返報性の法則とは? 交渉の定番メソッドを使いこなそう!

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 「返報性の法則(返報性の原理)」とは、相手から受けた好意などに対し「お返し」をしたいと感じる心理のこと。たとえば、友人や同僚にピンチを救われたら、「次は自分が助けてあげたい」と思うでしょう。一方で、嫌なことをされたら、仕返しをしたい気持ちになることもありますよね。

返報性の法則は、日常生活だけでなく、ビジネスの現場でもよく見られます。スーパーマーケットでの商品試食や、試供品の無料提供などには、返報性の法則が利用されているのです。本稿では、返報性の法則の具体例や、ビジネスや日常生活での活用方法、一貫性の原理との関係などを詳しく解説していきます。

返報性の法則とは

返報性の法則とは、ほかの人から何かをもらったとき「お返しをしないと気が済まない」と感じる心理です。

わかりやすい例が、スーパーマーケットなどの試食コーナー。店員から勧められて試食すると、「食べさせてもらったのだから、買わないと悪いかな」という気持ちになりますよね。「無償で商品をもらう」ことによって返報性の法則が働き、お返しをしたい(商品を購入したい)という心理が生じているわけです。

返報性の法則は、人間にとってごく自然なものだといえるでしょう。

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返報性の法則の身近な例

試食コーナーのほか、返報性の法則が機能している身近な例をいくつかご紹介しましょう。

試着

洋服売り場での試着も、返報性の法則が働きやすいシーンです。試食とは違い、モノを受け取っているわけではありませんが、店員によって時間をかけて接客されたことや、購入する前の商品を着させてもらったことなどが “借り” となり、「せっかく試着したのだから、買ってしまおう」という気が起こりやすくなります。

店員から非常に丁寧な接客を受けたり、サイズ違いの服を何度も持ってきてもらったりなど、“借り” が大きくなればなるほど「やっぱり買いません」とは言い出しづらくなりますよね。本当はもう少し吟味したかったけれど、断り切れず、つい服を買ってしまった……という経験がある人は多いかもしれません。

SNSの「いいね!」

SNSの「いいね!」機能にも返報性の法則が絡んでいます。

InstagramやTwitterなどで、自分の投稿に「いいね!」を押してくれた人がいると、お返しとしてその人の投稿にも「いいね!」をあげたくなりませんか? 「いいね!」を返したり、互いに送り合ったりすることが礼儀であると捉えているユーザーは多く、「いいね返し」という言葉が浸透しているほど、SNSでは返報性の法則が強く働いています。

現実世界だけでなく、バーチャルな空間におけるやりとりにまで、返報性の法則が関わっているのですね。

恋愛

恋愛感情を告白されたり好意を示されたりすると、それまで気にも留めなかった相手なのに、だんだん好きになってくるということがあります。これも、返報性の法則の働きだとといえるでしょう。つまり、相手からの「好意」を返したいという心理が働いているのです。

有名人だと、俳優の山本耕史氏が、女優の堀北真希氏に40通以上の手紙を渡すなどの熱烈なアプローチを続け、結婚に至ったという話がありましたね。もちろん、相手との関係や状況にもよりますが、相手から好意を向けられるとそう無下にできないのが、人間の心理なのです。

上記以外にも、返報性の法則が現れている事例は、身の周りにいくつも発見できることでしょう。

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返報性の法則における分類

返報性の法則において、返報性にはいくつかの種類があります。何を受け、返すかによって分けられるのです。以下で1つずつ見ていきましょう。

好意の返報性

好意の返報性とは、恋愛の事例でも触れた、「相手から受けた好意を返したくなる」心理のこと。恋愛に限らず「相手が親切だと、こちらも親切にしたくなる」「相手が褒めてくれると、こちらも相手を褒めたくなる」という心理も、好意の返報性です。

「情けは人のためならず」ということわざがありますよね。相手に好意を持ってほしいなら、まず自分が親切になり、相手が喜ぶようなことをしてあげれば、好意が返ってくる可能性が高まるのです。

