ローボール・テクニックで「断れない状況」作れます。悪用厳禁のズルい手法とは

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「ローボール・テクニック」という言葉を聞いたことがありますか?

たとえば、苦手な人から「これからみんなで食事でもどうですか?」と尋ねられて、承諾したとしましょう。承諾したあとから、「みなさん都合がつかないようなので、2人で行きませんか?」と打診されると、多くの人は、一度承諾した手前、断りにくく感じてしまうのではないでしょうか。ローボール・テクニックは、相手にとって断りにくい状況を作る手法です。 

ローボール・テクニックは、心理学を利用した便利な手法ですが、乱用すると相手からマイナスの印象を抱かれてしまうものでもあります。今回は、ローボール・テクニックの意味や活用法、ローボール・テクニックを使われたときの対処法をご紹介しましょう。

ローボール・テクニックとは

ローボール・テクニックとは、魅力的、もしくはあまり面倒でない条件をはじめに提示し、受け入れさせた後に、理由をつけて魅力的な条件を取り除いたり、相手にとって都合の悪い行動を追加したりする手法です。 

ローボール・テクニックという名前は、「相手が受け取りやすい低いボールから投げること」に由来しています。 

アリゾナ州立大学のロバート・チャルディーニ名誉教授が、63人の学生に対して行なった、ローボール・テクニックの実験をご紹介しましょう。実験内容は、「ローボール・テクニック」を使って実験への参加者を募った場合と、「ローボール・テクニックを使わずに実験への参加者を募った場合」の、参加に承諾する確率を比較するというもの。実験は、以下の要領で行なわれました。

  • 【ローボール・テクニックを用いないグループ】には、はじめから「朝の7時から開始する実験に協力してくれるかどうか」を尋ねる。
  • 【ローボール・テクニックを用いるグループ】には、まず、「実験に協力してくれるかどうか」を尋ね、承諾された後に、「実験は朝の7時から開始する」ということを伝え、もう一度参加の意思を尋ねる。 

実験の結果、【ローボール・テクニックを用いないグループ】の実験への承諾率は31%だったのに対し、【ローボール・テクニックを用いるグループ】の承諾率は56%と、承諾率に大きな差が生じました。

朝7時からの実験に協力するのは面倒ですし、多くの人にとって断りたい条件ですよね。しかし、皆さんにとっても、はじめに実験への参加を承諾してしまった場合「朝7時開始なら無理です」などと断るのは困難なのではないでしょうか。 

では、なぜ「ローボール・テクニック」を用いられると断りにくくなってしまうのか、次の項目でご説明しましょう。

ローボールテクニック02

ローボール・テクニックが成り立つ理由

ローボール・テクニックが成り立つ原因となる心理に「一貫性の原理」というものがあります。一貫性の原理とは、言動や態度、信念などを一貫させたいと感じる人間の心理のこと。

たとえば、皆さんにも「視聴していた連続ドラマが途中からつまらなくなったけど、なんとなく最後まで観てしまった」といった経験があるのではないでしょうか。または、家族や友人に「今日からダイエットのために食事制限をする」と宣言すると、宣言しなかったときより食事制限を維持しやすくなった経験がある人もいるかもしれません。これらは、自分の言動や信念などを一貫させたいという一貫性の原理が働いて発生する現象です。

一貫性の原理が働く理由は主にふたつあります。ひとつは、「選択の機会を減らすことができる」という点。何を着るか、何を食べるか、立つか、座るか、同僚に声をかけるか、かけないか……。私たちは1日のうちにたくさんの決断をし、無意識のうちに決断疲れにさいなまれています。ケンブリッジ大学のバーバラ・サハキアン教授の研究によれば、なんと人は1日に最大3万5,000回の決断をしているそう。自分の行動をパターン化することには、決断する機会を減らすという大きなメリットがあるのです。

もうひとつは、「周囲の人間に理性的な人間だと思われたい」という点です。皆さんも、言動や態度に一貫性のない人が身近にいたとすれば、あまり良い印象は抱かないはず。言動のコロコロ変わる人に対しては、信用できないと感じる場合が多いでしょう。「言動が一貫している人間だと思われたい・マイナスのイメージを抱かれたくない」という一種の虚栄心が、一貫性の原理を成り立たせているのです。 

