「今後はこうしよう!」と思っていることがあったとしても、なかなかできないこともあるのが人間という生き物です。では、そこで「行動のスイッチ」を入れるにはどうすればいいのでしょうか。
企業の経営層のコーチングを行なっているエグゼクティブコーチの鈴木義幸(すずき・よしゆき)さんは、自分への問いかけである「セルフトーク」によって行動を「選び直す」ことが大切だと語ります。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/玉井美世子
セルフトークの良し悪しによって仕事の質や効率は左右される
私たちの思考は、「セルフトーク」と呼ばれる自分自身への「問い」とそれに対する「答え」でできています(『成功をつかむカギは “これ” を意識すること。社会人にとって超重要な「セルフトーク」とは』参照)。仕事なら、常に頭を使って考える必要があり、問いと答えの連続と言えるでしょう。
そう考えると、セルフトークの良し悪しによって仕事の質や効率も変わってくるはずです。たとえば、ある仕事で難題にぶつかったとします。どうしても自分ひとりでは解決できそうにない。そんなとき、みなさんならどうしますか? 同じ問いであっても、「どうして自分のところにこんな面倒な仕事がまわってくるんだろう……?」なんていう問いを自分に投げかけても、なんの解決にもなりません。
そこで大切なのは、周囲に助けを求めることです。こんなセルフトークはどうでしょうか。「この難題を解決するために誰が一番効果的なアドバイスをしてくるだろう?」。これなら、難題の解決に向かって前進できそうです。そうしてアドバイスを求める人を何人かピックアップしたら、さらに問いかけてみる。「この人たちから効果的なアドバイスを引き出すための質問はどんなものだろう?」といったように。
このように、要領よく仕事を進めている人は、セルフトークをうまく使っている可能性が高いと私は考えます。みなさんも要領よく仕事を進められるようになりたいのなら、周囲にいるそういう人をモデルとして、実際にどのように仕事を進めているのかを聞いてみるのもいいでしょう。その人自身は無意識かもしれませんが、どんな人も必ずセルフトークをしています。内なるセルフトークに気づくことができれば、みなさんにとって今後の大きな武器となってくれるはずです。
意識的な振り返りによって好ましくないセルフトークを減らす
また、仕事の質や効率を上げていくためによりよいセルフトークを身につけることとは逆に、よくないセルフトークはしたくないものです。自分自身がよくないセルフトークをしていないかを知るためには、セルフトークを振り返ることが大切です。
特に、周囲の環境から影響を受ける反応的なセルフトークには要注意。そういったセルフトークは、そのあとの感情や行動をよくない方向に導く可能性が高いからです。ですから、イライラしたようなことがあった日には、そのことを振り返ってみてほしい。
1日を思い返して、イライラしたり怒ったりしたことで仕事の質や効率が下がったということがあったなら、「どういう場面でイライラしたり怒ったりしたんだっけ?」と自分に問いかける。そして、「あ、会議でのあの人の発言にイライラしたんだった」と思ったなら、そのときの自分のなかのおしゃべりを思い出してみましょう。
そのように自分を客観視することを心がけ、自分の仕事の質や効率を下げてしまうセルフトークのパターンを知ることができれば、今後は意識的にそういったセルフトークを減らしていけるはずです。
普段、ほとんどの人は自分のセルフトークに無意識なものです。「自分は自分のなかでどんなおしゃべりをしているのだろう?」とセルフトークを意識するだけでも、その内容はよい方向に変わっていくのではないでしょうか。
「行動のスイッチ」を入れるにもセルフトークは有効
また、「行動のスイッチ」を入れるにもセルフトークは有効です。たとえば、上司から「会議での発言が少ないぞ」と指摘されたとします。そういうときに、「よし、今度の会議では発言をするぞ」と無理やり思い込もうとしても、それを心の底から思い込んで実行するのは難しいもの。なぜなら、自分で自分に投げかけた肯定的な言葉に対して、「本当にそう思っているのか?」と打ち消してしまう、もうひとりの自分が存在するからです。
そこで必要になるのは、もうひとりの自分に対して打ち勝つことができる選択を自ら能動的に行なうこと。そして、そうするために自分に問いかけるのです。このケースで言えば、「今度の会議では積極的に発言をするのか?」「会議で発言をするその理由はどんなものだろう?」「会議での発言が自分の成長に与えてくれるメリットはどんなことだろう?」といった具合です。
そうした問いを自分に投げかけると、私たちは自分のなかにある答えをサーチし始めます。そして、「これだ!」という答えを見つけることができる。私は「選び直す」という表現をしますが、「こうしよう」とただ思い込もうとするのではなく、自分にしっかりと問いかけたうえで「やっぱりこれだ!」と能動的に選択することが、行動のスイッチを入れることにつながるのです。
【鈴木義幸さん ほかのインタビュー記事はこちら】
成功をつかむカギは “これ” を意識すること。社会人にとって超重要な「セルフトーク」とは
部下の能力をどんどん引き出せる「デキるリーダー」が、いつも当たり前にやっていること
【プロフィール】
鈴木義幸(すずき・よしゆき)
1967年11月11日生まれ、静岡県出身。株式会社コーチ・エィ代表取締役社長。エグゼクティブコーチ。慶應義塾大学文学部人間関係学科社会学専攻卒業。株式会社マッキャンエリクソン博報堂(現株式会社マッキャンエリクソン)に勤務後、渡米。ミドルテネシー州立大学大学院臨床心理学専攻修士課程を修了。帰国後、有限会社コーチ・トゥエンティワン(のち株式会社化)の設立に携わる。2001年、株式会社コーチ・エィ設立と同時に、取締役副社長に就任。2007年1月、取締役社長に就任。2018年1月より現職。200人を超える経営者のエグゼクティブ・コーチングを実施。リーダー開発に従事するとともに、企業の組織変革を手掛ける。また、神戸大学大学院経営学研究科MBAコース「現代経営応用研究(コーチング)」をはじめ、数多くの大学において講師を務める。主な著書に『未来を共創する経営チームをつくる』、『新 コーチングが人を活かす』、『リーダーが身につけたい25のこと』(いずれもディスカヴァー・トゥエンティワン)、『コーチングのプロが教える 「ほめる」技術』(日本実業出版社)などがある。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。