具体と抽象とは?例や違い、トレーニング方法を解説

具体と抽象を使いこなす

知的で生産性の高いビジネスパーソンになるには、「抽象」と「具体」を柔軟に行き来できる思考力が必要です。具体的事象から知恵・法則を抽出する「抽象的思考力」と、抽象的な知恵・法則を実際に活用する「具体的思考力」を使い分ければ、

  • 知識やスキルを身につける
  • 新商品を開発する
  • 現状を俯瞰的に把握・分析する
  • 人に物事を説明する
  • キャリアプランを立てる

……などのシーンで優れた成果を挙げることができます。抽象的・具体的思考でどんなメリットが得られるのか、抽象と具体を柔軟に行き来するにはどうすればいいのか、詳しくご説明しましょう。

抽象的思考力・具体的思考力とは

まずは、抽象的思考力と具体的思考力について、詳しく見ていきましょう。

抽象的思考力

抽象的思考力とは、複数の情報に共通するパターンを「抜き出す」ことで、一般的な法則・知恵を導き出す能力です。たとえば、以下に挙げる3つの商品について考えてみましょう。

  • 生クリーム大福
  • チョコレートどら焼き
  • あんこバターパン

いずれも、実際に販売されている人気スイーツです。商品の特徴を抜き出してみると、「和菓子にアレンジを加えている」という共通点が浮かび上がりますね。ここから、「新奇性のある和菓子はヒットしやすいのでは」という法則(仮説)が導けるのです。

◆抽象的思考力が役立つシーン

  • スキルアップ:経験をもとに、効率的な業務フローをつくる
  • 読書・学習:成功者の自伝や創業記を読み比べ、共通点を分析する
  • 商品開発:ヒット商品の事例を分析し、売れる商品の法則を導く
  • マネジメント:チームやプロジェクトの現状を俯瞰し、問題点を見つける
  • キャリア:経験をもとに、自分の業務適性を分析する
  • 説明・伝達:複雑な物事を抽象化し、簡潔に伝える

具体的思考力

具体的思考力とは、抽象的な法則や知恵をもとに、具体的な成果物を「生み出す」能力です。たとえば、「新奇性のある和菓子はヒットしやすい」という法則から、「きなこパンケーキ」「黒蜜ドーナツ」などの具体的な商品を考案します。

◆具体的思考力が役立つシーン

  • スキルアップ:習得した知識やスキルを実践に活かす
  • 学習・読書:本の内容を具体例に落とし込んで理解する
  • 商品開発:仮説や知識をベースに新商品を発想する
  • マネジメント:チームやプロジェクトの現状をふまえ、改善策を考える
  • キャリア:自分の業務適性をもとに、今後のキャリアを考える
  • 説明・伝達:具体例や比喩を用い、かみ砕いて説明する

抽象と具体は車の両輪

抽象的思考力と具体的思考力は、車の両輪です。一方が欠けたり過剰になったりすれば、真価を発揮できません。

抽象的思考に偏ると、机上の空論や理想論しか生まれず、現実的な成果を得られません。具体的思考だけでは物事をパターン化・一般化できないため、知的生産が低い水準に留まるでしょう。

抽象的思考と具体的思考を行き来するイメージ図

抽象と具体を行き来し、バランスよく使い分けることで、豊かかつ実りある思考が可能になるのです。

抽象と具体を行き来するメリット

抽象と具体を行き来しながら思考することには、どのようなメリットがあるのでしょうか? もう少し詳しく見ていきましょう。ビジネスコンサルタント・細谷功氏、人財教育コンサルタント・村山昇氏などの見解を参考に、4つのメリットをご紹介します。

学習能力が高まる

抽象的・具体的思考力は、学び、成長していくのに欠かせません。これまでの経験から学びを抽出し、「仕事のコツ」や「業務フロー」などの知恵を蓄えるには、抽象的思考力が必要です。抽象的思考力が乏しければ、どんなに経験を積み重ねても学びを得られず、成長が滞ってしまうでしょう。