敵意の返報性

敵意の返報性とは、「向けられた敵意を返したくなる」という心理。好意の返報性とは反対ですね。相手から悪口を言われると言い返したくなるし、横柄な態度をとられると同様の態度で応じたくなるものです。返報性の法則は、ポジティブな「お返し」だけでなく、「仕返し」というネガティブな側面も持ち合わせているわけですね。

「悪いことをするとバチが当たる」といいますが、相手に向けた敵意や悪意は、高確率で自分に跳ね返ってくるものなのだ、ということを覚えておきましょう。

譲歩の返報性

譲歩の返報性とは、「相手が譲ってくれたのだから、自分も譲ってあげよう」という心理。たとえば、相手が「どうぞ」と席を譲ってくれると、「いえいえ、あなたこそどうぞ」と譲り返したくなりますよね。これが譲歩の返報性です。相手から受けた恩を返したいという意味では、好意の返報性に近いといえるでしょう。

詳しくは後述しますが、譲歩の返報性は「ドア・イン・ザ・フェイス」という交渉術に応用されています。

自己開示の返報性

自己開示の返報性とは、相手がオープンな態度で接してくれると、自分も相手に心を開きやすくなる心理。初対面の人が、あたかも旧知の仲のような気さくさで接してくれたため、自分も心を開いて話すことができた、という経験はありませんか?

まだ親しくない人と接するときは、つい「失礼がないように」と萎縮してしまうもの。しかし、思い切ってふだんの自分をさらけ出し、率直に語ることで、返報性の法則によって相手も心を開きやすくなり、心理的な距離が縮まりやすくなるのです。

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返報性の法則に関する実験

返報性の法則を実証した実験は多くあります。なかでも有名なのが、心理学者デニス・リーガン氏が1971年に発表した論文中で説明された実験です。

被験者は、スタンフォード大学の男子学生81人。美術品の複製を鑑賞して評価するという「偽の課題」を与えられました。実験部屋には、被験者のほか、同じ課題に取り組む参加者がもう1人。ドッキリ番組でいうところの「仕掛け人」です。

課題中、「仕掛け人からコーラをもらう」「コーラをもらわない」「第三者(実験の監督)からコーラをもらう」という3つの出来事のうち、どれか1つが被験者に発生します。そして課題が終わったあと、被験者は仕掛け人から「抽選で景品が当たるチケットを買ってくれないか?」と持ちかけられたのです。

このとき、被験者がチケットを何枚購入するかが、実験における本当の焦点でした。返報性の法則が作用するなら、「仕掛け人からコーラをもらった」被験者は、「コーラをもらわなかった」被験者よりも、チケットを買う傾向が強まるはずですよね。

コーラの条件によって3通りに分かれた被験者は、「仕掛け人への好感度が高い/低い」という基準で、さらに2通りずつに分けられました。仕掛け人への好感度は、仕掛け人の言葉遣いや態度によってコントロールされます。

実験の結果、被験者がチケットを買った枚数の平均値は以下のようになりました。

  仕掛け人からコーラをもらった コーラをもらわなかった 第三者からコーラをもらった
好感度が高い
1.91(A)
1.00(C)
1.50(E)
好感度が低い
1.60(B)
0.80(D)
0.80(F)

コーラの有無で分けられた3グループのうち、チケットを多く買う傾向が最も強かったのは、「仕掛け人からコーラをもらった」グループだったとわかります。「コーラをもらう」という施しを受けた被験者は、“借り” を返そうとしたのです。返報性の法則が数値として明確に現れていますね。

上表のB欄に注目してください。仕掛け人への好感度が低いにもかかわらず、チケットの購入枚数は1.60と、6つのうち2番目に高い数値です。「仕掛け人への好感度は高いけれど、コーラをもらわなかった」グループを上回っています。

つまり、「コーラのお返しをしたい」という気持ちが、相手への好き嫌いを超えて機能したのです。返報性の法則がいかに強力なのか、よくわかりますね。

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返報性の法則の活用

返報性の法則は、社会心理学者のロバート・B・チャルディーニ氏が、著書『影響力の武器』(誠信書房、2014年)(原題:Influence: The Psychology of Persuasion)において、説得の技術として紹介していることで有名です。返報性の法則を適切に利用すれば、交渉や説得を有利に進められるかもしれませんよ。

