いつも態度が高圧的だったり頻繁にむちゃぶりをしてきたりと、若手から見て「面倒くさい上司」ほど厄介なものはありません。そんな上司との関わり方を教えてもらうべく、多くの企業で健康障害や労災を未然に防ぐ活動をしている、産業医・精神科医の井上智介(いのうえ・ともすけ)先生に話を聞きました。先生の回答は、「いますぐに『いい人』でいることをやめてほしい」というものでした。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹
振り回されないために、面倒くさい上司の心理を知る
私は、産業医として毎月約30社を訪問しています。また、精神科医としても職場の人間関係に悩みを抱える多くの人たちから相談を受けてきました。そうした活動のなかで、私は職場における「面倒くさい人」には5つのタイプがあると分析しました。
その5タイプとは、「悪口、陰口ばかり言う人」「事あるごとにマウンティングしてくる人」「ハラスメントをしてくる人」「むちゃぶりをしてくる人」「責任を押しつけてくる人」です(『「自分をコントロールしようとしてくる人」に振り回されない方法。1回でも○○してみるといい』参照)。みなさんのまわりにも、ひとりやふたりはいますよね?
こういう人が上司の場合、それこそ面倒くさいことが毎日のように続きます。精神衛生上いいとはとても言えませんから、そんな上司への対抗策をみなさんにも知っておいてほしいと思います。
対抗策のひとつは、「面倒くさい人の心理を知る」ことです。面倒くさい人に振り回される要因は、多くの場合、その人に対する恐怖心にあります。そして、恐怖は、未知のものに対して強く感じる特性がありますから、面倒くさい人の心理を知ればその恐怖はぐっと小さくなるというロジックです。
では、面倒くさい人の心理とはどういうものでしょう? よく見られるパターンに、「自分のコンプレックスを隠したい」というものがあります。悪口や陰口ばかり言う人は、その悪口を言っている部分に対して、自分自身がコンプレックスをもっていることも少なくありません。
誰かに対して「仕事はあまりできないのに、上層部の人間の前でうまく立ち回っているだけであいつは評価されている」のような悪口を言うのであれば、うまく立ち回れないこと、コミュニケーション能力が低いことをその人がコンプレックスに感じていて、そのコンプレックスが嫉妬心となり悪口というかたちで表出するわけです。
背筋を伸ばし、相手の目を見て落ち着いてゆっくり話す
ただ、面倒くさい人それぞれの心理を知ることは、私のような精神科医ならともかく、一般のみなさんにはそう簡単なことではありません。ですから、みなさんが実践しやすいことを紹介しましょう。
そのひとつとして、まず「おどおどしない」ことを挙げたいと思います。なぜなら、おどおどしていることで、面倒くさい人がターゲットにしがちな「自分に自信がない人」に見えてしまうからです。見せかけだけでも十分です。本当は面倒くさい上司に対して恐怖を感じていても、態度だけはおどおどしないように心がけましょう。
具体的には、背筋を伸ばして姿勢をよくすることを意識してください。猫背になっているだけで、周囲からは自分に自信がない人に映ってしまいます。
そして、ゆっくりと話すことも意識すべきポイントです。おどおどしているときは、つい早口になってしまうもの。ゆっくりと話すことで落ち着いた印象になり、相手には「自分に自信をもっている人」に見えてきます。
それから、会話をするときに目が泳いでしまうと、自信がないことを悟られてしまいます。少しだけ勇気が必要かもしれませんが、しっかりと相手の目を見て話すことも大切です。
面倒くさい上司のターゲットにされる「いい人」をやめる
また、面倒くさい人に対しては、「好印象を与えない」ことも対抗策のひとつとなりえるものです。なぜなら、面倒くさい人は、「自分に自信がない人」のほか、自分にとって都合のいい、いわゆる「いい人」もターゲットにしがちだからです。
面倒くさい人には、相手がもっている恐怖心のほか、「これは自分がすべきことだから仕方ない」「申し訳ない」といった義務感や罪悪感などを利用して、「自分が思ったとおりに相手をコントロールしようとする」という共通点があります。そして、コントロールしやすいと判断する相手こそ、「こいつだったら言うことを聞いてくれそうだな」と思わせる「いい人」です。
ですから、今日から「いい人」はやめましょう。たとえば、面倒くさい人からの業務時間外の連絡には、その場で反応せずに時間をかけることも「いい人」からの脱却につながります。
業務時間外にもかかわらず、面倒くさい上司からなんらかの頼み事をされたような場合、ターゲットにされる「いい人」は、どうしても間髪入れずに反応しがちです。もちろん内容によっては即座に対応しなければならないこともあると思いますが、よほどの緊急事態でなければ、業務時間になってから対応すればいいのです。
いずれにせよ、つい面倒な上司の言動に即座に反応してしまいそうなところを、ぐっとこらえることです。メールなどの返信についても、必要以上にへりくだってはいけません。自分を守ることを第一に考え、やるべき仕事を進めるための必要最小限の内容にとどめるようにしましょう。そうすれば、面倒くさい上司は、ターゲットとする「いい人」リストからあなたを消してくれるに違いありません。
【井上智介先生 ほかのインタビュー記事はこちら】
「自分をコントロールしようとしてくる人」に振り回されない方法。1回でも○○してみるといい
同調圧力に屈しない強いメンタルのつくり方。同僚に「合わせる」ことに疲れていませんか?
【プロフィール】
井上智介(いのうえ・ともすけ)
兵庫県出身。島根大学医学部卒業後に産業医・精神科医・健診医の3つの役割を中心に活動している。産業医として毎月約30社を訪問。精神科医・健診医としての経験も活かし、健康障害や労災を未然に防ぐべく活動している。また、精神科医として大阪府内のクリニックにも勤務。「すべての人に大ざっぱに(rough)、笑って(laugh)人生を楽しんでもらいたい」という思いから「ラフドクター」と名乗り、SNSや講演会などで心を楽にするコツや働く人へのメッセージを積極的に発信している。『職場のめんどくさい人から自分を守る心理学』(日本能率協会マネジメントセンター)、『この会社ムリと思いながら辞められないあなたへ』(WAVE出版)、『対人関係療法でストレスに負けない自分になる』(日本能率協会マネジメントセンター)、『ストレス0の雑談』(SBクリエイティブ)、『繊細な人の心が折れない働き方』(ナツメ社)、『ストレス社会で「考えなくていいこと」リスト』(KADOKAWA)など著書多数。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。