日本語では「自己対話」とも呼ばれる、自分のなかでの自分自身とのおしゃべり「セルフトーク」。このセルフトークが、ビジネスパーソンが成功をつかむための必須スキルだと言うのは、企業の経営層のコーチングを行なっているエグゼクティブコーチの鈴木義幸(すずき・よしゆき)さんです。
鈴木さんがセルフトークを推奨する理由、ビジネスパーソンが成功をつかむためのセルフトークをするコツを教えてもらいました。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/玉井美世子
思考とは自分自身への「問い」と、その「答え」の連続
「セルフトーク」という言葉を知っていますか? これは、文字通り自分のなかでのおしゃべりのことです。もちろん「しゃべる」ではなく「思う」「考える」という言い方もできますが、いずれにせよ、私たちの思考は自分自身への「問い」と、それに対する「答え」でできています。
朝、目が覚めた。「今朝はなにを食べようか?」「あ、そろそろ賞味期限が切れる卵があったな」といった具合です。もちろん、仕事に関することでも同様に、「今日はどんなスケジュールだっけ?」「そうだ! 大事な会議があるんだった」というふうに、私たちの思考は、問いと答えの連続でできているのです。
ここで注意しなければならないのは、特に問いの部分についてはほとんど無意識であるということ。そして、自分で自分になにを問いかけているかをよく把握できていないがゆえに、問いの影響がそのあとの感情や行動に強く及ぶということです。
たとえば、つまらない会議に参加している人が、「なんでこんなつまらない会議をやってるんだろう……?」と思ったとします。この言葉は問いのかたちをとってはいますが、真剣に答えを知りたくて問いを投げかけているのではなく、実体はいわば批判です。それが引き金になって、イライラするなど感情を乱してしまうこともあるのです。
セルフトーク・マネジメントはビジネスパーソンの必須スキル
もちろん、上記のようなよくないセルフトークによって感情を大きく乱してしまってはいい仕事をすることは難しくなりますから、ビジネスパーソンにとってセルフトークが重要だということは明白です。もっと言えば、ビジネスパーソンとして成功をつかむには、セルフトーク・マネジメントは必須のスキルだと私は考えています。
世のなかには、大きく分けて2種類の人がいます。「環境の被害者になっている人」と「環境に自ら働きかけている人」です。言葉のイメージからもわかるかと思いますが、成功をつかむことができるのは後者です。
環境の被害者になっている人は、先に例に挙げたような「なんでこんなつまらない会議をやってるんだろう……?」とか「どうして自分ばかり面倒な仕事を押しつけられるんだろう……?」などと、周囲の環境に対して受動的な人のこと。そういうスタンスでいては、生産性が高いすばらしい仕事ができるとは思えませんよね。
一方、環境に自ら働きかけている人は、周囲の人間も含めた環境を主体的に能動的によりよい方向に変えようとしますから、どんどんいい仕事ができるようになります。そしてそのような、環境に自ら働きかけている人になるために、セルフトークが力を発揮するのです。
よりよいセルフトークを生む「まわりに対する貢献」の意識
では、環境に自ら働きかけている人になるためのセルフトークとはどんなものでしょうか。それにはいくつかのパターンがありますが、ここでは特に重要なパターンをお伝えしましょう。
それは、「環境に自ら働きかける」という言葉にそのまま通じることですが、「まわりに対する貢献を意識する」ことです。
どんなにしっかりと準備も練習もしたとしても、プレゼンの前にどうしても緊張して失敗してしまう人がいるとします。こういう人の多くは、「どうすればプレゼンで自分が成功できるか……?」というふうに、自分を中心に置いたセルフトークをしています。
ほかにも、「もし失敗したらどうしよう……?」「聴衆はどうして自分にこんな怖い顔を向けているんだろう……?」「前回と同じように今日も失敗したらどうしよう……?」といったセルフトークも同様に自分が中心のものです。こういった問いを自分にいくら投げかけても、プレゼンがうまくいくとは思えません。
そうではなく、まわりに目を向けてみましょう。この例で言えば、「自分のプレゼンがチームに対するなんらかの貢献になるとしたら、それはどんなことだろう?」。あるいは、「聴衆は自分からどんな話を聞きたいと思っているだろう?」といった具合です。そうすれば、「もし失敗したらどうしよう……?」と思っていたときには怖く見えていた聴衆の顔も違った顔に見えてくる気がしませんか?
周囲の環境から影響を受ける反応的なセルフトークをするのではなく、周囲の環境に自ら働きかけてセルフトークを生み出す――。それこそが、よりよいセルフトークをするための最大のコツです。
【鈴木義幸さん ほかのインタビュー記事はこちら】
「行動のスイッチ」はこうすれば入る! 自分への “問い” によって行動を○○せよ
部下の能力をどんどん引き出せる「デキるリーダー」が、いつも当たり前にやっていること
【プロフィール】
鈴木義幸(すずき・よしゆき)
1967年11月11日生まれ、静岡県出身。株式会社コーチ・エィ代表取締役社長。エグゼクティブコーチ。慶應義塾大学文学部人間関係学科社会学専攻卒業。株式会社マッキャンエリクソン博報堂(現株式会社マッキャンエリクソン)に勤務後、渡米。ミドルテネシー州立大学大学院臨床心理学専攻修士課程を修了。帰国後、有限会社コーチ・トゥエンティワン(のち株式会社化)の設立に携わる。2001年、株式会社コーチ・エィ設立と同時に、取締役副社長に就任。2007年1月、取締役社長に就任。2018年1月より現職。200人を超える経営者のエグゼクティブ・コーチングを実施。リーダー開発に従事するとともに、企業の組織変革を手掛ける。また、神戸大学大学院経営学研究科MBAコース「現代経営応用研究(コーチング)」をはじめ、数多くの大学において講師を務める。主な著書に『未来を共創する経営チームをつくる』、『新 コーチングが人を活かす』、『リーダーが身につけたい25のこと』(いずれもディスカヴァー・トゥエンティワン)、『コーチングのプロが教える 「ほめる」技術』(日本実業出版社)などがある。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。