どの職場にも、「あの人がいるだけで精神的にしんどい」というような「自分にとって面倒くさい人」がいるものです。でも、面倒くさい人ともうまくやりながら働くことも、ビジネスパーソンにとって必要不可欠。では、そんな面倒くさい人とはどのように関わればいいのでしょうか。
お話を聞いたのは、産業医として多くの企業で健康障害や労災を未然に防ぐべく活動している井上智介(いのうえ・ともすけ)先生。面倒くさい人の「ターゲット」にならないためには、「会議で発言をすることから始めてほしい」と語ります。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹
職場における面倒くさい人の5タイプ
これまで、産業医として多くの企業に関わったり、精神科医として職場の人間関係に悩みを抱えている人たちの相談を受けたりしてきた経験から、職場における「面倒くさい人」を私は5つに分類しました。
【「面倒くさい人」の5タイプ】
- 悪口、陰口ばかり言う人
- 事あるごとにマウンティングしてくる人
- ハラスメントをしてくる人
- むちゃぶりをしてくる人
- 責任を押しつけてくる人
1つめのタイプは、「悪口、陰口ばかり言う人」。たとえ自分が悪口を言われる立場ではなくとも、毎日のようにその悪口や陰口に付き合わされてしまえば疲れますし、場合によっては自分が共犯者のように扱われてしまう可能性もあるでしょう。
2つめのタイプは、「事あるごとにマウンティングしてくる人」。自慢話ばかりする人、あるいは、こちらの話を遮って「そんなのまだましだよ、私なんて……」と自分を卑下する人もいます。こうした人と顔を合わさなければならないのも、やはり大きなストレスとなりますよね。
3つめのタイプは、「ハラスメントをしてくる人」。最近ではハラスメントに対する意識が高まりつつありますが、デリカシーのない発言をする人はまだまだ多いのではないでしょうか。
4つめのタイプは、いわゆる「むちゃぶりをしてくる人」。上司や先輩といった立場を利用して、無理な要求をしてくる人があなたの会社にもいるのではありませんか?
最後の5つめのタイプが、「責任を押しつけてくる人」。このタイプは、嫌な上司の典型的なものだと思います。上下関係を利用したり、同僚であってもおとなしい人を狙って責任を押しつけたりして自分を守ろうとする人です。
面倒くさい人に見られる共通点
じつは、この5タイプの面倒くさい人たちには、ひとつの共通点が見られます。それは、相手の恐怖心や、「そうだよな、仕方ないな」と思わせる義務感、「申し訳ない」と思わせる罪悪感などを利用して「自分が思ったとおりに相手をコントロールしようとしている」のです。
面倒くさい人にはそのような意図がありますから、悪口を聞かせたりマウンティングをしたりハラスメントをしたりする相手、すなわちターゲットも意図的に選んでいます。ターゲットにされやすいのは、「自分に自信がない人」「嫌われることを恐れすぎている人」「自己主張しない人」です。むちゃぶりをするのだって、「この面倒な仕事を押しつけたい」という願望があり、その願望を簡単に聞いてくれそうな、コントロールできそうな相手を選んでいるわけです。
また、面倒くさい人には、そのようなコントロールをしているのを周囲に知られることを恐れているという特徴もあります。誰彼かまわずターゲットにするのではなく、「この相手なら、むちゃぶりのことをほかの人に言ったり相談したりするようなことはないだろう」と思う相手をターゲットに選んでいるのです。
ですから、自分の言動に対して強く反発してくるような人は最初からターゲットにしませんし、最初はターゲットにした相手でも途中で「この相手はコントロールしづらそうだ」と思ったら、すぐに身を引くという特徴も見られます。
面倒くさい人のターゲットにされない方法
もちろん、できればそんなターゲットにはされたくないですよね? ターゲットにされないためには、ターゲットにされやすい人と真逆の人間になればいいのです。ターゲットにされやすいのは、「自分に自信がない人」「嫌われることを恐れすぎている人」「自己主張しない人」でした。
つまり、ターゲットにされないためには、自分に自信をもち、嫌われることを恐れすぎず、そして何より「自己主張する人」になればいいということです。
とは言ったものの、自分に自信がなくて嫌われることを恐れすぎている人が、いきなり今日から自己主張するのは難しいでしょう。そうであるなら、最終的には自分の考えをしっかり主張できるようになることを目指しつつ、まずはまわりの人たちにSOSを発したり相談をしたりすることから始めてみてください。先にお伝えしたとおり、面倒くさい人は、その言動で誰かをコントロールしているのを周囲に知られることを恐れているからです。
そしてぜひやってほしいのが、会議などの場では必ず発言をすること。自分に自信がなくて嫌われることを恐れすぎていて自己主張しない人は、会議の場でもほとんど発言をしない場面がよく見られます。そのままでは、面倒くさい人に対して「私は格好のターゲットですよ」と自己紹介しているようなものです。
1回でも2回でもいいので、会議では必ず発言をしてください。そうすると、面倒くさい人は、「じつはけっこう自己主張をするタイプなんだな」と感じて、あなたをターゲットから外してくれるはずです。
もしすでにターゲットにされているのだったら、その面倒くさい人を、最初にお伝えした「面倒くさい人」の5パターンに基づいて分類してみましょう。ターゲットがコントロールされてしまう要因の多くは、恐怖心にあります。そして、恐怖とは未知のものに対してより強く感じるものです。そこで、面倒くさい人を分類して、たとえば「ああ、この人は『事あるごとにマウンティングしてくる人』なんだな」と理解できれば、恐怖は大きく低減するのです。
【井上智介先生 ほかのインタビュー記事はこちら】
「好印象を与えない」のが正解。高圧的、むちゃぶり……面倒くさい上司から自分の心を守るコツ
同調圧力に屈しない強いメンタルのつくり方。同僚に「合わせる」ことに疲れていませんか?
【プロフィール】
井上智介(いのうえ・ともすけ)
兵庫県出身。島根大学医学部卒業後に産業医・精神科医・健診医の3つの役割を中心に活動している。産業医として毎月約30社を訪問。精神科医・健診医としての経験も活かし、健康障害や労災を未然に防ぐべく活動している。また、精神科医として大阪府内のクリニックにも勤務。「すべての人に大ざっぱに(rough)、笑って(laugh)人生を楽しんでもらいたい」という思いから「ラフドクター」と名乗り、SNSや講演会などで心を楽にするコツや働く人へのメッセージを積極的に発信している。『職場のめんどくさい人から自分を守る心理学』(日本能率協会マネジメントセンター)、『この会社ムリと思いながら辞められないあなたへ』(WAVE出版)、『対人関係療法でストレスに負けない自分になる』(日本能率協会マネジメントセンター)、『ストレス0の雑談』(SBクリエイティブ)、『繊細な人の心が折れない働き方』(ナツメ社)、『ストレス社会で「考えなくていいこと」リスト』(KADOKAWA)など著書多数。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。