一方で、獲得した知恵を実践に移すには、具体的思考力が必要です。いくら知識を蓄えても、実際のシーンで活かせなければ、宝のもち腐れでしょう。

具体的思考力は、抽象的な情報を理解する助けにもなります。たとえば、「小売業者」という抽象的な用語を目にしたとき、「コンビニやスーパーマーケットのことか」と具体的にイメージできれば、理解がスムーズに進むでしょう。抽象的・具体的思考力は、さまざまなかたちで学習に関わっているのです。

【例】

  • 業務経験をもとに、効率的なフローを考える(具体→抽象)
  • 成功者の自伝や創業記を読み比べ、共通点を分析する(具体→抽象)
  • 学んだ知識を実践に活かす(抽象→具体)
  • 抽象的な言葉を、身近な例に落とし込んで理解する(抽象→具体)

分析力が高まる

身のまわりの事象を分析し、問題点を洗い出したり今後の方針を考えたりするのにも、抽象的・具体的思考力は欠かせません。プロジェクトやチームの状況を正しく理解するには、具体的なデータを抽象化し、総合的な視点でとらえることが必要です。そのうえで具体的思考を用い、改善策を考え出します。

【例】

  • プロジェクトの現状を分析し、今後の方針を考える(具体→抽象→具体)
  • チームの現状を俯瞰し、問題点を改善する(具体→抽象→具体)
  • 自分のスキルや適性を分析し、今後のキャリアを考える(具体→抽象→具体)
  • 過去問の傾向から、試験対策を立てる(具体→抽象→具体)

発想力が高まる

抽象的・具体的思考を使い分けることで、発想力も向上します。そもそも発想とは、「事例から発想のタネを取り出し(抽象化)→タネを膨らませて新しいアイデアを生む(具体化)」プロセス。新商品のアイデアの場合、

  1. 既存のヒット商品の特徴を、あらゆる角度から抽象化する
    例:和菓子のアレンジ、もちもち食感、甘さ控えめ
  2. 具体的なアイデアに落とし込む
    例:きなこパンケーキ、黒蜜ドーナツ、メイプルあんみつ

……という流れです。抽象的・具体的思考力が高いほど、タネを多く見つけられ、アイデアのバリエーションが豊かになるため、おもしろいもの・斬新なものが生まれやすいでしょう。

【例】

  • 成功事例をもとに新商品を開発する(具体→抽象→具体)
  • 身近なものをヒントに新しいサービスを考える(具体→抽象→具体)
  • 既存商品を新しいアプロ―チでPRする手法を考える(具体→抽象→具体)

説明力が高まる

人に物事を伝える場面でも、抽象的・具体的思考力が活きます。わかりやすく伝えるには、「抽象」だけでも「具体」だけでもいけません。「抽象」だけだと話が曖昧なままで、「具体」だけでは話の要点が伝わりづらいためです。