すなわち、「選択の機会を減らしたい」「周囲の人間に良い印象を抱かれたい」といった心理が、ローボール・テクニックを成り立たせている大きな要因だと言えるでしょう。

ローボールテクニック04

ローボール・テクニックの具体例

では、ローボール・テクニックがどのようなものなのか、具体例をご紹介しましょう。

ローボール・テクニックの具体例1

職場の先輩から、「いま忙しい? 仕事を手伝ってくれないかな」と頼まれ、「忙しくないので手伝います」と快諾しました。すると、「ありがとう、助かるよ」と、感謝の言葉を言いながら先輩が持ってきた仕事は、自分のスキルでは残業しないととうてい終わらないような量。しかし、快諾した手前断れず、残業して仕事を手伝うことに。

ローボール・テクニックの具体例2

「無料の会員サイトに入会すると、割安でサービスを利用できる」と言われ、会員サイトに入会しました。しかし、入会後に「割安でサービスを利用するには、有料プランにも入会する必要があります」と言われ、断れずに有料プランにも入会してしまいました。

ローボール・テクニックの具体例3

買い物中、「店内商品50%オフ」という貼り紙に惹かれて服屋に入店しました。しかし、レジに商品を持っていったところで「たいへん申し訳ないのですが、この商品は割引対象外です。よろしいですか?」と言われてしまいます。レジまで持っていった手前断りにくく、定価のままで商品を購入してしまいました。

ローボール・テクニックの具体例4

居酒屋のキャッチから「料理を一人2品以上注文すれば、飲み放題1,000円で利用できます」と声をかけられ、入店しました。しかし、席に着いて食事のメニューを見るとどれも割高です。席に着いてしまった以上、何も注文せずに退店しづらく、結局高額な料金を支払うことになってしまいました。

上記と似た経験がある人も多いのではないでしょうか。上記のように、ローボール・テクニックは、断りづらい状況を作ることができるという面では効果的ですが、相手に「だまされた」「詐欺だ」といったネガティブな感情を抱かせるリスクがあります。

ローボールテクニック04

ローボール・テクニックと「フット・イン・ザ・ドア」「ドア・イン・ザ・フェイス」の違い

ローボール・テクニックと混同されがちな手法に「フット・イン・ザ・ドア・テクニック」や「ドア・イン・ザ・フェイス・テクニック」というものがあります。

フット・イン・ザ・ドア・テクニック

フット・イン・ザ・ドア・テクニックとは、相手が承諾しやすい小さな頼みごとをしてから徐々に大きな頼みごとをして承諾させる手法のことを指します。ローボール・テクニックと同様、一貫性の原理を利用した手法です。

たとえば、洋服を見ているお客さんにいきなり「この服、買いませんか?」と話しかける店員はいないでしょう。「この服、お客様の雰囲気に合いそうですね! 鏡の前で合わせてみませんか?」「着心地も良いんですよ。ご試着だけでもどうですか?」「とてもお似合いでしたよ! いかがされますか?」と段階を踏んで尋ねていけば、自然な流れで目的を果たすことができます。

このように、小さな要望から少しずつ段階を踏んで断りにくい状況に持っていくのがフット・イン・ザ・ドア・テクニックの手法です。

ドア・イン・ザ・フェイス・テクニック

ドア・イン・ザ・フェイス・テクニックは、フット・イン・ザ・ドア・テクニックと反対に、最初に本来の目的より難度の高い頼みごとをして、相手に断られてから、それより小さな頼みごとをして本来の目的を達成するというもの。

たとえば、3万円で売りたい商品を「5万円でいかがでしょう?」と本来より高く交渉を持ちかけたとしましょう。相手に「高すぎます」と断られたところで、「では、今回は特別に3万円でもかまいません」と条件を下げます。すると、相手は一度断っている負い目から承諾しやすくなるのです。さらに相手には、「2万もまけてもらえた」という意識が残るため、ローボール・テクニックのようにネガティブな感情が残るリスクもありません。

上記のように、「フット・イン・ザ・ドア・テクニック」は、小さい要望から徐々に本来の要望を持ちかける、「ドア・イン・ザ・フェイス・テクニック」は大きな要望から本来の要望を持ちかける手法です。

これらとローボール・テクニックの大きな違いは、要望が変化する2つの手法と比べて、ローボール・テクニックの要望は一貫しているものの、条件の一部を隠しているという点です。

