勉強に苦手意識があり、なかなかやる気になれない……そんな方は少なくないでしょう。子どものときからずっと勉強が嫌いだった、勉強のやり方がいまでもよくわからない、という人もいるかもしれませんね。
しかし、勉強への苦手意識を克服できれば、自分から進んで勉強したくなり、学習効率が大きく向上するはず。今回は、勉強への苦手意識が強い社会人や学生に向けて、5つの勉強法をご紹介しましょう。
勉強が苦手だと感じる理由
勉強に苦手意識を抱いている理由は、いくつか考えられます。ここでは、大きく4つに分類しました。
内容を理解できないから
あなたが勉強を苦手だと感じている理由は、シンプルに、「勉強しても内容を理解できないから」かもしれません。参考書の内容が頭に入ってこない、いくら考えても問題を解けないなど、思うように勉強が進まなければ嫌気がさすのも自然です。
そんなときは、「なんて頭が悪いんだ」と自分を責めたくなってしまうかもしれません。けれど、学習環境を客観的に見直すことで解決できる場合もあります。勉強のやり方が非効率的だったり、選んだ参考書が自分に合わなかったりしただけかもしれません。
内容に興味をもてないから
勉強に苦手意識を覚えているのは、取り組んでいる内容に興味をもてないからかもしれません。仕事や進学などの手段として仕方なく勉強しているなら、勉強を単なる義務にしか感じられず、苦痛になり、結果として苦手意識につながったのではないでしょうか。
「イヤだなあ」と思いながら勉強するか、楽しみや喜びを見いだしつつ勉強するかによって、成長スピードに大きな差が生じます。どうせ勉強するのなら、内容に興味をもとう、楽しもう、と前向きに気持ちを切り替えたほうが得策です。
目的が明確でないから
勉強を苦手だと感じるのは、勉強する目的を自覚できていないからかもしれません。なんのために学ぶかという目的意識が曖昧だと、やがて意欲を失い、勉強がただの苦痛な作業と化してしまうでしょう。
「燃え尽き症候群」という言葉がありますよね。受験のため一生懸命勉強し、志望校合格を勝ち取ったのに、入学後はまったく勉強しなくなった……という話はよく聞かれます。「志望校合格」という目標を達成したあと、次の目標を見つけられないため、勉強する意欲をなくしてしまうのです。
勉強を嫌いにならずにモチベーションを保ち続けるには、「TOEICで800点とりたい」「簿記2級に合格する」のように、明確な目標を決めておきましょう。「その目標を達成したら、どんないいことがあるか」と、目標を達成したあとの未来まで想像すれば、勉強する理由を見失いにくくなります。
やり方がわからないから
勉強に苦手意識をもっているのは、「勉強のやり方」がわからないからかもしれません。「理解する方法」や「記憶する方法」をよく知らないため、「勉強する」といっても具体的に何をするべきかわからない状態です。
しかし、いったん正しい勉強方法を知れば、何をやるべきかが明確になるでしょう。学習した内容を効率的に身につけられれば、勉強への苦手意識を克服できるはずです。
勉強への苦手意識を克服する方法
では、勉強への苦手意識を克服するにはどうすればいいのでしょうか? 具体的な5つの方法をご紹介しましょう。
正しい勉強法を身につける
まずは、正しい勉強方法を身につけることが大切です。勉強のコツやテクニックは無数にありますが、ここでは「学びのサイクル」という大原則をご紹介しましょう。グロービス経営大学院経営研究科長の田久保善彦氏が提唱するもので、以下に挙げる5つのステップから成り立っています。
1. 学ぶ対象を決める
最初に、自分が学ぶ対象・分野を選択しましょう。受験する資格を決めたり、学習計画を立てたりします。
2. インプットする
何を学ぶか決まったら、参考書などを使って情報をインプットします。テキストに書き込む、ノートにまとめるなど、自分にとってやりやすい方法で覚えていきましょう。
3. 振り返る
インプットした知識はそのままにせず、必ず振り返りを行ないます。たとえば、参考書1ページぶんの内容を覚えたら、最初に戻って見直す……という具合に、定期的に立ち止まって、知識を整理しましょう。
4. アウトプットする
インプット・振り返りによって覚えた知識は、小テストや問題集を使ってアウトプットしましょう。記憶を思い出すプロセスを経ることで、学習した内容が定着するのです。
5. フィードバックを受ける
最後は、アウトプットした結果についてフィードバックを受けましょう。採点したりコメントをつけたりしてくれる先生がいればベストです。
