リーダーという立場に立ったのなら、できれば「一流のリーダー」を目指したいものです。では、どうすれば一流のリーダーになれるのでしょうか。
そのために「リーダーが『やるべきこと』とは別に『してはいけないこと』がある」と語るのは、コミュニケーションデザイナーの吉田幸弘(よしだ・ゆきひろ)さん。著書『リーダーの「やってはいけない」』(PHP研究所)が「目からうろこ!」と好評の吉田さんは、ちょっと意外な「してはいけないこと」をいくつも挙げてくれました。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)
【NG1】KPIを固定する
リーダーに求められるのは、何より自分が率いるチームのパフォーマンスを上げることでしょう。そのための「してはいけないこと」として、まず「KPIを固定してしまう」ことを挙げます。
KPIとは「Key Performance Indicator」の略で、「業績管理評価のための重要な指標」という意味です。わかりやすく言えば、「何をもって部下を評価するか」ということ。リーダーという立場から評価指標を一度決めて部下に通達した以上、ついその指標を固定したくなるものです。
でも、決めた指標のハードルが想定以上に高かったなど、その指標が実情にそぐわないこともよくありますよね。そのままでは、部下のモチベーションが上がるはずもありません。チームのメンバーの半数以上が指標をクリアできないといったときには、柔軟に指標を変えてあげることを考えましょう。
また、たとえある程度のメンバーが指標をクリアできている場合にも注意が必要です。それは、指標のクリアが会社の利益にリンクしていないケース。アポ件数をKPIにした営業チームがあったとします。でも、受注がまったく取れていなかったとしたら……? その指標をいくらクリアしても会社には利益をもたらしません。この場合なら、アポ件数ではなくて受注率をKPIに再設定することを考えるべきでしょう。
【NG2】「いつでも相談しろ」と言う
かつての私もそうでしたが、世の中のリーダーの多くが、部下には「いつでも相談しろよ」と言うものです。頼りがいがあるいいリーダーのように思えますよね。でも、実際に部下から相談されると機嫌が悪くなるリーダーも多いもの。
そういう事態を引き起こすのは、多くがいわゆる「空気を読めない」タイプの部下です。そういう部下は、リーダーが忙しいときに限って相談してしまいがち……(苦笑)。
もちろん、リーダーは「あとにして」と言うでしょう。すると、相談した部下が「言っていることと違うじゃないか」と思うだけでなく、それを目のあたりにしたほかのメンバーも同じように感じてしまうのです。結果、本当に相談するべきことも相談しないという事態が起き、大きな事故も招きかねません。
これを避けるには、「この時間は相談に来ないで」という時間をしっかり部下たちに伝えるのが大切です。これは、トリンプ・インターナショナルの有名な「がんばるタイム」と同じこと。
がんばるタイムとは、12時半から14時半までのあいだは、コピー、電話、立ち歩きのほか、部下への指示や上司への確認も禁止するという制度です。そうして、自分の仕事だけに集中する時間を設定し、リーダーも含めたチーム全員の仕事効率を上げるわけです。
【NG3】できない部下に必要以上に時間をかける
「262の法則」という言葉を聞いたことがある人もいるかもしれません。これは、「どんな組織でも、2割の優秀な人と、6割の普通の人と、2割の出来が悪い人で構成されている」とされる法則のことです。2割の出来が悪い部下にきちんと仕事をさせようとすれば、リーダーがあれこれ教えたり相談に乗ったりする必要があり、どうしても時間を取られてしまいます。
すると、優秀な部下への対応がおろそかになる。優秀なのですから、そういう部下には仕事をある程度任せておいても成果を出してくれるでしょう。
でも、昇格や昇給の評価をするためにも働きぶりをきちんと見ておく必要がありますし、優秀な部下だからこそ仕事が集中してしまって、じつはキャパシティーをオーバーしているようなこともあり得ます。そういう状況が続いて部下が不満を募らせれば、いまは雇用の流動性が非常に激しい時代ですから、他社に引き抜かれるということもあるはず。
では、出来が悪い部下は放置しておけばいいのかと言うと、そうではありません。対応に時間をかけすぎる必要はありませんが、「せめて6割の普通の部下に近づいてほしい」という発想で育成するのです。というのも、6割の普通の部下の中でも力が劣る人間が、2割のできない部下になってしまうこともあるからです。
【NG4】部下全員とうまくやろうとする
