仕事、お金、人間関係、将来の夢……私たちが生きていくうえで、「悩み」は避けては通れないものです。しかしじつは、その悩むことを「自分で選んでいる」としたらどうでしょうか? すべての行動を自分で主体的に選んでいると考えるからこそ、人は悩みを根本的に解消していくことができます。
「心を科学的に鍛える」独自のメソッドに定評がある作家・ビジネスコンサルタントの星渉(ほし・わたる)さんに、悩みから自分を引き離す方法を聞きました。
構成/岩川悟、辻本圭介 写真/櫻井健司
悩む人は、悩むことを「選んで」いる
悩みとひとくちに言っても、将来の悩みやお金の悩み、人間関係の悩みなどいろいろあると思います。悩みは、ネガティブな感情の集合体と言ってもいいかもしれません。
そんな悩みに対処するうえで、知ってほしいことがあります。それは、悩んでいる人は、自分が悩むことを「選んでいる」という事実。このことに、まず気づくのが大切です。
たとえば、パワハラ気味の上司に悩んでいるとします。でもじつは、「パワハラの上司で困る」と、自分で悩むことを選んでいるのです。それはどういうことか?
つまり、悩んでいる人は、常に「どうしよう……」と思ってその場所に留まり続けていて、解決するかどうかという地点にたどり着いていないのです。言い換えれば、「どうしよう……」と悩むのを自分で選んでいるということ。解決することを選ばずに、「解決したい=解決するための行動」をしていない状態を選んでいるのです。
これは、あらゆる悩みに当てはまります。悩みに対処するには、まず自分が悩むことを選んでいて、先に進むことを選んでいないことに気づくのが、最初の一歩になります。
悩みは解決しなくてもいいのかもしれない
「悩む」ということに対処する前提として、「自分が悩むことを選んでいる」と知るのが大切だと書きました。
すると次は、「悩むことを選んでいる状態でいいのか、悪いのか」という、どちらかを選択することになります。
もし、悩んだままでいいなら、そのままの状態でいいと思います。しかし、悩んだままの状態が嫌ならば、いまできる選択肢を挙げて行動することが必要になるのは言うまでもありません。
たとえば、上司のパワハラで悩んでいるなら、「その上司に直接話す」「近しい先輩に相談する」「人事部に匿名で相談する」「1週間休む」など、さまざまな選択肢が考えられるでしょう。そうして解決のための選択肢を紙に書き出したら、あとはいずれかを選び実行すればいい。
「それで選べたら苦労しないよ」
そう思う人もいるかもしれません。気持ちはわかりますが、それがまさに「悩むことを選んでいる」という意味なのです。解決策を選んで行動するよりも、悩んで行動しないことを選んでいるわけです。言い方を変えれば、もしかしたら悩んではいるけれど、「解決策を行動に移す勇気を出すほどには悩んでいない」のかもしれません。
もちろん、メンタルトレーニングのなかには、悩みによるストレスを軽減させる方法もあります。しかし、最終的には「自分が選んでいる」ということに気づかなければ、根本的な解決はできず、また何度も悩まされてしまいます。
すべてを自分の課題として、主体的に選んでいくからこそ、悩みを根本的に解消していけるのです。
選択肢ごとにメリットとデメリットを書き出せば、行動しやすくなる
悩みに対して「いまできる選択肢」を書き出しても、なかなかひとつを選べない場合もあります。そんなとき私がよく行なうのが、A4の紙を半分に折り、左右にその選択をするメリットとデメリットを書き出す方法。
たとえば、先に挙げた「その上司に直接話す」という選択肢なら、その行動のメリットとデメリットを書き出します。そして、この紙を選択肢分つくって、書き出した紙を客観的に眺めると、驚くほど行動を選びやすくなります。
選択肢を選べないのは、選ぶことでどんないい出来事が起こり、どんな悪影響があるかを整理しきれていないから。でも、選択肢ごとにメリット、デメリットを書き出せばすんなり選べるようになる。これは、日常の判断や決断でも広く使えるおすすめの方法です。
ちなみに、「どうしよう……」と悩むこと自体のメリットとデメリットも書き出してみてください。案外、「この程度の上司なら耐えられるかも」となって、逆にネガティブな感情に対する許容量を増やせる場合もあります。
過度にストレスを感じてしまうのは、ストレスの度合いが不明瞭だからです。そこで、悩みに対処するうえで、ひとつひとつの選択肢について情報を明確にしていけば、なんらかの選択をすることができます。
そうして主体的に行動へ踏み出せると、悩みを解決していく方向へと進んでいけるのです。
遠くの夢や目標を設定すれば、悩みにくい体質になれる
「悩み」を解決していく方法をお伝えしてきましたが、視点を変えるだけで、感じ方が変わるのが「悩み」というもののひとつの正体だったりします。
そこで、私は悩んでいる人に、「いま、どこを目指しているんだっけ?」という質問をよくします。悩みにとらわれている人は、目の前に起きている悩み事に意識がとらわれて、本来自分が目指していたことを忘れてしまっている人が多いのです。
本来目指していた未来の夢や目標がある人は、いつも遠くの景色を見据えているため、いま目の前で起きている出来事を過度に気にすることがありません。遠くの夢や目標が見えていれば、目の前の悩みごとも小さく見えるものです。
あなたがなにかに悩んでいるとき、ふと青空や大海原や自然の風景を目にして、「なんてちっぽけなことで悩んでいたのだろう」という気持ちになった経験はありませんか? それと同じで、視野を広げたり、次元を変えたり、時空を変えたりしながらより大きな夢や目標を思うと、目の前の悩みはどうでもいい小さなものに変わっていくのです。
そうして、とらわれていた目の前の悩みが小さく見えてきたら、より余裕のある対処ができるようになります。逆に言えば、悩みにとらわれている人は、夢や目標がない人だとも言えるかもしれません。だからこそ、いったん悩みごとを脇に置いて、「自分はどうなりたいのか」「どう生きたいのか」「どんなことをやってみたいのか」という遠い目的地を設定するのが、悩みの解消には有効です。
遠くの夢や目標を設定すれば、「目指す場所ははるか遠くなのに、こんな小さな物事で悩んでいる場合じゃない」と感じて、一歩でも前へと進んでいけるはずです。
※今コラムは、星渉 著『神メンタル 365日ストレスフリーで生きる方法』(プレジデント社)をアレンジしたものです。
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【プロフィール】
星渉(ほし・わたる)
1983年生まれ、宮城県出身。株式会社Rising Star代表取締役。大手企業で働いていたが、東日本大震災を岩手県で被災。生死を問われる経験を経て「もう自分の人生の時間はすべて好きなことに費やす」と決め2011年に独立起業し、心理療法やNLP、認知心理学、脳科学を学びはじめる。それが原点となり、個人の起業家を対象に「心を科学的に鍛える」を中心に置いた独自のビジネス手法を構築。わずか5年間で、講演会、勉強会には7200人以上が参加し、手がけたビジネスプロデュース事例、育成した起業家は623人にのぼる。ゼロの状態から起業する経営者の月収を、半年以内に最低100万円以上にする成功確率は、日本ナンバーワンの91.3%。数千人規模の講演会を実施し、海外でも大規模なイベントを行うなど、グローバルに「好きな時に、好きな場所で、好きなシゴトをする個人を創る」ための活動をしている。著書には、『神メンタル 「心が強い人」の人生は思い通り』『神トーーク 「伝え方しだい」で人生は思い通り』、前野隆司氏との共著『99.9%は幸せの素人』(すべてKADOKAWA)などがある。