「同僚とはよく会話をするけれど、なんとなく距離を感じる……」
「部下にはいつも優しく教えているのに、なかなか本音を聞かせてもらえない……」
上記のように、職場で「相手が心を開いてくれない」と感じることはありませんか?
特にトラブルも起こしていないし、表向きの関係性はいいはず……と、心当たりがないのであれば、普段の言動により相手に誤解されている可能性も。
今回の記事では、「この人には本心を見せられない」と思われてしまう人の特徴をお伝えします。対人関係の改善のために、ぜひご一読ください。
特徴1. 親切なのに、裏で悪口を言う
優しく協力的な「いい人」でありつつも、裏ではつい人の悪口を言ってしまう……。このような癖があるあなたは、もしかすると “フレネミー(frenemy)” と呼ばれる存在になっているかも。
日本メンタルアップ支援機構代表理事・公認心理師の大野萌子氏によると、「フレネミー」とは、「『friend / 友達』と『enemy / 敵』を組み合わせた造語」で、意味は「友達を装う敵」。
「表面上は仲良くしているのに、裏で悪口を言っていたり」、「親身な振りをして近づき、悩みや秘密を聞きだしてはそれを別の人にばらしたり」するなどの、厄介な言動をとるそう。(カギカッコ内引用元:eo健康|友達を装う“フレネミー”に要注意!? 見分け方と対処法)
ブリガム・ヤング大学の心理学者、ジュリアン・ホルト=ルンスタッド氏の研究(2019)によると、“仲のよい関係” や “嫌悪し合う関係” よりも、"敵か味方かわからない”フレネミーとの関係性のほうが、ストレス反応を高めると示されています。(National Library of Medicine|Social Ambivalence and Disease (SAD): A Theoretical Model Aimed at Understanding the Health Implications of Ambivalent Relationships より)
この研究をふまえて、サイエンスライターのデビット・ロブソン氏は、”The problem lies in the inherent uncertainty of their responses. ”(問題は、反応の不確実性にある)と考察しています。(英文引用元:BBC|Why workplace frenemies are our most stressful colleagues)
たとえば、仕事で「○○さんの協力が必要だ」となったとき、その人がフレネミーの場合、助けてくれる可能性も、冷たく拒否される可能性も考えられます。助けてもらえるかどうかわからないので、不安になるもの。またもし助けてもらえないとなると、単純に攻撃的な人に断られるよりも、より傷つくわけですね。
職場であなた自身がフレネミーと疑われないためには、以下の言動をとらないように注意してみてください。前出の大野氏によれば、フレネミーにはこんな特徴があるそうです。(以下カギカッコ内は「eo健康」記事より引用)
- 「人の悪口や噂話が多い」
- 「プライベートをしつこく詮索してくる」
- 「人の不幸な話が好き」
- 「おせっかいな部分がある」
- 「何かにつけてマウントを取りたがる」
- 「他の人との距離を空けさせようとする」
相手に警戒されているかも? と思うなら、フレネミーと似たようなことをしていないか考えてみてください。
また、ノースカロライナ大学・組織行動学准教授のシムル・メルワニ氏の調査によると、“親密になりたい” と思っている人ほど、相手を助けたり、妨害したりする傾向が見られたのだとか(APA PsycNet|The push-and-pull of frenemies: When and why ambivalent relationships lead to helping and harming.より)。つまり、“仲良くなりたい” という気持ちが、フレネミー的な言動として表れてしまうことがあるということ。
同僚と親密なコミュニケーションをとりたい――そう思う人ほど、気をつけたほうがいいのかもしれません。
特徴2. 自己満足の人助けをしようとする
一般的に “親切” であることは、チームの雰囲気をよいものへと変えるうえで大切。しかし専門家の見解をふまえると、求められていない “自己満足の人助け” になっていないかどうかには注意したほうがいいようです。
明治大学教授・進化心理学者の石川幹人氏は、「一方的に情報を与えようとする相手には、『マウンティングされた』と感じやすく」なると指摘しています。これは、狩猟・採集時代の人類が「集団で協力し合い、格差を作らないことで争いを減らしてい」たことの名残。(カギカッコ内引用元:PHPオンライン衆知|「聞いてもないのにアドバイスしてくる人」が持つ支配欲の正体)
よかれと思って「語学より投資の勉強をしたほうが役に立つよ」などとアドバイスをしたところで、相手はそのアドバイスを “求めていない” かもしれません。相手は、上下関係を示されたように感じ、あなたのことを煙たがる可能性があるのです。
アメリカのコンサルティング会社ナバレントの共同創業者、ロン・カルッチ氏は、「人助けの喜びは、自己満足と紙一重」だと述べます。なぜなら、人を助ける行為には「中毒性」があるから。
カルッチ氏によれば、人助けを行なうと脳は以下の化学物質を分泌するのだとか。
- セロトニン(強い幸福感を生み出す)
- ドーパミン(やる気を高める)
- オキシトシン(他者とのつながりを感じさせる)
その結果、幸福感を得たいあまりに「人を助けたいという欲求」に駆られ、「助けているのはもはや他者ではなく、自分自身」になるのだそう。このように、「人を支援することによって相手を救いたい(そして自尊心を保ちたい)という欲求」を「ホワイトナイト症候群」と呼ぶ――とカルッチ氏は紹介しています。
