日頃から、いまいち頭の中がすっきりせず、仕事や勉強でなかなか成果が出せない……。そうお悩みの方はいませんか?
昨今は、さまざまな脳のリフレッシュ法が紹介されていますが、もしかしたら「何もしないこと」が最良の手段かもしれません。
今回は、作家・プロデューサーの寺井広樹(てらい・ひろき)氏にお話を伺い、氏が提唱する「ブレイン・スランバー」の有効性を語っていただきました。
涙活が発端で気がついた「何もしないことの重要性」
私は、感動的な映像や音楽を見聞きして、人々が涙を流すことを目的とする「涙活」というイベントを数年前から主催しています。
東邦大学医学部名誉教授の有田秀穂先生によると、感動して涙を流すという行為には、心の安静をつかさどる副交感神経が活発化する効果があるそうです。
副交感神経は、「リラックスしているとき」「眠っているとき」に働きます。有田先生の研究によれば、涙を流すことで、緊張や興奮を促す交感神経から、脳をリラックスさせる副交感神経にスイッチが切り替わるそうです。1粒涙を流しただけで、ストレス解消効果が1週間続くと言われています(『“1粒の涙” のストレス解消効果は1週間続く!? 慌ただしい大人こそ積極的に涙を流すべきワケ。』参照)
私が主宰する「涙活」のイベントの参加者で最近増えてきたのは、男性のビジネスパーソン。忙しい彼らには、リラックスのために “ぼーっと過ごす時間” が必要ではないかと、私は思ったのです。そこで、さまざまな書籍や文献を調べるなか、行き着いたのが、ワシントン大学のM・E・レイクル教授が提唱した「デフォルト・モード・ネットワーク」という理論でした。
これによると、脳が消費するエネルギーのうち、本を読んだり仕事をしたりといった「意識的活動」に使われるエネルギーは、全体のわずか5%程度。約20%のエネルギーは脳細胞のメンテナンスにあてられ、残り75%のエネルギーが「何もせずにぼんやりしているときの活動」のために使われているそうです。
レイクル教授いわく、何もせずにぼんやりするのは、いわば自動車のアイドリング(準備走行)のようなもの。これから起こる出来事に備えるため、さまざまな脳の領域の活動を統括することがその役割だと考えられています。
その理論をもとに、あえて何もしないことで、意図的に脳をアイドリングさせれば、淀んでいる脳内をすっきりさせられるのではないかと、私は考えたのです。
何もしないことで得られる効果とは?
レイクル教授の研究により、何もしない状態でいるときは、感情を抑制する後部帯状回と、認知機能や運動機能をつかさどる前頭葉内側が活性化することが判明しました。アルツハイマー病の治療にも効果があると言われています。
私は、あえて何もしない活動を「ブレイン・スランバー」(脳のまどろみ)と名づけました。現在では、「呆活」(ぼうかつ)という、“意図的にぼーっとする” ブレイン・スランバーを実践してもらうイベントを、涙活と併用して行なっています。
実際に、呆活の参加者からは、「焦りの感情が湧かなくなった」「仕事のときの集中力がアップした」「新しいアイデアが思いつきやすくなった」といった報告が寄せられています。これは、ブレイン・スランバーにより脳が冴えわたった結果でしょう。
ブレイン・スランバーの正しい行い方とは?
それでは、ブレイン・スランバーの正しい方法をお伝えしましょう。
ブレイン・スランバーのやり方は、何も考えずに一点を見つめるだけ。一般的な瞑想術とは違い、「目をつむる」「特定のポーズをとる」といったルールは存在しません。椅子やソファに座っていればよいでしょう。
ただ、睡眠状態になってしまうのはNGです。あくまでも何も考えていない状態で、目を開けているのが大切なのです。
これが意外と難しく、自然と頭の中に考えが浮かんでしまったり、一点を見つめているうちに眠ってしまったりすることがあります。そもそも、何も考えないというのは、瞑想や座禅といった僧侶の修行にも取り入れられていることなので、難しいのは当然とも言えます。
ぼーっとした状態になるコツは、人が多く行き交う大通りの風景や、海などの自然環境を見ることです。自宅や室内で呆活を行うときは、インターネットの動画サイトにアップされた大通りや自然風景を利用してはいかがでしょうか。
また、部屋の照明を落としたりアロマをたいたりして、意図的にリラックスしやすい環境を作ると、頭の中に考えが浮かびづらくなりますよ。
ブレイン・スランバーを続けていくうちに、5〜10分間、完全に意識を無にすることができるようになります。意識が無になっている間は、口が半開きになり、よだれが垂れてくるなど、「ひどい顔になっている」ことがありますが……むしろ、そのくらいの状態になるのが最適です。
現在、私は涙活イベントを行なったあとに呆活イベントを行なう機会が増えています。前述したように、感動したときに涙を流すと、ストレスや悩みを打ち消す効果があるのです。涙活で脳内の余計なものを洗い流したあとに、ブレイン・スランバーで脳を活性化させれば、効果は倍増です。
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寺井氏によると、ブレイン・スランバーは、数十秒間行なうだけでも効果が見込めるそう。
普段、頭の中がどうも冴えないという方は、通勤・通学時の電車やバスに乗っているとき、あるいは会社や学校の休憩時間に、意図的に「無になる時間」を設けてはいかがでしょうか。何もしないことで、脳をリフレッシュさせましょう!
【プロフィール】
寺井広樹
文筆家。「涙活」の発案者。1980年、神戸市生まれ。2013年1月から「涙活」をスタート。感涙映画や音楽、朗読劇とのコラボレーションを積極的に行う。また、「離婚式」の発案者としても広く知られ、現在までに約600組の式に携わる。『人生の大切なことに気づく 奇跡の物語』(かんき出版)、『ナミダロイド』(辰巳出版) 、『涙活公式ガイドブック』(ディスカヴァー・トゥエンティーワン) など著書多数。
【ライタープロフィール】
亀谷哲弘
大学卒業後、一般企業に就職するも執筆業に携わりたいという夢を捨てきれず、ライター養成所で学ぶ。養成所卒業後にライター活動を開始し、スポーツ、エンタメ、政治に関する書籍を刊行。今後は書籍執筆で学んだスキルをWEBで活用することを目標としている。