「革新的なアイデアを出したいのに、いつも平凡なものしか思いつかない……」
「斬新な案を生み出すライバルたちに、自分なんかではとてもかなわない……」
クリエイティビティが欠けていると、なかなか周囲と差をつけるのは難しいものです。たとえば、社内コンペなどの競争シーンで自分の企画にひときわ異彩を放たせるために、企画のどこをどう改善すればよいかわからず困っている。そんな人は多いのではないでしょうか。
そこで今回は、クリエイティブに物事を考えられる脳の育み方をお伝えしたいと思います。
「クリエイティブな人」がもつ脳のネットワーク
「クリエイティブ」の訳語としてあてがわれることの多い「独創的」という言葉を日本国語大辞典で引いてみると、こう説明されています。
従来、類似のものがない、新しい着想が表われているさま。
(引用元:コトバンク|独創的)
これに基づけば、「クリエイティブな脳」とは、いままで常識と考えられていたことを、まったく別の新しい視点でとらえる脳のことだと言えるでしょう。
突然ですが、1足の靴下を思い浮かべてみてください。みなさんは、足に履いたり、クリスマスプレゼントを入れたりする以外に、靴下の用途を思いつけるでしょうか? たとえば、ゴミを取り除く水の濾過システムとして、もしかしたら使用できるかもしれませんね。
ペンシルバニア州立大学准教授で心理学や神経科学を専門とするRoger E. Beaty氏によると、よりクリエイティブな脳をもっている人々は、通常は連携しない脳のネットワークを同時に働かせることができるそう。先の例で言うと、「靴下の役割といえばこれ」という既成概念から離れ、「靴下に汚れた水を通す」という本来とは違う役割を結びつける、といったようなことです。
そうは言っても、いままでに考えつかなかったような斬新なアイデアを生むことなど、そんなに簡単ではないと思う人もいるでしょう。私たちはいったいどうすれば「クリエイティブな脳」を育むことができるのでしょうか? 以下で、ふたつのヒントをご紹介します。
【クリエイティブな脳を育む方法1】ゾーンへ入る
クリエイティブな脳をつくる方法のひとつめは、「ゾーンへ入る」こと。ゾーンとは、「集中力が極限まで高まっている状態」を指します。ほかに「超集中状態」や「フロー状態」とも呼ばれ、スポーツ選手に関する話題でよく耳にする言葉ですよね。
脳科学者の茂木健一郎氏によれば、人はゾーンへ入ると、自分以外がゆっくり動いているように見えるなど、視覚や聴覚が普段よりも鋭くなるのだとか。そうして感覚が研ぎ澄まされると、脳の処理スピードが上がったり、クリエイティブなアイデアを生み出しやすくなったりするそうです。
では、ゾーンへ入るにはどうすればよいのでしょうか。予防医学研究者の石川善樹氏は、「極端なストレスを感じること」と「一気にリラックスすること」のふたつの要素が必要だと説きます。
まずは、前者の「極端なストレス」について。石川氏が挙げるストレスのかけ方に、「ギリギリまで何もしない」という方法があります。余裕をもって準備すべきだとはよく言いますが、試験や仕事の締め切りといった期限まであえて何もしないことで極限状態をつくり出すのが、ゾーンに入るポイントとのこと。
「ヤバイ、ヤバイ」だけではゾーンに入らないのです。「ヤバイ、ヤバイ」の後に「仕方ない、やるか」と開き直った人だけがゾーンに入って勉強ができたり仕事ができたりする。
(引用元:INDUSTRY CO-CREATION|ゾーン(究極の集中状態)に入るための3つのステップ。「ストレス」「リラックス」「集中」)
こうして極度のストレスを感じたら、次は「一気にリラックス」するステップ。石川氏がすすめるのは「3・2・5法」という呼吸法です。息を3秒吸って、2秒ためて、5秒吐くと、一気にリラックスできるそう。
ここまでのことをふまえて、ユニークなアイデアが求められる仕事に着手するときは、納期に間に合うギリギリまで手をつけずに待ち、「3・2・5」法で一気にリラックスしてから作業を開始してみてはいかがでしょう。ゾーン状態に入れて、いいひらめきが得られるかもしれません。
【クリエイティブな脳を育む方法2】気が散る環境に身を置く
発想の転換や斬新なアイデアが必要なときには、ゾーン状態をつくり集中力を極限まで高めるとよい一方、逆に気が散る環境に身を置くのも効果的です。
カレッジ・オブ・チャールストン心理学教授のCindi May氏らが実施した研究で、「SPACE(宇宙)」という単語を連想させるため、「SHIP(船)」「OUTER(外)」「CRAWL(はう)」の3つの単語を被験者に提示しました。ただし、3つの単語それぞれには「SHIP-ocean(海)」「OUTER-inner(内)」「CRAWL-baby(赤ちゃん)」のように、答えを紛らわせるような単語も一緒につけておいたそうです。
もちろん「宇宙」と正確に答えることのできた人は少なく、被験者は「ocean」「inner」「baby」といった余計な要素に気をとられたことが証明されました。一方、被験者の創造力を確かめるテストを行なったところ、「宇宙」以外に被験者が思いついた言葉は意外にも多く、彼らが複数の思考ネットワークを通じて言葉を連想していたことも明らかになりました。余計な要素があったことで、創造力がかえって高まったということですね。ひらめきを得たいときは、雑多な情報が目につくようにしておくといいかもしれません。
また、興味深いことに、デスクに置いておくと創造力が高まる玩具があると、ニューヨーク市立大学やパーデュー大学の研究者が明らかにしています。たとえば、バネのおもちゃ「スリンキー」や5つの球がついている「ニュートンのゆりかご」などは、ストレスを緩和したり、同僚との会話のきっかけとなったりするとのこと。ストレスが緩和されリラックスした状態だと、いままで見落としていた要素にも客観的に目を向けられるようになります。また同僚との会話も、自分だけでは考えつかなかったアイデアを生む呼び水となるものです。
気を紛らわせてしまうからと避けていた「邪魔で余計なもの」も、クリエイティブなアイデアを生み出したいときには意外と効果的に働いてくれるのですね。
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物事をクリエイティブに考えられることは、ビジネスパーソンにとって大きなアドバンテージとなりうるでしょう。今回紹介したふたつの方法を実践して、ぜひみなさんの脳をクリエイティビティあふれるものにしてみてください。
(参考)
WIRED.jp|「クリエイティヴ」な人々は、脳のネットワークも“独創的”だった
茂木健一郎(2014), 『この法則でゾーンに入れる! ―集中「脳」のつくり方』, 朝日出版社.
コトバンク|独創的
iXキャリアコンパス|脳の仕組みを知ればひらめきは起こせる、「クリエイティブ脳」の作り方
INDUSTRY CO-CREATION|ゾーン(究極の集中状態)に入るための3つのステップ。「ストレス」「リラックス」「集中」
Scientific American|The Inspiration Paradox: Your Best Creative Time Is Not When You Think
Inc.com|5 Desk Toys That Can Improve Your Productivity
【ライタープロフィール】
YG
大学では日韓比較文学を専攻し、自身の研究分野に関する論文収集に没頭している。言語学にも関心があり、文法を中心に日々勉強中。これまでに実践報告型の記事を多数執筆。効果的で再現性の高い勉強法や読書術を伝えるべく、自らノート術や多読の実践を深めている。