シドニー大学のニック・エンフィールド教授の研究によると、人は日常で90秒に1回は何らかの頼み事をしているのだそう。確かに「ペンを貸して」「ちょっと後ろを通らせて」といった簡単な頼み事は、無意識のうちにしてしまっていますよね。

一方、食品メーカーのネスレ日本株式会社が実施した『「日常の感謝行為」に関するアンケート調査』によれば、日本人が1日に「ありがとう」を言う平均回数は7.5回とのこと。頼み事の頻度と比較してみると、意外と多くないことに気づきます。

ちなみに同調査によると、男性の上の世代ほど「ありがとう」を言う回数が少ないのだそう。50代男性が「ありがとう」を言う平均回数は、なんと10代男性の半分ほどしかないのだとか。「今さら言う必要がない」「やってもらって当然」と、心のどこかで考えているのかもしれません。

しかし「ありがとう」を言えないという悪習慣は、出世や仕事力アップを阻む大きな要因にさえなり得ます。その5つの理由を説明していきましょう。

「ありがとう」を言えない人は、信用・信頼を得られない

「ありがとう」と言われて嫌な気がする人はいないでしょう。それもそのはず、人から感謝されると、幸福感が高まるホルモン「オキシトシン」が放出されるのです。オキシトシンは別名「信頼ホルモン」とも呼ばれており、感謝の気持ちを伝えることは、相手に信頼感を与えることにもつながります。

仕事を成し遂げるうえで、お互いへの信用や信頼が欠かせないことは、ビジネスパーソンならば誰もが痛感しているはず。信頼されているから部下がついてくる、人望があるから大きな仕事を任せられる……。そして、大きな仕事を成功させることが、出世へとつながっていきます。信用や信頼を得ることは、ビジネスで成功するための第一歩と言っても過言ではないでしょう。

一方で「ありがとう」を言えない人は、職場で信頼が得られず、年齢を重ねても一皮むけない状態が続くこととなります。「情けは人の為ならず」という言葉がありますが、「ありがとう」と言うことも、まわりまわって自分のためになると心得ましょう。

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「ありがとう」を言えない人は、周囲のモチベーションを上げるのが下手

感謝の気持ちを伝えてくれる上司と伝えない上司、どちらの下で働きたいと思いますか? きっと多くの人が前者を選ぶことでしょう。

感謝の気持ちを伝えることは、相手のモチベーション維持や生産性のアップにもつながります。大きな仕事ほどたくさんの人の支えが必要になるので、「この人のために頑張りたい」と思わせる上司は出世します。一方で「ありがとう」を言えない人は、総じて一緒に働くメンバーのモチベーションを上げることが上手ではありません

元アメリカ合衆国国務長官のコリン・パウエル氏は、政治家として活躍していた当時、執務室の清掃員にも欠かさず感謝の気持ちを伝えたのだそう。自分が仕事を全うするうえで、彼らの働きも必要不可欠だと理解していたからです。コリン・パウエル氏の次の言葉は、人間の真理を的確に表しています。

組織に属する人は一人ひとりに価値があり、その価値を認められたいと思っている──それだけのことだ。人間というのは、承認と励ましを必要とする。

(引用元:プレジデント・オンライン|「ありがとう」と言わない人は”必ず失う”

あなたが属する組織も、上司や幹部だけでなく、同僚や部下あってのもの。さらに、快適なオフィスで働けるのは、清掃員や警備員といった方々の力があってこそです。その事実を絶対に忘れてはいけないのです。

「ありがとう」を言えない人は、敵を作りやすい

仕事はできるのに出世できない人はたくさんいます。なかには、すぐに人間関係のトラブルを起こし、職場を転々をしている人もいることでしょう。ビジネスで成功しようと思ったら、敵を作らないという能力も必要です。

では、仕事で敵を作らないためにはどうすればいいのか? そのための魔法の言葉が「ありがとう」です

ビジネスシーンでは、意見の衝突は避けられません。しかし、意見の衝突後にどのような対応をするかによって、今後のあなたの立場が変わってきます。無理やり相手を言いくるめたり、陰口を叩いたりしているようでは、出世は遠のくでしょう。プレゼンや話し方に関する著書を複数手がけている、グローバリンク代表取締役の大串亜由美氏は次のように言います。