日本の企業の多くは協調性を重視する傾向にありますが、なかにはどうしても性格が合わない人間もいるものです。それが部下だったらどうすればいいでしょうか? この状況に当てはめるべき思考は、リーダーが持つべき思考である「なんでも自分でやろうとしない」というものです。
リーダーは優秀だからこそリーダーになったわけで、ついなんでも自分でやろうとする人も多いものですが、それでは二流のまま。できるリーダーは、うまく人に仕事を任せます。
もし10人の部下がいたとしたら、リーダーが自分できちんと見られる部下の人数は6人が限界といったところでしょう。そこで、リーダーと合わない部下も含めた残りの部下は、補佐役の部下に見させるのです。
これには、いくつもメリットがあります。まず、合わない部下との接触が減るのですから、リーダー自身がイライラしなくなる。また、補佐役の部下にとっては、将来リーダーになったときのための勉強になる。そしてなにより、リーダーと合わない部下にとっては、リーダーではなく補佐役と接するため、本音を語れるようになるのです。
もちろん、補佐役に任せるとはいっても、補佐役の負担になりすぎてはいけませんし、自分と合わない部下の仕事ぶりや本音はきちんと吸い上げる必要がありますから、補佐役とは密にコミュニケーションを取ることは忘れないでください。
【NG5】部下のミスを必要以上に叱る
私からの最後のアドバイスは、「部下がミスをしたことを叱らない」というものです。
意外に感じる人も多いでしょう。リーダーたるもの、必要なときにはきちんと叱るべきだという考え方もあります。もちろん、部下の行動改善のために叱るべきこともあるでしょう。でも、必要以上に叱る必要はありません。
たとえば、取引先のA社に対して別の会社に出すべき提案書を提出したというような大きなミスをしたとき、「ヤバイ、ヤバイ」なんていって笑っていられる人間はいないでしょう。もしいたら、それこそヤバイ人間です。そういう場合、ほとんどすべての人間は顔を真っ青にして「やっちゃった……」と自ら反省しています。そこに追い打ちをかけるように叱る必要はないということです。
これには、部下を追い詰めないということ以上に、大きな理由があります。それは、ミスの隠蔽を防ぐということ。
先の例なら、A社に間違った提案書を提出していたら、B社にもC社にも同じように間違った提案書を出していたということもあり得る話。でも、頭ごなしに強く叱られると、それ以上に叱られることを怖がって、B社やC社に関するミスを部下が隠そうとすることにもなりかねません。そうしたミスの隠蔽があれば、チームが受ける損失は広がる一方。
部下がミスをしても必要以上に叱ることなく、現状についてしっかり報告させることが、何よりも重要です。
【吉田幸弘さん ほかのインタビュー記事はこちら】
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【プロフィール】
吉田幸弘(よしだ・ゆきひろ)
1970年3月12日生まれ、東京都出身。コミュニケーションデザイナー。人材育成コンサルタント。上司向けコーチ。成城大学在学中は体育会ボート部に所属し、その頃からメンバーに対するリーダーシップ論を学ぶ。卒業後、大手旅行会社を経て学校法人へ転職。1年間で70件以上の新規開拓をして広報リーダーとなるも、自身の「怒ってばかりの不器用なコミュニケーション」によってチームを崩壊させてしまう。結果、職場を去ることとなり、外資系専門商社に転職。転職後も周囲のメンバーとうまくコミュニケーションが取れず、降格人事を経験してクビ寸前の状態となる。悩んだ揚げ句に体調を崩し入院。見舞いに来てくれた友人のすすめで学んだ交渉術を駆使して劇的に営業成績を改善し、マネージャーに再昇格。その後、社外での営業コンサルタント・コーチとしての活動を経て、2011年に独立。現在は経営者・中間管理職の人材に向けてコーチングの手法を使った人材育成、チームビルディング、売上改善法のコンサルティング活動を行う。また、営業力アップ、モチベーションアップ、褒め方・叱り方・伝え方をベースにしたコミュニケーション等の各種セミナーも開催している。著書に『部下に9割任せる!』(フォレスト出版)、『リーダーの「やってはいけない」』(PHP研究所)、『誰でもすぐ使える雑談術』(さくら舎)、『西郷どん式 リーダーの流儀』(扶桑社)、『リーダーの一流、二流、三流』(明日香出版社)、『部下のやる気を引き出す 上司のちょっとした言い回し』(ダイヤモンド社)などがある。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。