なぜ「やりたいこと」を仕事にしないほうがいいのか?

「転職は『やりたいこと』よりも『向いていること』で選ぶ」松本利明さんインタビュー01

多くの人が「やりたいこと」「好きなこと」を仕事にできれば仕事がより充実すると考えます。でも、「そうではなく『向いていること』を仕事にすべき」と語るのは松本利明さん。

大手外資系コンサルティング会社を渡り歩き、現在は人事・戦略コンサルタントとして活躍するプロフェッショナルである松本さんがそう主張する理由とは、どんなものなのでしょうか。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人

大企業で出世している人も「やりたいこと」をしていない

まず、みなさんに聞きたいのは、「あなたの『やりたいこと』というのは、本当にあなたがやりたいことなのか?」ということです。

わたしは、「やりたいことの9割は情報によって決まる」と考えています。皆さんのなかには、子どもの頃に「大人になったら仮面ライダーになりたい」なんて言っていた人もいるでしょう。でも、大学を卒業して就職するというときに「仮面ライダーになりたい」なんていっていたら、ちょっとおかしな人ですよね(笑)。

これは、成長とともに情報をどんどん吸収していくうちにやりたいことが変わった、ということにほかなりません。つまり、情報がやりたいことを決めたのです。

「転職は『やりたいこと』よりも『向いていること』で選ぶ」松本利明さんインタビュー02

また、やりたいことを仕事にしているはずなのに、どうもしっくりこないという人もいるでしょう。これには、親などによって植えつけられた価値観が影響していることが多いものです。

たとえば、専業主婦のお母さんにお父さんが暴力をするような家庭で育って、事あるごとにお母さんから「自分で稼げるようにならないと、お母さんみたいになっちゃうわよ!」と言われ続けていたために、独立して個人事業主になろうとすることもあるかもしれない。

でも、実際にその仕事に向いているかどうかは別問題なのです。向いていない仕事をしていれば、しっくりこないことはもちろん、先の個人事業主を目指すような人の場合、独立してもすぐに立ち行かなくなるということもあり得る話です

そもそも、大企業で出世している人も、多くは「やりたいこと」を仕事にしているわけではありません。

彼らに「なぜ出世できたのか」と話を聞いてみると、本人は「自分がやりたいことと会社の方針が合致したから」「入社したときからいまにつながるビジョンを持っていたから」なんて平然と答えます。でも、多くはもっともらしく記憶をねじ曲げただけ(笑)。なぜ彼らが出世できたかというと、「やりたいこと」ではなく「向いていること」に会社からアサインされたからなのです。

この現象は、リーダー選抜の現場でいつも痛感している事実です。他人に対して、出世した理由を「たまたま向いていた」とは言いにくいうえ、評価とやりがいを感じるので、記憶が捻じ曲がることは致し方ないのです。

「転職は『やりたいこと』よりも『向いていること』で選ぶ」松本利明さんインタビュー03

「速くラクにできること」に注目して自分の「持ち味」を知る

それだけ、「向いていること」を仕事にするほうが成果につながりやすいということです。だとしたら、やはり「やりたいこと」よりも「向いていること」を仕事にすべきではないでしょうか。それこそが自分が本当の意味で活躍できるということにつながります。

そして、そのために必要なのは、何よりも自分の「持ち味」を知ること。その持ち味を知るには、「ありがとうの声」に注目する直接「僕はどんな仕事が得意そうに見える?」「どんな仕事をやっているときに楽しそうに見える?」とまわりの人に聞いてみる、という方法を実践してほしいですね(詳しくは『「ひとつの会社にしがみつく」のがマズい理由。“なんちゃって昇進” にだまされていませんか?』を参照)。

また、自分が「速くラクにできること」を書き出してみるのもいいでしょう。たとえば、「暗算なら速くラクにできる」「瞬間的な記憶は速くラクにできる」という具合です。もしかしたら、それらはあなたが好きなこと、やりたいことではないかもしれません。でも、それらを生かしたほうがより活躍できることは間違いないのです。

わたしの場合、課題設定や問題解決は得意としていますが、先の例に挙げた瞬間的な記憶は大の苦手……。それこそ、立ち食いそば店になんて勤めたら、いつもオーダーを忘れてしまって、あっという間にクビになってしまうのは間違いありません(笑)。

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持ち味を「足し算」すればオリジナリティーが高まる!

それから、「速くラクにできること」とは別に、「コンプレックス」に注目することも、持ち味を知るためのひとつの方法です

というのも、コンプレックスというものは裏返すとたいてい魅力でもあるからです。世のなかで活躍している人も、多くはコンプレックスや欠点を魅力に変えている人なのではないでしょうか。

まずは自分のコンプレックスを書き出してみましょう。次にそれを「いい意味」に置き換えるのです

コンプレックスが「臆病」だということなら、いい意味に置き換えると「慎重」になりますよね。「ビジョンがない」ということがコンプレックスであれば、いい意味に置き換えると「柔軟性があり、どんなことも素直に学べる」とも言えます。これがあなたの持ち味です。

そして、こうして見つけた持ち味から、さらに「向いていること」を導き出す方法もあります。それは、最後に「だからどうなのか」とまとめるということ。

先の例なら、「臆病」をいい意味に置き換えると「慎重」、だから「絶対に間違ってはいけない数字などをチェックする仕事に向いている」という具合です。あるいは、「ビジョンがない」ことをいい意味に置き換えれば「柔軟性があり、どんなことも素直に学べる」、だから「スペシャリストではなくゼネラリストに向いている」となります。

また、見つけた持ち味を「足し算」してみてください。これは、持ち味のオリジナリティーを高めるためです。足し合わせる持ち味にギャップがあるほどいいですね。たとえば、「正確であり迅速」。ものすごく魅力的に思えてきませんか? ギャップがある持ち味を足し合わせていくほどに、導き出されるあなたの魅力は他人には出せないオリジナルのものになっていくはずです。

やりたいことにとらわれるあまりに、本当に活躍できる場所が見えていないとしたら、本当にもったいないこと。ぜひ、ここで紹介した方法を使って、あなたのオリジナルの持ち味を知り、それを最大限に発揮できる場所を見つけてください。

「転職は『やりたいこと』よりも『向いていること』で選ぶ」松本利明さんインタビュー05

【松本利明さん ほかのインタビュー記事はこちら】
「ひとつの会社にしがみつく」のがマズい理由。“なんちゃって昇進” にだまされていませんか?
“自分はすごい” アピールは全然響かない。転職活動でうまくいく人が自己PRで使う「2つのキー要素」

【プロフィール】
松本利明(まつもと・としあき)
1970年12月12日生まれ、千葉県出身。人事・戦略コンサルタント。HRストラテジー代表。外資系大手コンサルティング会社であるPwC、マーサージャパン、アクセンチュアなどを経て現職。これまでに5万人以上のリストラをおこない、6000人を超える次世代リーダーや幹部の選抜・育成に関わる。そのなかで「人の持ち味に合わせた育成施策をおこなえば、ひとの成長に2倍以上の差がつく」ことを発見。体系化したそのノウハウを数多くの企業に提供し、600社以上の人事改革と生産性向上を実現する。代表的な著書である『『「ラクして速い」が一番すごい』(ダイヤモンド社)、『「稼げる男」と「稼げない男」の習慣』(明日香出版社)などはベストセラー。英国BBC、TBS、日経、AERAをはじめメディア実績多数、講演実績多数。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。

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