会話で衝突したとしても、結びの印象は良くするように心掛けて。「内容に納得できなくても、『お時間をいただきありがとうございました』『ご意見をありがとうございました』など、内容以外の部分に感謝しましょう」。

(引用元:NIKKEI STYLE|話が「伝わる人」と「伝わらない人」、7つの違い

結果的に意見の衝突が起こったとき、そもそもなぜ意見を交わす場を持ったのか、意見を交わすことでどんな仕事の成果を出したいのか、という話の本質を忘れないことが大切です。

「ありがとう」を言えない人は、いざというときにフォローが得られない

仕事で全く失敗しない人はいないはずです。「会議に間に合わないから10分ほど待ってほしい」「郵便物を出すのを忘れたから、外出ついでに出してきてほしい」など、些細なフォローは当たり前のように行われています。こうしたビジネスシーンでの失敗のフォローは「お互いさま」です。だからこそ、感謝の気持ちを伝えなくても、ある程度は仕事だからと割り切ってしてくれるでしょう。

しかし、やってもらって当たり前という態度でいる人より、「ありがとう」と言ってくれる人のほうが好印象なのは想像に難くありません。些細な失敗だとしても、フォローしてもらったらきちんと感謝の気持ちを伝えることは大切です。ビジネス作家の臼井由妃氏は、次のように言います。

落ち込んでいる人や意欲をなくしている人をフォローするのは、相手にとって負担になるはずです。それでも助けてもらえたのですから、それに添う感謝を示しましょう。

(引用元:NIKKEI STYLE|知っておきたい大人の感謝表現 味方を増やす言葉

フォローしてくれた人は、あなたのために時間を割いて、予定以上の仕事をこなしてくれたことを忘れてはいけません。そんな人に対して「ありがとう」さえ言えないと、最悪の場合、社内での居心地が悪くなったり、本当に困ったときにフォローしてもらえなくなったりするおそれがあります。フォローしてもらって当たり前と思わず、丁寧な言葉で感謝の気持ちを伝えるべきなのです。

「ありがとう」を言えない人は、優秀な人材を流出させてしまう

優秀な人材は引く手あまたなので、居心地が悪い会社だと思うとすぐに見切りをつけて辞め、新天地を探します。日本経済新聞社の「企業に最も評価されるコンサルタント会社ベスト20」に選ばれた酒井光雄氏によると、感謝の気持ちを伝えられない上司の下では、優秀な人材が次々に流出するおそれがあるのだそうです。酒井氏は次のように分析します。

有能な部下を辞めさせてしまう上司や管理職は、部下とは仕事のことしか会話をせず、相互に個人的な情報交換を行っていないことが多い。自分の評価に直結する仕事の進捗や成果だけに関心を持つために、部下の生活環境や問題などに目を向けることがない。

(引用元:プレジデント・オンライン|優秀な人が会社を去っていく、7つの理由

優秀な人材ほど仕事が集中し、負担が大きくなる傾向にあります。それにもかかわらず、相手の立場を顧みることなく「ありがとう」の一言ももらえなければ、転職してより良い環境で働こうという気持ちになっても無理はありません

あなたの部下になった優秀な人材がみんな辞めてしまうとなれば、あなた自身の評価にも影響を及ぼすでしょう。優秀な人材の流出を防ぐには、仕事に対して正当な評価をすること、仕事以外のコミュニケーションも重視することが求められます。そのときに忘れてはいけないのが「ありがとう」という言葉なのです。

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ビジネスシーンを振り返ると、感謝の気持ちを伝える場面は数多く存在します。そして「ありがとう」のたった一言が、あなたの立場や周囲の環境をより良いものにする可能性があります。照れくさいなどと思わず、ぜひ感謝の気持ちを伝える習慣を身につけましょう。

文 / かのえかな

(参考)
東洋経済オンライン|人は思っているほど「ありがとう」と言わない
Nestle|日本人の「ありがとう」を徹底解剖! キットカット 調査リリース
StudyHacker|「なぜか信用されない人」の意外な共通点。“あの5文字” を言えないのが最悪原因だった。
プレジデント・オンライン|「ありがとう」と言わない人は”必ず失う”
NIKKEI STYLE|話が「伝わる人」と「伝わらない人」、7つの違い
NIKKEI STYLE|知っておきたい大人の感謝表現 味方を増やす言葉
プレジデント・オンライン|優秀な人が会社を去っていく、7つの理由