記憶力がいい人は「2つの記憶」を使い分けている――どういうことか “記憶のプロ” に聞いてみた

池田義博さんインタビュー「記憶力がいい人は『2つの記憶』を使い分けている」01

仕事に必要な資格を取得したい、あるいはビジネスパーソンとして教養を深めたいといった独学をするときに必ず求められる力、それは「記憶力」です。せっかく頭に入れた知識を次々に忘れてしまっては、勉強が無駄になってしまいます。どうすれば記憶力を高められるのでしょうか

アドバイスをお願いしたのは、池田義博(いけだ・よしひろ)さん。記憶力を競う競技において世界を股にかけて活躍してきた、まさに記憶のスペシャリストです。池田さんは、「まずは記憶には2種類あるということを認識すべきだ」と語ります。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/玉井美世子

「速い記憶」を経なければ、「遅い記憶」はつくられない

記憶とひとことで言っても、じつはふたつの種類に分けられます。ひとつは「暗記」など、情報を長い期間頭に残しておくための記憶。貯蔵庫やハードディスクドライブのようなイメージですね。それからもうひとつは、学んでいるその瞬間に「考える」「理解する」ために働く種類の記憶です。貯蔵庫に残すために、情報を加工処理している工場のようなイメージでしょうか。

それぞれ、前者をいわゆる長期記憶、後者を短期記憶と言ってもいいのですが、情報が頭に入るまでのスピードや頭にとどまる時間も加味して、私は前者を「遅い記憶」、後者を「速い記憶」と呼んでいます。

一般的にイメージされる記憶というと、遅い記憶のほうではないでしょうか。そのため、勉強のために記憶力を高めたいといった場合には、遅い記憶のほうばかりに注目しがちです。でも、しっかりと遅い記憶を残すためにも、速い記憶を働かせる必要があるのです。

記憶には3つの段階があります。情報を覚える「記銘」、覚えておくという「保持」、それから覚えたことを思い出す「想起」です。これら3つの段階を経て初めて記憶と呼ばれますから、情報を覚える最初の段階である「記銘」が非常に重要だということは言うまでもありません。覚えてもいない情報を、保持したり想起したりすることはできないからです。

そして、この記銘の段階で、速い記憶が重要な働きをします。脳のなかでは、司令塔のような役割を担っている「海馬」という部分が、速い記憶のなかから、「これは重要だから遅い記憶に残そう」「これは忘れてもいい」などと判断しています。つまり、速い記憶を経なければ遅い記憶はつくられないということです。

池田義博さんインタビュー「記憶力がいい人は『2つの記憶』を使い分けている」02

「遅い記憶」を効率的につくるための「精緻化」とは?

速い記憶への意識が抜け落ちていると、ただただ参考書の字面を追ったり、英単語を繰り返し書いたりするといった勉強法になります。もちろんそれでも、長い時間や労力をかければ遅い記憶をつくることも可能です。しかし、仕事をしながら限られた時間のなかで勉強する社会人の場合、なるべく効率的に遅い記憶をつくらなければなりません。

そこで、速い記憶の出番です。先に、速い記憶は「貯蔵庫に残すために情報を加工処理している工場」のようなものだとお伝えしました。この加工処理は、心理学的には「精緻化」と呼ばれます。そして、速い記憶の段階でいかに精緻化をするかが、効率的に遅い記憶をつくるための鍵です。

速い記憶を働かせるための精緻化には、さまざまなものがあります。語呂合わせもそのひとつ。平安京への遷都が起きたのは794年です。これを「鳴くよウグイス平安京」と読むことで、「794」というただの数字の情報に新しい意味がつけ加えられると、遅い記憶がつくられやすくなるのです。

また、文章を読むときにもただ字面を追うのではなく、連想されるイメージをなるべく多く思い浮かべることも精緻化です。つまり、テキスト情報にイメージ情報をつけ加えるわけです。あるいは、同じように文章を読むときなら、テキスト情報を図解したり図示してみたりすることでも速い記憶が働き、遅い記憶が形成されやすくなります。

池田義博さんインタビュー「記憶力がいい人は『2つの記憶』を使い分けている」03

あえて「感情」を動かすことが大きなポイント

そして、遅い記憶をつくるうえで特に強力な働きをするのが、「感情」です。「人間は感情の生き物」なんて言葉もありますが、すごく嬉しかったり悲しかったりした出来事は、わざわざ覚えようとしなくともしっかりと頭に刻まれますよね。

これは、脳の構造によるものです。脳の「扁桃体」という部分は、感情を生み出す場所。喜怒哀楽により活性化します。そして、この扁桃体の隣には、速い記憶のなかから遅い記憶に残す情報を取捨選択している海馬がぴったりとくっついています。扁桃体と海馬はセットだと言ってもいいでしょう。そのため、感情が大きく動いて扁桃体が強く反応したときには、「これは重要な情報だ」と海馬が判断し、遅い記憶に残すというわけです。

そう考えると、記銘の段階でいかに感情を動かすかといったことも、効率よく遅い記憶をつくるための大きなポイントとなるでしょう。感情が大きく動いたことならば、自分の意図とは関係なく脳は勝手に覚えておこうとするのですから、そのメカニズムを利用してやろうということです。

先にも、文章から連想したイメージを思い浮かべる手法を紹介しました。そのときにも、たとえば歴史を学ぶのなら、まるで大河ドラマのような情景をイメージする。あるいは、語呂合わせもただ一般的に知られたもので覚えるのではなく、自分でもくだらないと思うようなダジャレの語呂合わせを新しく考えてみる。

そんな工夫をすれば、ただ字面を追うことに比べ感情がはるかに大きく動くことになり、遅い記憶をつくりやすくなります。

池田義博さんインタビュー「記憶力がいい人は『2つの記憶』を使い分けている」04

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【プロフィール】
池田義博(いけだ・よしひろ)
一般社団法人記憶工学研究所(MEI)所長。「記憶力日本選手権大会」最多優勝者。日本人初「世界記憶力グランドマスター」獲得者。大学卒業後、エンジニアを経て塾を経営。教材のアイデアを探していたときに出会った記憶術により記憶という能力に興味をもち、日本記憶力選手権大会への出場を決意。40代半ばでの初出場にも関わらず、10カ月の練習で優勝を果たす。その後、2019年まで出場した同大会で6連覇。また、2013年にロンドンで開催された世界記憶力選手権において日本人初の「グランドマスター」の称号を獲得。現在は『IP記憶法』を開発し、記憶力も含め、世の中の多くの人たちの「脳力」向上に貢献することを自身のミッションとして活動中。『世界記憶力選手権グランドマスターの驚くほど簡単な記憶法』(日本能率協会マネジメントセンター)、『読むだけで記憶力が倍増する本』(マキノ出版)、『一度読むだけで忘れない読書術』(SBクリエイティブ)、『子供の成功は記憶力で決まる』(朝日新聞出版)など著書多数。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。

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