端にフォローしないことです。ネガティブなフィードバックを伝えられた部下は、たいていの場合は嫌な顔をしますし、その面談の空気もどんよりしたものになるでしょう。

そのとき、「少しでもいい雰囲気で終わらせたい」と考えて「ちょっと厳しいことを言っちゃったけれど、あなたにはこんないいところもある」などとフォローして丸く収めようとすると、相手は「さっきの話は結局なんだったのか?」「いまのままでいいのかな?」ととらえ、伝えるべきことがきちんと伝わらないということになりかねません。

心理学的には「認知の不協和」と言いますが、部下がもっている「このままでいい」という認知に、上司が外部から「そうではない」という認知をぶつけ、部下本人が適切にモヤモヤを感じる状況をつくってあげましょう。そのモヤモヤによって、部下は行動の改善に向かって動けるようになるのです。

「言いにくいこと」を部下に伝えるときの3つの基本についてお話しくださった難波猛さん

【難波猛さん ほかのインタビュー記事はこちら】
いくら言っても部下が変わらないのは上司が○○しているから。部下の行動を本当に変える方法
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