「ヨガ」が脳に効く科学的根拠。ワーキングメモリも認知力も鍛えられる。

心身運動(マインドボディエクササイズ)は、身体的な刺激だけではなく、精神的な要素を含むヨガや太極拳などを指します。「心や体によさそう」というイメージは多くの人が持っていると思いますが、心身運動に関する最近・近年の研究やレビュー、専門家の著書などを参照すると、もはやそのレベルだけにとどまりません。

100歳まで生きることが当然とされる時代を迎えつつある日本で、ビジネスパーソンが存分に成果を出し続けるためには、日常に「心身運動」が必要であるという仮定を裏づけるべく、さまざまな研究・調査等を紹介します。

「心身運動」パワー1:遺伝子レベルまで影響

免疫学分野のオープンアクセス・ジャーナル『Frontiers in Immunology』に2017年6月16日に掲載された論文によると、マインドフルネスや瞑想、ヨガ、太極拳、気功、リラクゼーション反応法(ストレス度を下げる反応を促す行動)といった心身運動は、遺伝子のレベルにまで影響を及ぼしているそうです。

メタ分析(過去の研究データを収集・解析し結果をまとめる)によって行われたこの研究では、先に述べた心身運動いずれも、ストレスや炎症に関連が深いとされる遺伝子の発現に影響していたそう。

特に、ストレスと炎症に関与する物質(NF-κB)が減少していた、つまり、炎症反応が抑制されていたことが、複数の結果において示されていたとのこと。

この研究結果はまだ完全ではないようですが、どの運動においても炎症を抑制する効果があると確認された点は、とても興味深いと『The Doctor Will See You Now』の編集者、Alice G. Walton 氏は述べています。

(参考:Forbes JAPAN(フォーブス ジャパン)|ヨガ・瞑想の抗ストレス効果、遺伝子レベルで確認

「心身運動」パワー2:認知機能を改善(メタ分析)

広州中国医学大学などの研究者らはメタ分析により、太極拳やダンスの心身運動が、包括的な認知力、認知の柔軟性、ワーキングメモリ、言語の流暢さを高めるにあたり有益だと結論づけました。また、認知障害がある・なしかかわらず、高齢者の学習にも役立つそう。

この調査結果は、関連するすべての発表済み研究のメタ分析から得られたものとのこと。3,624人の成人を対象とした、32件のランダム化比較試験も含むそう。ランダム化比較試験(RCT)のメタ分析(メタアナリシス)は、もっとも質の高い根拠とされています。この研究が、より確かなものであることは言うまでもありません。

以前より、臨床観察および専門家のすすめに従い、心身運動は認知能力によい影響を与えるとされていましたが、潜在的な利点は不確実であり、体系的な推定を欠いていたため、この研究が行われたそうです。

結果として、それをしっかりと裏づける、非常に信頼性の高い証拠を示すことができたというわけです(2018年12月18日、『Journal of the American Geriatrics Society (JAGS)』に発表)。

(参考:Wiley News Room – Press Releases, News, Events & Media|Mind-Body Exercises May Improve Cognitive Function as Adults Age / Wiley Online Library | Scientific research articles, journals, books, and reference works|Effects of Mind‐Body Exercises on Cognitive Function in Older Adults: A Meta‐Analysis

「心身運動」パワー3:認知機能を改善(論文レビュー)

川崎市立看護短期大学の西端泉教授も、2018年3月に心身運動に関するレビュー論文を発表しています。

同氏は2016年に、「有酸素性トレーニングにも、レジスタンストレーニングにも、認知症を予防する効果が期待できることが明らかになった」と発表していますが、今度はそれらよりも運動強度が低く、中高齢者が実施することが多いヨガや太極拳に焦点を絞り、論文をレビューしたそう。

方法は、医学中央雑誌とPubMedのデータベースを使用して、特定のキーワードの組み合わせで原著論文を検索するというもの。その結果、精神集中、呼吸制御、および体動を組み合わせた心身運動のヨガや太極拳に、中高齢者の認知機能改善効果が期待できると明らかになったそうです。

ヨガや太極拳がもたらす効果は、有酸素性トレーニングやレジスタンストレーニングと異なっている可能性が高いと、同氏は伝えています。

(参考:西端泉(2018),「ヨガと太極拳は中高齢者の認知機能の改善に期待できる」,川崎市立看護短期大学紀要,23巻,pp.11-23.