独学の場合、答え合わせのあとに解説を読み込んだり、参考書を読み返したりして、自分でフィードバックを行ないます。うまくアウトプットできなかった箇所は、インプット~フィードバックのプロセスを繰り返して理解し直し、記憶に定着させましょう。
1~5のサイクルを回していくうち、学習内容が着実に定着していくのを実感できるはず。なかなか勉強の成果が現れずお悩みの方は、ぜひ試してみてください。
興味をもつ努力をする
勉強への苦手意識を克服する2つめの方法は、勉強する内容に興味をもとうとすること。
何事も、楽しめるようになるまでは、ある程度の時間と忍耐が必要です。サッカーを観戦する場合、サッカーのルールや各選手の個性などを知らなければ楽しみは半減してしまうでしょう。テレビゲームの場合も、遊ぶにはコントローラーの複雑な操作を覚える必要があります。
勉強も同じです。始めたばかりの人にとって、参考書に書かれていることは難解かもしれません。けれど、勉強を続けるうちにだんだんわかるようになり、理解度と比例しておもしろさも高まっていくはず。
なかなか勉強のおもしろさをつかめない場合は、以下の方法を試してみてください。
詳しい人に話を聞く
「おもしろさ」をつかむ最も手っ取り早い方法は、自分よりも詳しい人から話を聞くこと。サッカーの例で言うと、おもしろさや見どころ、応援しているチームの魅力などを友だちから説明してもらえば、興味がかき立てられるはずです。
勉強についても、自分より詳しい友だちや同僚などに、「どこがおもしろいの?」「一番大事なポイントは?」「仕事にどう役立つ?」など、疑問を率直にぶつけてみましょう。テキストを読むのとは違い、自分が気になっている点をズバリ聞けるので、退屈にはならないはず。
初心者向けの教材を使う
いま使っている参考書を退屈に感じるなら、やさしくかみ砕いて説明された初心者向けの本やマンガ、動画などを探してみましょう。簡単でわかりやすいうえ、読者を楽しませるような「こぼれ話」やコラムが充実していることが多いので、好奇心を刺激してくれるはず。
特におすすめなのは、YouTubeなどで見られる動画コンテンツです。知りたいテーマやキーワードをYouTubeで検索すれば、たいていはなんらかの解説動画がヒットするはず。情報の正確さには注意する必要がありますが、勉強の導入に使うぶんには便利でしょう。
インターネットで検索する
スマートフォンやパソコンのブラウザを立ち上げ、インターネットで検索するのもおすすめです。自分が知りたいことだけを手っ取り早く調べられ、さまざまな切り口の記事が読めるため、参考書をつまらなく感じる人にはぴったりです。ただし、すべての情報が信頼できるとは限らないので、利用の際は十分注意してください。
勉強をゲーム化する
勉強への苦手意識を克服するには、「ゲーミフィケーション」も有効です。ゲーミフィケーションとは、勉強や仕事にゲームの要素を取り入れ、楽しめるようにすること。脳科学者の茂木健一郎氏は、ゲーミフィケーションのポイントとして以下の4点を挙げています。
ルールを設定する
人間の脳は、「勝った」と感じたとき、報酬ホルモン・ドーパミンの働きによって快感を得るのだそう。勉強をゲーム化するなら、「勝った」と思えるよう、「30分以内に終わったら勝ち」「過去問で80点以上とれたら勝ち」のようなルールを設定しましょう。
茂木氏は特に、時間制限の設定をすすめています。時間制限があると、プレッシャーによって脳の働きが高まり、短時間で効率的に勉強を進められるのだそう。制限時間以内に所定の勉強を終わらせることをゲームのように楽しめるだけでなく、ダラダラ勉強してしまうことを防ぐのも可能です。
クリアギリギリの難易度にする
上述のルールを設定するときは、簡単すぎず難しすぎない、ギリギリクリアできるかできないか程度の難易度にしましょう。茂木氏が挙げる具体的な目安は「8勝7敗」です。
たとえば、「10分で10個単語を覚える」のが簡単すぎるなら「10分で15個」にする……というように調整しつつ、自分にとって適切なルールを探りましょう。
ごほうびを決める
ゲームの楽しさを倍増させてくれるのが「ごほうび」の存在です。テレビゲームでは、課題をクリアすることで「経験値」や「アイテム」がもらえますが、勉強の場合は好物や娯楽をごほうびに設定するといいでしょう。
◆ごほうびの例
- 英単語のテストで10点以上とれら、好物のシュークリームを食べる
- 過去問で80点以上とったら、好きなドラマを1話ぶん観る
- 午前中に50問解き終わったら、好きなゲームを30分やっていい
結果を記録する
勉強の成果や、課題をクリアできたかどうかは、ノートなどに記録しましょう。その日の勉強を終えて記録を振り返るとき、「今日は頑張ったな」という充実感や、「今日は “負け” が多かったな」という悔しさを味わえ、翌日以降のモチベーションにつながります。
