負の感情を「消そうとする」のは間違い。やっぱり「紙に書き出す」が最強だった

星渉さんインタビュー「負の感情は紙に書き出そう」01

誰しもが感じる「不安」「緊張」「恐れ」といった負の感情は、大切なときに限って、あなた本来の力を失わせる可能性があります。できることなら、そんな感情をうまく手なずけて、自分ができる最大限の実力を発揮してことに臨みたいですよね。

そこで、ベストセラー『神メンタル 「心が強い人」の人生は思い通り』『神トーーク 「伝え方しだい」で人生は思い通り』(ともにKADOKAWA)の著者である、作家・ビジネスコンサルタントの星渉(ほし・わたる)さんに、科学的見地に基づいた、負の感情を取り除くための具体的な方法を聞きました。

構成/岩川悟(slipstream) 取材・文/辻本圭介 写真/塚原孝顕

星渉さんインタビュー「負の感情は紙に書き出そう」02

変わるための行動ができないのは、脳が命令しているから

誰しも「いまの自分を変えたい」と願う一方で、変わるための行動をなかなか取れないもの。しかし、脳科学の観点から言えば、変化を嫌うのは人間の「本能」なのです

脳にとって最も重要なのは「生き続けること」であり、いま現在の生活や仕事を維持できているのならわざわざそれを変える必要はないというのが、私たちが本能的に思っていることです。給料をさらに上げることや名声を得ることなどよりも、いま生きることができているのなら、脳のなかではすでに目標を達成しています。だから、なにも変えたくないし、「余計なことはやめておこう」と感じるのです。

人生で夢や目標を叶えている人たちも、本質的には変わりません。そんな現状を維持しようとする感情を手なずける方法を知っていて、未知のことにも挑戦しようと思えるメンタルと環境をつくっているだけの差なのです。

では、具体的にどのような方法があるのでしょうか? その方法のひとつが「負の感情を消さない」ということ。「いままでのやり方を変えるのは不安」「人前で話すのは緊張する」「失敗したらどうしよう」……そんな負の感情を、あえて否定しないようにするのです。

現状を変えようとするときに、不安や緊張や恐れを感じさせるのは、脳の「変わるな!」と思わせる戦略です。不安に思わせると、「やっぱり挑戦するのはやめておこう」という気持ちになって、現状を変えるための行動に踏み出しづらくなりますよね? すると、脳は現状を維持することができる。つまり、不安や緊張や恐れなどの感情は、「変わっちゃだめだ!」という脳からの警告なのです。

星渉さんインタビュー「負の感情は紙に書き出そう」03

負の感情は、消そうとするのではなく「認める」

そんな脳からの警告を見て見ぬフリをしたら? 脳のなかで、不安という名の呼び鈴がさらにしつこく鳴り続けるでしょう。要するに、不安に思う感情を無視すると、脳は危険を察知して、「気づけ! 気づけ!」ともっと不安にさせたり、ネガティブな気持ちを感じさせたりするのです。

そこで大切になるのが、負の感情を消そうとするのではなく、「認める」こと。不安や緊張が大きくなるのは、それを消そうとするから。しかし、いったんその感情を認めてしまえば、じつは不安や緊張や恐れはそれ以上大きくなりません。「大丈夫、不安なのはわかったから」「緊張しているのはわかっているよ」とセルフトークをして、脳が認識してくれればいいのです。負の感情に火がついたことを認め、それ以上、火が大きくならないようにしましょう。

負の感情を認めるコツは、「体の外に出してあげること」です。どんなイメージを使ってもいいですが、たとえば目の前に入れ物があったとしたら、自分の不安を体から出して、その入れ物のなかに不安を入れ、蓋をして閉じ込めて、目の前に置くようなイメージをつくってみる。そうするだけで、不安が第三者のような存在になって、不安度を下げることができます。

これは、認知心理学で「メタ認知」と呼ばれる、不安を消すのではなく客観的に認識している状態です。そうしたうえで、「さあ、どうするかな?」と新しい言葉を発して考えていけば、「ワード→ピクチャ→エモーション」のメカニズムで(『思考は現実化するからこそ「無理だ」と思うなかれ。“使う言葉” を変えれば人生はうまくいく』参照)、感情をコントロールすることができます。

負の感情を体の外に出して客観視すると、不安や緊張の割合が下がっていき、ポジティブな行動ができるようになります。あくまで、負の感情をなくそうとするのではなく、ポジティブな考えをより多く持てるように、環境を整えることが大事なのです。

星渉さんインタビュー「負の感情は紙に書き出そう」04

不安や悩みを頭のなかだけで考えずに「紙面上で会話」する

私の場合は慣れていることもあり、負の感情が生まれたときは、それを体の外に出すイメージをつくらなくても、もう言葉だけで変えることができるようになりました。言葉は感情を生み出すとともに、もうひとつ大きな役割があります。それが、「焦点」をコントロールする役割です。