(上記枠内およびカギカッコ内引用元:DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー|自分が幸福感を得るために「人助け」をしていないか)
心理学者のメアリー C. ラミア氏によれば、ホワイトナイト症候群の人は、相手をコントロールできる一方で、最終的には関係構築に失敗するのだとか(Psychology Today|Your Sense of Agency: Are You in Control of Your Life?より)。親切や協力は大切ですが、人を “助けすぎる” のは、お互いにとって好ましいことではないのです。
前出の石川氏いわく、「本当に頼りにされるのは、上下関係なしに気軽に教えてくれる人」(引用元:前出の「PHPオンライン衆知」記事)。もしあなたが、「せっかくアドバイスしてあげたのに、感謝が足りないな……」と不満に思うのであれば、それは “自己満足の人助け” になっている可能性も。
「尊敬されたい」「味方になってほしい」という態度を控えて手を差し伸べることができれば、相手からの信頼を得られるはずですよ。
特徴3. 距離感が近すぎる
相手の本音を引き出すために、まず自分の話を打ち明ける――これはひとつのテクニックです。しかし、無理やり距離を近づけようと、突然深い本音を言うのは注意が必要。
心理学者の榎本博明氏は、自分の話を打ち明ける「自己開示」には「心理的距離が縮まる効果」があるとしたうえで、いきなり距離を詰めることの注意点に言及しています。
人間関係は相互性が大事です。相互性がない人は、不適応な人だとみなされてしまいますし、一方的に深い自己開示をする人は、自分の思いを自分で抱えることのできない不安定な人とみなされ警戒されてしまいます。なので、自己開示も相互性が大切です。
(カギカッコ内および上記枠内引用元:ウートピ|人間関係に疲れることもあるけれど…心地いい場所を作るためのつながり方 太字による強調は編集部が施した)
関係性がまだ浅いうちに込み入ったプライベートの話を一方的に打ち明けるのは、相手が引いてしまう可能性も考えられます。深い本音を話し合う行為は、互いによく知る関係でこそ、ポジティブな効果があると言えるのではないでしょうか。
また、「距離の近さ」については、部下をもつマネジメント側も注意を払うことが必要です。立命館大学教授・組織心理学者の山浦一保氏は、「上司との関係性が良いからこその息苦しさを生んでしまう」リスクを指摘しています。
山浦氏が根拠として引用しているのが、インディアナ大学の経営学准教授、ケネス・J・ハリス氏らの企業調査結果(2006)。それによると――、
上司との資源交換を十分に行って良好な関係性を築いた部下が、その上司の期待に応えようとし、高い水準のストレス状態に陥っているというのです。
(カギカッコ内および上記枠内引用元:ダイヤモンド・オンライン|上司の距離感が近い職場「部下のストレスレベル」に驚きの結果)
関係性がよいほど、部下は上司の期待を感じ “本音を言いづらい” 心理を抱えてしまうわけですね。
適度な距離感をつかむには、コミュニケーションを繰り返すなかで「相手を知り、自分の特徴も理解してもらう」ことが必要、と山浦氏は述べます。(引用元:同上)
もし、部下との関係はいいはずなのに「何を考えているのかわからない」と悩むのであれば、話を丁寧に聞き、相手を知ることから始めてみてはいかがでしょうか。
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「本音を言い合える関係」には、一朝一夕ではなりえません。今回の記事で紹介した注意点を参考にしながら、職場の人と本当の信頼関係を築いてくださいね。
(参考)
eo健康|友達を装う“フレネミー”に要注意!? 見分け方と対処法
BBC|Why workplace frenemies are our most stressful colleagues
National Library of Medicine|Social Ambivalence and Disease (SAD): A Theoretical Model Aimed at Understanding the Health Implications of Ambivalent Relationships
APA PsycNet|The push-and-pull of frenemies: When and why ambivalent relationships lead to helping and harming.
PHP オンライン衆知|「聞いてもないのにアドバイスしてくる人」が持つ支配欲の正体
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー|自分が幸福感を得るために「人助け」をしていないか
Psychology Today|Your Sense of Agency: Are You in Control of Your Life?
ウートピ|人間関係に疲れることもあるけれど…心地いい場所を作るためのつながり方
ダイヤモンド・オンライン|上司の距離感が近い職場「部下のストレスレベル」に驚きの結果
APA PsycNet|Too much of a good thing: The curvilinear effect of leader-member exchange on stress.
【ライタープロフィール】
青野透子
大学では経営学を専攻。科学的に効果のあるメンタル管理方法への理解が深く、マインドセット・対人関係についての執筆が得意。科学(脳科学・心理学)に基づいた勉強法への関心も強く、執筆を通して得たノウハウをもとに、勉強の習慣化に成功している。