ひとつのことを徹底的に勉強する
子どもの探究心を刺激する教室「探求学舎」代表の宝槻泰伸氏による『勉強嫌いほどハマる勉強法』(PHP研究所、2015年)では、「ひとつのことを徹底的に」勉強することの大切さが説かれています。子どもの学びをテーマにした本ではありますが、大人にも応用できる考え方です。
多くの方は「毎日1時間、○○をやる」などち計画を立て、コツコツ勉強を進めているかと思います。もちろん、勉強計画を立てるのはすばらしいことですし、時間制限やノルマがモチベーションにつながるのは、先述したとおりです。しかし一方で、勉強が単なる “タスク” のように感じられ、かえって苦手意識につながってしまうかもしれません。
勉強そのものの醍醐味を知るため、ときには「ひとつのことを徹底的に」やる経験も必要です。「今日一日で民法の単元を究めよう」「今日は一日かけて、英字新聞を和訳してみよう」など、何かひとつを深く学ぶ経験をすると、知識がつながっていく快感や、物事を理解していく感覚が得られやすいのです。
また、宝槻氏によれば、ひとつのことに集中的に取り組むと「フロー状態」に入りやすくなるのだそう。フローとは、心理学者のミハイ・チクセントミハイ氏が提唱した概念で、時間を忘れて物事に没頭しているような状態です。「一日中読書に没頭し、気づけば日が落ちていた」「徹夜でゲームに熱中した」などが、フロー体験の例として挙げられます。
チクセントミハイ氏によると、フローに入る条件のひとつは、少しだけ難しいことへのチャレンジ。「今日一日で○○を究めよう」「今日は徹底的に××について調べよう」のように、チャレンジングでワクワクする目標をもつと、勉強に没頭しやすい心理状態が生まれるのです。
モチベーション・スタイルを把握する
苦手意識を克服し、勉強へのやる気を起こすには、産業カウンセラー・中越裕史氏がすすめる「モチベーション・スタイル」を探すことも有効です。モチベーション・スタイルとは、どんなときにモチベーションが上がりやすいかという傾向のこと。
ほめられるとやる気になる人、勝負になると燃える人、人の役に立ちたいという気持ちがモチベーションになる人など、スタイルは十人十色でしょう。自分のモチベーション・スタイルを把握しておくと、やる気を意図的に高めやすくなり、苦手な勉強にも取りかかれるはずです。
自分のモチベーション・スタイルを知る方法は、いたってシンプル。「これまで、どんなときにやる気が生まれたか」と振り返り、書き出していくだけです。たとえば、学生時代に「定期テストで1番をとるため必死で勉強した」という経験があるなら、「自分は、競争にやる気を感じるタイプなんだ」と仮説を立てられます。
◆経験からモチベーション・スタイルを推測する例
- 学生時代、定期テストで1番になるために必死で勉強した
→「人との競争」がモチベーションになる - テストでいい点をとり、先生にほめられるのが嬉しかった
→「人にほめられること」がモチベーションになる - 自分で企画した業務には、いつも以上にやる気になった
→「主体的に計画を立てること」がモチベーションになる
自分のモチベーション・スタイルを把握して、やる気が燃え上がる “ツボ” を押し、勉強への苦手意識を払拭してみてはいかがでしょうか。
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自分から積極的に勉強できるようになる第一歩は、勉強への苦手意識を取り除くこと。本記事で紹介した5つの方法を、勉強に親しむキッカケのひとつとして、試してみてください。
【ライタープロフィール】
佐藤舜
大学で哲学を専攻し、人文科学系の読書経験が豊富。特に心理学や脳科学分野での執筆を得意としており、200本以上の執筆実績をもつ。幅広いリサーチ経験から記憶術・文章術のノウハウを獲得。「読者の知的好奇心を刺激できるライター」をモットーに、教養を広げるよう努めている。
(参考)
谷川祐基(2018),『賢者の勉強技術』, CCCメディアハウス.
GLOBIS 知見録|ビジネスパーソンが知っておきたい「学びのサイクル」
吉田尚記(2020),『あなたの不安を解消する方法がここに書いてあります。』, 河出書房新社.
茂木健一郎(2017),『IQも才能もぶっとばせ!やり抜く脳の鍛え方』, 学研プラス.
宝槻泰伸(2015),『勉強嫌いほどハマる勉強法』, PHP研究所.
TED|ミハイ・チクセントミハイ:フローについて
中越裕史(2015),『「やる気」が出る心理学』, PHP研究所.