  1. 抽象的な表現でアウトラインを描く
  2. 細部を具体的に補完していく

……という順番で、抽象的な情報も具体的な情報も伝えれば、わかりやすく説明できます。

たとえば、会社の事業を説明したい場合。まずは抽象的に「飲食系ビジネスを専門とする企業です」とひとことで伝えてから具体例を挙げていくと、わかりやすくなります。

◎抽象と具体がそろった文章

「弊社は飲食系ビジネスを専門とする企業です。具体的には、そば屋、とんかつ屋、中華料理屋などを展開しています。」

抽象的な要点→具体例の順で話が進んでおり、わかりやすい。

×抽象だけの文

「弊社は飲食系ビジネスを専門とする企業です。」

具体例がないので、詳細な事業内容が伝わらない。曖昧。

×具体だけの文

「弊社は、そば屋、とんかつ屋、中華料理屋などを展開しています。」

“飲食” というキーワードがないので、事業の要点が伝わりにくい。

そのほか、

  • 顧客への商品説明・PR
  • 上司への報告
  • 部下への指示出し
  • 会議での発表・発言

など、人に何かを伝えたい場面では、抽象と具体をバランスよく織り交ぜることを意識しましょう。

具体と抽象を使いこなすメリット

抽象と具体を自在に行き来する方法

抽象と具体を自在に使い分け、仕事や勉強で成果を出したいなら、これからご紹介する方法を実践してみてください。

Why・What・Howで自問する

前出の細谷氏は、「Why」「What」「How」という3つのワードでの自問を推奨しています。

  • 「Why」での自問→抽象的思考を促す
  • 「What」「How」での自問→具体的思考を促す

町を歩いていて牛丼屋が目に入ったら、「なぜ牛丼屋はこんなに繁盛しているんだろう?」「なぜこの場所に出店したんだろう?」と「Why」で問いをつくり、考えてみましょう。答えるには、「安価だから」「料理の提供が早いから」「手軽に肉を食べられるから」など、牛丼屋の特徴を挙げることになります。つまり、物事を抽象的に考察するトレーニングができるのです。

反対に、「牛丼屋で新商品を出すなら何がいいだろう?」「さらに繁盛させるにはどうすればいいだろう?」と「What」「How」で問いをつくれば、具体的な答えを挙げることになるため、具体的思考力を鍛えられます。

◆「Why」で問う例(抽象的思考)

  • なぜ牛丼屋はこれほど繁盛しているのだろう?
  • なぜAさんは仕事が早いのだろう?
  • なぜ日本経済は失速しているのだろう?

◆「What」「How」で問う例(具体的思考)

  • 牛丼屋で新商品を出すなら何がいいだろう?
  • 牛丼屋をさらに繁盛させるにはどうすればいいだろう?
  • Aさんから学べることはなんだろう?
  • Aさんのようになるにはどうすればいいだろう?
  • 日本経済再興のカギとなる産業はなんだろう?
  • 日本経済を立て直すにはどうすればいいだろう?

図解の習慣をつける

抽象的思考の助けになるのが、情報の図解です。ビジネスモデルやイノベーションについて研究し、多くの著書をもつ平井孝志教授(筑波大学)によれば、ひとつの図に収まる情報量は限られるため、図解すると必然的に大事な情報だけが残るそう。

ゾウの絵を簡単に描くと、長い鼻・大きい耳・立派な牙など主な特徴だけが抽出され、肌のシワ・無数の産毛・足についた泥といった些末な情報は無視されますよね。これはまさしく、事象から特定の要素だけを抜き出す「抽象化」です。

図解というプロセスは、ザルの目のように機能し、本質的な情報だけをすくい取ってくれます。図解の手法として、3つのパターンを紹介しましょう。

二軸図

タテ・ヨコの2本軸を使うのが「二軸図」です。日本IBMのシニア・プロジェクト・マネージャー、木部智之氏が「全体を俯瞰し問題をシンプルにする方法」として紹介しています。以下の図は、自分や同僚の商談能力を分析してみた例です。

自分と同僚の商談能力を図解した例

商談に必要な能力を「説明力」および「交渉力」だと仮定し、それぞれタテ軸・ヨコ軸に当てはめました。自分と同僚の実力について考え、図のなかに置いてみると、社内での自分の位置を客観視できます。「交渉力」不足の自覚にもつながりますね。

単純すぎると感じるかもしれませんが、指標をふたつに限定することで、分析や比較を行ないやすくなるのです。

モデル図

使う線の数を増やしてみましょう。以下の図は、営業担当の業務を表したものです。営業に必要な能力を、交渉力・説明力・知識・資料作成力・パソコンスキルの5つと仮定し、それぞれを頂点とした五角形のなかに各業務を配置しました。