「心身運動」パワー4:疲労改善以上の効果

MDアンダーソンの教授 Lorenzo Cohen 博士が、2011年6月の「第47回米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会」で口頭発表したとされる研究は、ヨガを行ったがん患者グループと、一般的なストレッチ運動を生活に取り入れた対照患者グループを比較し、ヨガの効果を評価するというものでした。

その結果、ヨガは放射線療法を受けている女性乳がん患者に、疲労を抑える以上の「特有の効果」をもたらしたそう。

一般的なストレッチ運動でも疲労は改善しますが、心身運動であるヨガにおいては、身体機能の改善、健康状態の改善などが認められたほか、がん経験のなかにうまく意義を発見できる傾向に導いたのだとか。“がん”はあまりにも大変な経験なので、端的にその感情を捉えることはできませんが、ポジティブに傾いた感情だと察することができます。

また、ヨガを行った患者グループは、ストレスホルモンと呼ばれるコルチゾールが一日を通じて大幅に下がっていたそうです。

あくまでもこの研究は、がん患者の方を対象にしたものですが、心身運動と単純なストレッチ運動の効果を比較した、初めての研究であったことは確かなので、示された結果には大いに注目すべきでしょう。

(参考:海外がん医療情報リファレンス|心身運動と単純なストレッチ運動の効果を比較した初めての研究/MDアンダーソンがんセンター

「心身運動」パワー5:科学的に証明された脳の変化

心の知能指数(EQ)をテーマにした数々のベストセラーで知られる、作家兼科学ジャーナリストの Daniel Goleman 氏と、ウィスコンシン大学マディソン校客員研究教授の Richard J. Davidson 氏は、瞑想研究の歴史から最新の成果まで、あますところなく共著『心と体をゆたかにするマインドエクササイズの証明』に記しています。

初期のころ、彼らは瞑想を行う人の心拍や発汗量を調べ、ストレス軽減の証拠を示していましたが、それは十分なものではなかったそう。

しかし、現在は脳波検査やfMRIといった脳イメージング技術が発展したため、瞑想がストレスの軽減や集中力を高める効果を持つという、確固たる証拠を提示できるようになったわけです。

瞑想を行ったグループと、健康的な体操をしたグループを比較したり、瞑想の種類や長さによる脳の変化を測定したりなどして、瞑想を実践すればするほど、脳が変化していくことを科学的に証明しています。

同書の内容は瞑想=「マインドエクササイズ(心の運動)」に特化したもですが、瞑想自体は心身運動に括られることも多いので、ヨガや太極拳にも近い効果が期待できます。

(参考:ダニエル・ゴールマン著,リチャード・J・デビッドソン著,藤田美菜子訳(2018),『心と体をゆたかにするマインドエクササイズの証明』,パンローリング株式会社.)

「心身運動」がビジネスパーソンに必要なワケ

「心身運動」がもたらす大きな効果が、科学的に数多く示されているとわかりました。では、なぜそれがビジネスパーソンに必要かといえば、それは、

・ビジネスパーソンは社会経済を主導的に動かす要因だから ・平均寿命が延び続けているという現実があるから ・AIが進化し続ける未来社会があるから

厚生労働省の『高校生が知っておくべき将来の話』によれば、1980年には1,000人以下だった100歳以上の高齢者は、2012年にはその50倍の5万人を超えたそう。博報堂生活総合研究所は、2100年までに日本の平均寿命が93.9歳に延びると予測しています。

生きるために酸素とブドウ糖を必要とする人間は、その代謝のせいで酸化と糖化という悪い作用から逃れられず、必然的に老化します。

一方AIは、データの質や量、機械学習やプログラミング技術の発展で、どんどん知能が最適になって(若返って)いくでしょう。

しかし、ビジネスパーソンが早いうちからストレス、炎症、疲労改善に効果的で、認知機能の改善に役立ち、認知の柔軟性、ワーキングメモリ、言語の流暢さを高め、脳をどんどん変化させる活動=「心身運動」を取り入れていれば、“近く・遠くの未来”が過去となるとき、もはや大きな不安は抱えていないでしょう。

*** 心身運動や瞑想に関する研究やレビュー、専門家の著書などを紹介し、「心身運動」がビジネスパーソンに必要な理由を説明しました。

ヨガや太極拳はちょっとハードルが高いなぁと感じる場合は、歩きながら呼吸、感覚、体の動きに意識を向ける「歩行瞑想」にチャレンジしてみてくださいね。比較的、簡単に取り入れられるはずです。

(参考) Forbes JAPAN(フォーブス ジャパン)|ヨガ・瞑想の抗ストレス効果、遺伝子レベルで確認 Wiley News Room – Press Releases, News, Events & Media|Mind-Body Exercises May Improve Cognitive Function as Adults Age Wiley Online Library | Effects of Mind‐Body Exercises on Cognitive Function in Older Adults: A Meta‐Analysis 海外がん医療情報リファレンス|心身運動と単純なストレッチ運動の効果を比較した初めての研究/MDアンダーソンがんセンター 厚生労働省|高校生が知っておくべき将来の話1|「100歳まで生きる」が当たり前の時代に? 西端泉(2018),「ヨガと太極拳は中高齢者の認知機能の改善に期待できる」,川崎市立看護短期大学紀要,23巻,pp.11-23. ダニエル・ゴールマン著,リチャード・J・デビッドソン著,藤田美菜子訳(2018),『心と体をゆたかにするマインドエクササイズの証明』,パンローリング株式会社. 牧田善二著(2017),『医者が教える食事術 最強の教科書』,ダイヤモンド社. Study Hacker|不安があるなら、まず歩け! たった10分の『歩行瞑想』で心の不安は取り除かれる。 ひらけ、みらい。生活総研|未来年表 : 索引検索 平均寿命・健康寿命

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