「自分はいつも偏りなく冷静に物事を考えられている」
胸を張ってこう言える方は、はたしてどれくらいいるでしょうか?
人間というものは、時として「認知の歪み」に陥ってしまいます。いわば思考を狂わせるバイアスであり、怖いのは、誰もが “無自覚のうちに” 陥る恐れがあるということ。そうなると、適切な判断を下したり健全なメンタルを保ったりすることが難しくなるのです。
「認知の歪み」は十数種類ありますが、今回はそのなかから「べき思考」「選択的抽出」「レッテル貼り」「占い」の4つをピックアップします。お心当たりのある方も多いはず。改善方法を探っていきましょう。
「心理学の認知バイアスとは? 8種類をわかりやすく解説!」の記事では、ほかに8種類の「歪み」を紹介していますので、あわせてご覧ください。
【1】べき思考
「べき思考」とは、「~すべきだ」「~すべきでない」という考え方で支配されている状態を指します。「仕事のために新聞を毎日読むべきだ」「部下は上司を立てるべきだ」「仕事中は雑談すべきでない」「定時で帰るべきでない」など。おそらく多くの人が、大なり小なり「べき思考」をもっているはずです。
こういった考え方は、自分自身にプレッシャーを与える原因になると、自律神経専門整体師の原田賢氏は言います。「新聞を毎日読まないと……」「上司を立てないと……」「仕事中は黙っていないと……」「残業しないと……」と脅迫的に考え、精神をすり減らしてしまうのです。
加えて、「自分だけでなく他人に対しても同様に当たってしまう」ことも厄介なところだと、原田氏は指摘します。たしかに、たとえば「仕事中は雑談すべきでない」という考えをもっていると、他人にもそれを要求し、雑談している同僚がいようものなら厳しく叱責するに違いありません。
「べき思考」が自分を窮屈に縛りつけていると感じたら、もっと自分に優しくなりましょう。「~すべきだ→~しなくてもいいんだ」「~すべきでない→~してもいいんだ」と思考パターンを変えていければ、心はもっと楽になるはずです。
【2】選択的抽出
「選択的抽出」とは、ある一面だけに注目して、その他の側面を無視してしまうことです。たとえば、仕事のほとんどはうまくいっていたのに、あるとき上司からたった1つだけ指摘されて「自分はなんて仕事がデキない人間だ……」と落ち込んでしまう、など。悪いことばかりに目が向いて、大部分を占めているはずのいいことが見えなくなってしまう……よくありますよね。
ポジティブサイコロジースクール代表の久世浩司氏によると、脳にはネガティブな情報ほど長く記憶に残す働きがあるのだそう。これは「ネガティビティ・バイアス」と呼ばれ、人類が進化する過程で、危険から身を守るための防御としての役割を果たしてきたのだとか。ネガティブなことのほうを強く意識してしまうのは、脳の性質だったのですね。
ポジティブな面に注目し直すことができれば問題ありませんが、それが難しい場合は、シンプルに気分転換をしましょう。これは心理学者のガイ・ウィンチ氏がすすめる方法であり、スポーツをしたり映画を見たりゲームをしたり、自分が集中できるものであればなんでもかまわないとのこと。思考を一度リセットできれば、ネガティブなことしか目に入らないという状態から抜け出しやすくなるはずです。
【3】レッテル貼り
「レッテル貼り」とは、否定的なラベルをつけてイメージを固定化することを指します。「彼女はおとなしいからリーダーには向いていないだろう」「彼はゆとり世代だから根性なしだろう」など。
もちろん、これらは憶測の域を出ていないというのは明らかですよね。実際に彼女をリーダーにさせてみれば思わぬ手腕を発揮するかもしれませんし、ゆとり世代かどうかと根性の有無も関係ないでしょう。でも、私たちは往々にして、ほんの一部だけを判断材料に相手の性質や特徴を決めつけてしまう癖があります。
「レッテル貼り」を解消するには、ワシントン大学の心理学者マーシャ・リハネン氏が提案する「客観的な事実だけを抽出する練習」が有効でしょう。先の「彼女はおとなしいからリーダーには向いていないだろう」を例に挙げると、「おとなしい」はたしかに事実かもしれませんね。では、「リーダーに向いていない」ことを表す事実は本当にあったでしょうか。ここで言明できなければそれは勝手な思い込みに過ぎず、むしろ「前に新人の教育を任せたら優秀な人材に育ててくれた」という事実に思い当たり、マネジメントの才に気づくかもしれません。
「事実」と「頭のなかの思い込み」をしっかり区別できるようになれば、不要なレッテル貼りもなくなっていくはずです。
【4】占い
「占い」とは、予測をあたかも事実であるかのようにとらえることです。「このプロジェクトはうまくいかないのではないか……」など、未来を悪く予想して決めつけてしまうこと、みなさんにもあるはず。これでは挑戦心も削られてしまいかねません。
精神科医の和田秀樹氏は、人間は本質的に、「得をしたい」という気持ちより「損をしたくない」という気持ちのほうが強いと言います。変化によって得をする見込みがあったとしても、現状維持によって損を避けるという選択をしてしまうのだそう。
和田氏は、「やってみなければわからない」という発想を身につけることをすすめています。失敗するかどうかは実際にやってみないとわかりませんし、仮に失敗に終わったとしても、そこから学べることはたくさんあります。失敗を恐れて行動を躊躇していては、道を切りひらいていくことはできません。
また前出の原田氏は、未来を悪く予測するのではなく、いっそのこと「いい結論」を出してしまえばいいとアドバイスしています。
根拠がないのなら、よい結論を出すことも自由です。勝手に悪い結論に決めつけて悩み苦しむよりも、よい結論に決めつけて明るく希望を持って行動しよう、と考えてみましょう。
(引用元:東洋経済オンライン|自律神経を乱す、「考え方の悪いクセ」の正体)
「きっと成功するだろう!」こう思えれば、不安もすっと解消されますね。
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私たちが無自覚のうちに陥りがちな「認知の歪み」を4つご紹介しました。当てはまるものがあったら、ぜひ1つずつ改善していきましょう。
【ライタープロフィール】
SHOICHI
大学院修了後、一般企業に就職。現在は会社を辞め、執筆活動をしている。読書、音楽、YouTubeが好き。
(参考)
和田秀樹(2007),『「判断力」の磨き方 常に冷静かつ客観的な選択をする技術』, PHP研究所.
東洋経済オンライン|自律神経を乱す、「考え方の悪いクセ」の正体
日経ビジネス|新人に贈るストレス知らずの思考法とは?
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東洋経済オンライン|折れない人が実践する「嫌な妄想」を絶つ方法
岡田尊司(2011),『人を動かす対話術 心の奇跡はなぜ起きるのか』, PHP研究所.
プレジデント・オンライン|日本社会を壊す「損をしたくない」という人たち
和田秀樹(2014),『「すすむ路」がなかなか決められない人へ』, ゴマブックス株式会社.