営業担当の業務を五角形で表した図

多種多様な業務で構成される仕事も、このようなモデルに落とし込めばシンプルに表現できますね。5つの能力のうち「交渉力」を最も重視するなら、以下のようなピラミッド型にする方法もあります。

営業担当の業務をピラミッド型に分類した図

矢印図

「ロジック図解コンサルタント」の開米瑞浩氏は、キーワードを矢印でつなぐシンプルなやり方を紹介しています。

営業担当に必要な能力の関係を表した図

上の図は、営業に必要な5つの能力の関係を表したものです。

  • 知識が増えれば、商談や会議での説明がうまくなる
  • 説明力が高まれば、交渉力も高まる
  • 資料をうまく作成できれば、交渉と説明が成功しやすい

……という情報を、わかりやすく図解できているのではないでしょうか。図解の手段はほかにも多くあるので、情報の種類や目的に応じて使い分けてください。

「πの字」で考える

抽象的・具体的思考を行き来するには、前出の村山氏が提唱する「πの字思考プロセス」を意識しましょう。「抽象→具体」の流れに沿って考えをまとめることができます。

具体的思考と抽象的思考を行き来するパイの字思考

上の図は、営業の業務という「具体物」を抽象的に分析したうえで、今後どうするべきかという「具体策」に落とし込んだものです。この流れに沿えば、「具体→抽象→具体」の思考プロセスを1枚の紙にまとめられます。白紙のシートを使い、みなさんも実践してみてください。

具体と抽象を行き来するためのパイの字ワークシート

◆πの字思考のやり方

  1. 分析したい情報を左下の欄に書く
  2. 各情報の共通点や法則を探し、左上の欄に書く
  3. 見いだした共通点・法則を右上の欄で整理する
  4. 共通点・法則を具体的な行動・アイデアに落とし込み、右下の欄に書く
  • 情報を分析し、判断したい!
  • 経験や知識を整理し、学びを得たい!
  • 過去の事例をヒントに、アイデアを生み出したい!

そんなときは、ご紹介したフレームワークを活用することで、抽象と具体を行き来しながら考えられますよ。

***
抽象的思考と具体的思考を使いこなしたいなら、「Why・What・Howの自問」「図解」「πの字思考」をぜひ実践してみてくださいね。

(参考)

(コンセプチュアル思考の教室|講義1.3 抽象と具体
INSIGHT NOW!プロフェッショナル|コンセプチュアル思考〈第1回〉 「知・情・意」3つの思考
谷川祐基(2019),『賢さをつくる 頭はよくなる。よくなりたければ。』, CCCメディアハウス.
細谷功(2020), 『「具体⇔抽象」トレーニング 思考力が飛躍的にアップする29問』, PHP研究所.
平井孝志(2020),『武器としての図で考える習慣 「抽象化思考」のレッスン』, 東洋経済新報社.
THE21オンライン|たった2本の線を引くだけで、複雑な問題を簡単にする方法
GLOBIS 知見録|「モデル化」して考えるとはどういうことか?
日立ソリューションズ|第2回 箇条書きは図解しろ
コンセプチュアル思考の教室|講義1.2 「π(パイ)の字思考プロセス」抽象化→概念化→具体化

【ライタープロフィール】
佐藤舜

大学で哲学を専攻し、人文科学系の読書経験が豊富。特に心理学や脳科学分野での執筆を得意としており、200本以上の執筆実績をもつ。幅広いリサーチ経験から記憶術・文章術のノウハウを獲得。「読者の知的好奇心を刺激できるライター」をモットーに、教養を広げるよう努めている。

会社案内・運営事業

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    「STUDY SMART」をコンセプトに、学びをもっと合理的でクールなものにできるよう活動する教育ベンチャー。当サイトをはじめ、英語のパーソナルトレーニング「ENGLISH COMPANY」や、英語の自習型コーチングサービス「STRAIL」を運営。
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