ローボールテクニック05

ローボール・テクニックの応用

では、ローボール・テクニックの知識を、具体的にどのように活用すれば良いのでしょうか。ローボール・テクニックを使用したい場合と、使用された場合に分けて考えてみましょう。

ローボール・テクニックを使用したいとき

ここまで述べてきたように、ローボール・テクニックは相手をだます行為に近い手法です。そのため、ローボール・テクニックを活用する際には、相手から恨みを買わぬよう注意が必要になります。

そこで、たとえば「ドア・イン・ザ・フェイス・テクニック」と組み合わせるのがおすすめです。「ローボール・テクニックの具体例」でご紹介した例を、ドア・イン・ザ・フェイステクニックと組み合わせてみましょう。

ローボール・テクニックの具体例1

職場の先輩から、「いま忙しい? 仕事を手伝ってくれないかな」と頼まれ、「忙しくないので手伝います」と快諾しました。すると、「ありがとう、助かるよ」と、感謝の言葉を言いながら先輩が持ってきた仕事は、自分のスキルでは残業しないととうてい終わらないような量。しかし、快諾した手前断れず、残業して仕事を手伝うことに。

ドア・イン・ザ・フェイス・テクニックを組み合わせると…… 

「いま忙しい? 仕事を手伝ってくれないかな」と打診してから、本当に頼みたい量よりも多めのタスクを提示する。相手が難色を示してから、「流石にこんなにたくさん手伝ってもらうのは申し訳ない。半分だけ手伝ってくれないかな?」と頼む。 

ローボール・テクニックの具体例2

「無料の会員サイトに入会すると、割安でサービスを利用できる」と言われ、会員サイトに入会しました。しかし、入会後に「割安でサービスを利用するには、有料プランにも入会する必要があります」と言われ、断れずに有料プランにも入会してしまいました。

ドア・イン・ザ・フェイス・テクニックを組み合わせると…… 

「割安でサービスを利用するには、月額1,000円の有料プランにも入会する必要があります」と本来より高い月額料金を述べ、相手が微妙な反応を示してから、「今回は特別に300円でかまいません」と告げる。

打診されている内容は変わりませんが、ローボール・テクニックだけを用いた頼み方よりも快諾してしまいそうではないでしょうか。

ただし、何度も述べていますが、ローボール・テクニックが相手をだますような手法であることに変わりはないので、悪用や乱用は禁物です。特に重要な取引相手など、今後も信頼関係を大切にしたい相手には、ローボール・テクニックを使うべきではないでしょう。

ローボールテクニック06

ローボール・テクニックを使用されたとき

では、反対に、ローボール・テクニックを使用されたときにはどのように対処すれば良いでしょうか。 

まずは、ローボール・テクニックという手法があることを頭に入れておくことが大切です。交渉の場で何かを判断する際には、「○○という条件で間違いありませんか? ほかに条件はありませんか?」と先に全ての条件を確認しておくのが良いでしょう。

好条件が後から取り除かれたり、面倒な条件が後から追加されたりした場合には、「これはローボール・テクニックだ」と認識することも必要です。そのうえで、本当に承諾しなければならないことなのか、「周囲の人間からよく思われたい」という自分の虚栄心は本当に守らなければならないことか、自分が損をしてまで気を使わなければならない相手なのかを考え、場合によっては断りましょう。そうすることで、ローボール・テクニックに振り回されずに、損のない行動を取れるのではないでしょうか。

***
ローボール・テクニックは、効果的ですが、相手との関係を壊しかねないリスキーな手法です。まずは、ローボール・テクニックという手法があることをしっかりと頭に入れ、自分が利用された際には冷静な判断をしましょう。また、どうしてもローボール・テクニックを使いたい方は、前述したように、ドアインザフェイステクニックと組み合わせるなど、相手との関係に角が立たないような利用方法を心がけましょう。

 (参考)
Cialdini, R. B., J. T. Cacioppo, R. Bassett, & J. A. Miller, (1978), “Low-Ball Procedure for Producing Compliance: Commitment then Cost,” Journal of Personality and Social Psychology, Vol. 36, No. 5, pp. 463-476.
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コトバンク|フット・イン・ザ・ドア・テクニック
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コトバンク|ローボール・テクニック

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