たとえば、大切な試験前に、最初は1の不安と9のポジティブな気持ちだったのに、言葉で「試験に落ちたらどうしよう」といった途端に、1の不安に焦点が合ってしまいます。そして、やがてその不安が大きくなっていき、いつの間にか10の不安になってしまう。よく「数学だけ点数が上がらなくて……」などと不安を口にする人がいますが、そんな言葉を言い続けていると、ほかの教科ができていたとしても、「数学ができない」という不安にすべてが包まれてしまうわけです。

そこで、焦点を移動させるためには、脳に指示を出す「言葉」を活用しましょう。私の場合、気持ちを切り替えるときは、「ま、いっか」と言うようにしています。「ま、いっか。これもできるし、あれもできたし」という具合に、不安から身を引き離すのです。これは、アドラー心理学の「課題の分離」という方法にも通じます。ある不安(課題)に対し、自分がコントロールできるものとできないものに分けてから、コントロールできるものに注力する。そして、コントロールできないものは、「ま、いっか」と切り替えるわけです。

もし、これでも不安や緊張が消えないなら、問題を紙に書き出し、「紙面上で会話する」方法をおすすめします。勉強で言うなら、志望校でC判定を受けたら、受けるか受けないか迷いますよね? でも、友だちが同じ状況だったら、「C判定なら絶対受けたほうがいいよ」などと、冷静に言えたりしませんか? これを、自分ひとりで紙面上で行なうのです。

紙に書き出すと、自分の悩みと体との間に距離が生まれ、客観的に判断しやすくなります。不安に思うことをすべて書き出し、「こうしたらいいんじゃないかな?」と友だちにアドバイスするように会話すれば、自分の本当の気持ちに気づけるようになるのです。

星渉さんインタビュー「負の感情は紙に書き出そう」05

負の感情から体を引き離す「エンプティ・チェア」という方法

「それでも不安がなくならない……」そんな場合は、「エンプティ・チェア」という、より強力な方法を試してみてください。これは椅子をふたつ用意し、不安を感じている自分から実際に体を離す方法です。

まず、自分の隣に「悩んでいる自分」が座っている姿をイメージしてください。そのイメージができたら、一度その椅子に座ってみて、「それはどんな気持ちだろう?」と言葉に出します。わかりやすく言うと、悩んでいる自分に入り込むようなイメージです。そして、それを体験したあとに椅子から離れ、もうひとつの椅子に座って眺めます。すると、体が離れたことで、脳は悩んでいる自分を第三者として認識するようになる。そこから、「この人にアドバイスするとしたら……」と考えていくわけです。紙に書くよりも距離感が生まれ、より客観的な思考ができるでしょう。

この方法は、立場が違う人との交渉事やパートナーシップの問題にも絶大な効果があります。夫婦関係や恋人関係、上司や部下との関係において、相手の気持ちがわからなくなったときに使える方法です。特にトラブルになっているときは、頭だけで相手の気持ちになるのは至難の業ですよね。実際に体を動かさないと、他者の気持ちにはなかなかなれませんから。

面接試験などの対策にも使えますよ。実際に面接官になったつもりで面接官側の椅子に座ると、自分がどう見えているのか、面接官はどんなことを考えているのか、客観的に意識できるようになります。そうして、面接官側の視点を前もって体験しておくと、本番にもそれほど緊張することなく臨むことができるのです。

星渉さんインタビュー「負の感情は紙に書き出そう」06

【星渉さん ほかのインタビュー記事はこちら】
思考は現実化するからこそ「無理だ」と思うなかれ。“使う言葉” を変えれば人生はうまくいく
「話を聞いてもらえず」「人を動かせない」人の残念すぎる特徴。“いつも否定ばかり” は圧倒的に損だ

【プロフィール】
星渉(ほし・わたる)
1983年生まれ、宮城県出身。株式会社Rising Star代表取締役。大手企業で働いていたが、東日本大震災を岩手県で被災。生死を問われる経験を経て「もう自分の人生の時間はすべて好きなことに費やす」と決め2011年に独立起業し、心理療法やNLP、認知心理学、脳科学を学びはじめる。それが原点となり、個人の起業家を対象に「心を科学的に鍛える」を中心に置いた独自のビジネス手法を構築。わずか5年間で、講演会、勉強会には7200人以上が参加し、手がけたビジネスプロデュース事例、育成した起業家は623人にのぼる。ゼロの状態から起業する経営者の月収を、半年以内に最低100万円以上にする成功確率は、日本ナンバーワンの91.3%。数千人規模の講演会を実施し、海外でも大規模なイベントを行うなど、グローバルに「好きな時に、好きな場所で、好きなシゴトをする個人を創る」ための活動をしている。著書には、『神メンタル 「心が強い人」の人生は思い通り』『神トーーク 「伝え方しだい」で人生は思い通り』(ともにKADOKAWA)などがある。

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