以下では、返報性の法則の活用方法をご紹介しましょう。

「貸し」をつくる

1つ目は、相手に無償で何かを提供して “貸し” をつくるという方法です。スーパーマーケットなどの試食コーナーも、“貸し” をつくる例にあたります。無償で商品を食べさせるという “貸し” によって、返報性の法則が働き、客は商品を買いたくなるよう誘導されているわけです。

そのため、返報性の法則を利用して商品を買ってもらいたいなら、無料サンプルを配ってみましょう。健康食品や学習教材などのCMで「無料サンプルをプレゼントします」と宣伝してしているのをよく目にしますよね。化粧品や香水、整髪料などの売り場にも、しばしばテスター(試供品)が置かれています。

通販でよくある「全額返金保証」も、“貸し” をつくる手法です。客が商品に満足できなかった場合、返金に応じるということですから、商品の無料提供に近い効果を発揮します。

“貸し” によって返報性の法則を働かせるテクニックは、日常生活でも使えます。ふだんから友人や同僚に親切にしておくと、信頼を獲得できたり、いざというとき助けてもらえたりすることが期待できます。嫌な言い方をすれば「恩を売っておく」ということになりますが、少なくとも、親切にされて嫌に感じる人はいないはずです。

ドア・イン・ザ・フェイス・テクニック

「譲歩の返報性」を上でご紹介しましたね。席を譲られると「いえ、あなたこそどうぞ」と言いたくなるように、譲られたら譲り返したくなる心理です。

譲歩の返報性を応用したのが「ドア・イン・ザ・フェイス(door in the face)」というテクニック。まず、あえて実行困難な要求をふっかけておき、そこから要求のレベルを下げていくことで、相手の承諾を引き出すという交渉術です。

たとえば、最初に「10万円貸して!」と無茶な要求を突きつけ、断られたら「なら、1万円でもいいから」とレベルを引き下げます。すると、要求を断ったという罪悪感と、要求を譲歩してもらったという “借り” の感覚が相手に生まれるため、つい「1万円ならいいか」とOKする可能性が高くなるのです。

このように、返報性の法則は、日常生活やビジネスなどさまざまな場面で利用できる、心強い武器なのです。

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返報性の法則のNGな使い方

返報性の法則は、使い方を誤るとトラブルのもとになったり、むしろ逆効果になったりする恐れがあるため、実行する際は注意が必要です。返報性の法則のNGな使い方を2パターンご紹介します。

見返りを迫る

“貸し” をつくったからといって、相手に見返りを迫ったり、求めすぎたりしてはいけません。無料サンプルをもらった企業から勧誘の電話が何度もかかってきたら、嫌な気持ちになり、“借り” を返したいという気持ちを失ってしまいますよね?

見返りを求めすぎると、相手に下心を感じ取られ、返報性の法則が働きにくくなることがあります。“貸し” をつくるといっても、見返りを期待しすぎず、純粋に「喜んでもらいたい」という気持ちでやりましょう。

高価すぎるものをあげる

“貸し” として何をあげるかは、相手との関係性から判断しましょう。たとえば、あまり親しくない異性から、急に高価なブランド品をもらったらどう思うでしょうか? 下心を感じ、気持ち悪く思うはずです。

あまり親しくない相手への “貸し” としては、ちょっとしたお菓子や心遣いなど、気軽に受け取れるものがベター。関係性に見合わないようなものや、相手が求めていないものを贈ってしまうと、「重い」と思われたり、警戒されたりしてしまいますよ。

このように、返報性の法則に効果を期待しすぎると、相手の気持ちを無視した行動をとることになりかねません。あくまで相手を不快にさせない程度に、返報性の法則を活用しましょう。

