仕事に臨むときの集中力にムラがある……。
ネガティブな感情をつい引きずりすぎてしまう……。
勉強したことをもっと覚えておけるようにしたい……。
一見バラバラなこれらの悩みすべてを解決できる、魔法の言葉があるのをご存じでしょうか? それは、誰もが知っている言葉です。当たり前すぎて忘れることも多いたった5文字の「ありがとう」。
今回は「ありがとう」を書き出すことの大きな効果と実践して得た気づきを、みなさんに報告させてください。
「感謝を口に出す・紙に書く」ことはなぜ大切なのか?
感謝には、人間関係を円滑にしたり気持ちをポジティブにしたりするメリットがある――このことは想像がつきやすいと思いますが、じつは科学的にも、感謝のメリットは実証されているのです。
アメリカのミシガン大学などで長年ストレスについて研究してきた医師、高橋徳氏によると、人に感謝することで「オキシトシン」という脳内物質がどんどん出るのだそう。俗に「幸せホルモン」と呼ばれるオキシトシンには、以下のような効果があると言います。
- 自律神経を整える
- 免疫力を高める
- ストレスをなくす
- 脳の疲れをとる
そして、オキシトシンにはこうした心身の健康面だけでなく、記憶力にも深い関わりがあることがわかっています。脳科学者の中野信子氏によると、オキシトシンの分泌が活発になっている状態では、「新しいことを覚える力=記銘力」が向上することが、動物実験で明らかになっているそうです。
つまり、人に感謝を伝えたり紙に書き出したりするという行為は、日々の仕事のパフォーマンスや学習効率をアップさせるのに役立つ行動なのです。
3分間で15個の「ありがとう」を書き出そう
感謝の効能を引き出すには、感謝することを習慣づけないといけません。しかし「早寝早起き」といった生活習慣に比べると、「感謝」を習慣づけるにはどうすればいいか、いまいちわかりづらいですよね。
そこで参考になるのが、約250社2万人以上へのリーダー研修の実績をもつ成田直人氏(ジャパンブルーコンサルティング株式会社代表取締役)の提案する「3分間で15個の感謝を書き出す」という方法。
成田氏はこれを「リーダーとして部下への感謝を書き出す」方法として提案しています。目的は、部下に対する「やって当たり前」「できて当たり前」という見方を捨て、部下の小さな行動にも「ありがとう」を伝えられるようになること。それにより、部下が会社に愛着をもてる状態を目指します。実際、成田氏が研修でこの方法を試すと、従業員の定着率が高い組織ではほとんどのリーダーが15個以上書き出せるのに対し、離職率の高い組織では3〜5個しか書けないのだそう。
この方法なら、普段見落としがちな感謝を発見したり、細かなことにも感謝する習慣が身につきそうですよね。成田氏は「この数ヶ月で(部下に)してもらって助かったこと、ありがたかったこと、嬉しかったことを3分間で15個書き出す」ワークを提案しているのですが、感謝にフォーカスするという意味では、対部下に限定しなくても十分に機能するはずです。これをふまえて筆者も、以下のようなルールを設けて実践してみました。
【ルール1】
パフォーマンスアップを狙って、仕事(記事の執筆)前に実践する
【ルール2】
振り返りがしやすいように、感謝の対象別に色分けをする
黒:友人・家族など身近にいる人
青:仕事で関わる人
緑:見ず知らずの人
【ルール3】
3分間で15個書けなかったら、時間を延長してでも15個埋める
それでは、筆者の作成した「15個のありがとう」をご覧ください!
(プライバシーに関わる記述は黒塗りにしています)
「ありがとう」の効果はやっぱりすごかった
実際にやってみて感じた効果や、これから実践する方に提案したい点を報告していきます。
1. やる気とリラックスのバランスを整えられた!
今回、執筆の仕事の前にこのワークを実践したところ、普段はうまくとることのできない「やる気とリラックスのバランス」を上手にとることができるようになりました。
筆者には常々、気合が入りつつもほどよくリラックスできているときに書きあげたものが、多くの人に読まれる記事になる実感がありました。しかし実際は、気合が入りすぎて視野が狭くなったり、リラックスしすぎてなかなか集中できなかったりすることもしばしば……。
ところが、執筆の仕事前に感謝を書き出すと、気合が入りすぎているときは人への感謝を思い出して程よく力が抜け、逆にリラックスしすぎているときは人から受けた恩を思い出して気が引き締まり、仕事に向かうにあたって理想的な状態をつくることができたのです。筆者のように集中力にムラがある人には、特に仕事前のタイミングで実践することをおすすめします。
2. ネガティブ感情を昇華できてストレスが減った!
実際に書き出してみると、15個というのは決して少なくない個数だと実感。そこで「嫌だなぁ」「納得できないなぁ」とネガティブな感情を抱いたことにもあえて「ありがとう」と書いてみることにしました。「これはこれで貴重な経験をありがとう」という具合にです。すると不思議なもので、それまでのネガティブな感情がとてもちっぽけなものに思えるようになりました。
筆者の場合、嫌なことがあるとそれだけで頭がいっぱいになり、ストレスの大きな種になりがちです。しかし実際は、書き出した15個の感謝のうちネガティブ感情によるものは3つほど。「こんなによいことがあるんだから、まぁいいか」と思えて、日常で抱えるストレスを減らすことができたのです。これこそ冒頭に述べた「オキシトシン」の効果かもしれません。
みなさんも「感謝が15個も思い浮かばない!」と思うときはぜひ、ネガティブなこともとりあえず「ありがとう」と書いてみてください。また、3分で書き終わらなかった場合は、多少時間をかけても15個書ききってみてください。
3. 言葉の使い方を見直せた!
最後に、筆者が最も大切だと感じた効果があります。「ありがとう」という言葉の価値を見つめ直せたことです。
15個の感謝を書き出していると、同じ名前が何度も出てきました。それはやはり、その人たちといる時間が長いから。普段苦楽をともにしている人たちに、ここに書き出した数の「ありがとう」を、きちんと伝えられているだろうか。近くにいるからこそおざなりになっていないだろうか。そんなことを自問する機会になりました。これは、感謝の対象別に色分けをしたことで気づいた点でしたので、ぜひ取り入れてみてください!
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いまも続くコロナ禍。「ありがとう」と直接伝えることは、簡単ではなくなりました。だからこそ、会える機会には忘れず感謝を伝えようとあらためて思えたことも大きな収穫でした。身近にいる人、遠くにいる人へのたくさんの感謝が、みなさんの幸せやパフォーマンスの助けになればと、心から願っています。
(参考)
リクナビNEXTジャーナル|幸せホルモン「オキシトシン」で仕事のイライラを改善する5つの方法
中野信子(2015),『あなたの脳のしつけ方』, 青春出版社.
PHPオンライン衆知|「呼び捨て文化」が未だ残る会社に共通する“高い離職率”
【ライタープロフィール】
月島修平
大学では芸術分野での表現研究を専攻。演劇・映画・身体表現関連の読書経験が豊富。幅広い分野における数多くのリサーチ・執筆実績をもち、なかでも勉強・仕事に役立つノート術や、紙1枚を利用した記録術、アイデア発想法などを自ら実践して報告する記事を得意としている。