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返報性の法則と一貫性の法則との違い

返報性の法則と似た概念に「一貫性の法則」があります。「過去の行動・発言・態度などを一貫させ、矛盾のないようにしたい心理」のことです。

たとえば、「連続ドラマが7話目からつまらなくなったけれど、惰性で最終回まで見続けてしまった」というのは、一貫性の法則の現れ。「毎週欠かさずドラマを観てきた」という過去の行動に対し、一貫性を保ちたいという心理が働いたのです。

返報性の法則と一貫性の法則は、どちらも「筋の通った行動をしたい」という点で似ています。違うのは、返報性の法則では「相手からの見返り」が、一貫性の法則では「自分の中での一貫性」が重視される点です。

一貫性の法則を応用すると、「フット・イン・ザ・ドア(foot in the door)」というテクニックになります。譲歩の返報性の応用として紹介した「ドア・イン・ザ・フェイス」と対になるような概念です。

ドア・イン・ザ・フェイスは、「まず大きな要求をして、小さな要求へと譲歩していく」交渉テクニックでした。一方のフット・イン・ザ・ドアは、反対に「まず小さな要求を飲んでもらい、しだいに大きな要求へとステップアップさせていく」ことを目指します。以下は、フット・イン・ザ・ドアの会話例です。

【お金の貸し借り】

A「1,000円貸してほしいんだけど」
B「(たった1,000円なら)いいよ」
A「ごめん、やっぱり3,000円でもいい?」
B「(一度貸すって言っちゃったし)まぁ、大丈夫だよ」

【セールス】

売り手「1分だけ、お時間いただけませんでしょうか?」
顧客「まぁ、1分くらいなら」
売り手「ありがとうございます。まず1点だけ伺ってもよろしいでしょうか?」
顧客「どうぞ」
売り手「月々の電気料金はおいくらくらいですか?」
顧客「5,000円くらいですかね」
売り手「なるほど。実は、月々の電気料金がお安くなる商品があるのですが……」

「1,000円だけ」「1分だけ」など、相手が応じてくれそうな簡単な要求から始めることで、最終的に、本来の目的である大きな要求を飲んでもらえる可能性が高くなるのです。2つ目のセールスの例では、商品の話を自然に切り出すことに成功しています。

返報性の法則と合わせて、一貫性の法則やフット・イン・ザ・ドアについても押さえておきましょう。

***
返報性の法則は、自分の要求を通したいときや、交渉を有利に進めたいときなどに役立ちます。ただし、やりすぎると「見返りが欲しいだけの腹黒い人」と思われかねないので、節度を守ったうえで活用することが大切です。

ビジネスや対人関係において一歩リードしたい方は、ぜひ返報性の法則を使ってみてくださいね!

(参考)
Weiner, Irving B. et al. (2003), Handbook of Psychology, Personality and Social Psychology, Vol. 5, Hoboken, Wiley.
メンタリストDaiGo(2017), 『「好き」を「お金」に変える心理学』, PHP研究所.
Regan, Dennis T. (1971), "Effects of a Favor and Liking on Compliance," Journal of Experimental Social Psychology, Vol. 7, No. 6, pp. 627-639.
INFLUENCE AT WORK|6 Principles of Persuasion
StudyHacker|「返報性の原理」から考える、“スーパーの試食” がちょっとキケンかもしれない理由。
StudyHacker|ローボール・テクニックで「断れない状況」作れます。悪用厳禁のズルい手法とは
マイナビウーマン|【専門家監修】好意の返報性が成り立つ条件
ライブドアニュース|堀北真希 山本耕史からの手紙に「普通に言えばいい」と言っていた
ダイヤモンド・オンライン|相手から「信頼」と「情報」を得る自己開示の心理テクニック
コトバンク|ドア・イン・ザ・フェイス・テクニック
NIKKEI STYLE|人の好意に報いたい 営業なら知るべき交渉戦術の肝

【ライタープロフィール】
佐藤舜
中央大学文学部出身。専攻は哲学で、心や精神文化に関わる分野を研究。趣味は映画、読書、ラジオ。人生ナンバーワンの映画は『セッション』、本は『暇と退屈の倫理学』。好きな芸人はハライチ、有吉弘行、伊集院光、ダウンタウン。

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