人々はなぜシェアしたがるのか。“感情トリガー” から考える「バズるコンテンツ」のつくりかた。

何万リツイートもされる宣伝や、思わず目を引くPR……。企画を考えたり商品をPRしたりする立場にある人の多くは、そんな「バズる」コンテンツを生み出すべく、日々アイデアを練っていることと思います。

では、魅力的なコンテンツを創造するには、どのようなポイントを押さえればいいのでしょうか。実は、バズるコンテンツには、人々に「シェアしたい」と思わせる「感情トリガー」なるものが必ず盛り込まれているのです。

SNSが広く普及した今日、どれだけシェアされるかということはコンテンツの成功に大きく影響します。今あなたの手元にある企画書やアイデアをさらに面白くするのは、この「感情トリガー」という観点かもしれませんよ。

私たちはなぜ、良いと思ったコンテンツを「シェア」するのか

まずは、シェアという行為の意味を心理学的な観点から考えてみましょう。私たちがコンテンツをシェアするのには、大きく分けて次の2つの理由があります。

1. 感情を共有するため

私たちは、コンテンツの中身だけではなく、そのときに感じた気持ちを共有するためにシェア機能を使います。株式会社電通パブリックリレーションズのPRプランナーである根本陽平さんは次のように述べています。

シェアしたいと思ったとき=自分の感情が大きく動かされたときではないでしょうか。シェアとは、その情報によってもたらされた自身の感情を、誰かと共有したいという衝動によって生まれるものだと思うのです。

(引用元:電通報|思わずシェアしたくなる“感情トリガー”、設計できてる?)太字は編集部にて施した

SNSは、学生時代の友人や会社の同僚のように、自分自身と似た境遇・価値観を持つ人とつながっていることが多い場所。SNSで自分のお気に入りのコンテンツをシェアするということは、「感情を共有したい」という欲求を満たすのに最適な行為だと言えるのです。

2. 自分自身を表現するため

国際広告会社マッキャンエリクソンのメディア部門であるUMが行なった調査によると、シェアという行為は単なる情報伝達ではなくて自己表現の手段としても機能しているのだそう。つまり、「その情報をシェアすることで形成される自分のイメージ」が自分自身の目指すイメージと一致したとき、私たちはシェアしたいと感じるということです。

女性向けのSNS映えするイベントやPR事業などを手掛けるMorning LaboでCEOを務める中村 朝紗子さんは、自己表現とシェアの関係について次のように述べています。

一つ一つの投稿が、「わたし」を物語るわけですから、見せたいわたしに近いコンテンツをつくらないと、なかなかシェアはしてもらえません

(引用元:電通報|「インスタ映え」はこれからどうなる?~キーワードは「シェアの細分化」と「コミュニティー」)太字は編集部にて施した

このように、シェア機能を通じて共有されるものはコンテンツの中身だけではありません。シェアされるコンテンツを作りたければ、そのコンテンツを見た人がどういった気持ちになるのか、それをシェアすることはどういった自己表現の意味を持つのかということも検討する必要があるのです。「奇抜なアイデアを思いつければそれで良い」というわけではないのですね。

シェアされるコンテンツが持つ、10の「感情トリガー」

それでは、人々がコンテンツを見てシェアしたいと感じるとき、具体的にどのような感情を抱いているのでしょうか。

根本さんはそれを感情トリガーと名付けました。感情トリガーは以下の10個に分類・整理されます。

1. 感動:感動的なストーリー・困難を乗り越える挑戦 2. 胸熱:青春時代を想起させるシーン・スポーツの大逆転劇 3. 信じられない:衝撃のオチ・神業 4. 爆笑:ハプニング映像・大喜利の画像 5. カッコイイ:スタイリッシュな映像・超絶技巧の演奏 6. カワイイ:ペットの動画・アイドルの写真 7. ヒドイ:不祥事の釈明会見・不適切な行動 8. 啓発:有名人の素敵な行動・健康情報 9. 物議をかもす:人によって見え方が違う写真・立場が分かれる意見 10. セクシー:お色気シーン・思わず見てしまう画像

この中でも、特に「感情を共有したい」という気持ちを起こすトリガーには「感動」「爆笑」「自己表現をしたい」という気持ちを起こすトリガーには「啓発」「物議をかもす」などが該当すると言えます。

根本さんによると、1つのコンテンツにたくさんのトリガーを盛り込むよりも、2・3個の強力なトリガーを盛り込む方がよりシェアしたいコンテンツになるのだそう。また、「感動」「胸熱」「信じられない」などは老若男女を問わず強力にはたらきますが、例えば「啓発」は60代の人に最もはたらきやすいといったように、世代や性別によって特に強くはたらくトリガーは異なります

例として、新発売のボールペンを売り込むため、女子高校生を対象としたイベントを企画することになったとしましょう。このイベントに多くの女子高校生を集めるには、告知をSNS上でたくさんシェアしてもらう必要があります。そこで、女子高校生に強くはたらく感情トリガーを用いて企画案を考えるのです。例えば以下のような企画案が考えられますね。

カワイイ:有名な読者モデルを呼び、コラボキャンペーンを発表する 感動:親や友だちに手書きのメッセージを書く機会を提供するイベントにする 信じられない:SNSで話題の絵描きを呼び、ボールペンとは思えない綺麗な絵をライブペインティングで描いてもらう

このように、「明確なターゲット設定」と「ターゲットにあった感情トリガーの採用」は、魅力的な企画を作る大きな助けになります。皆さんもぜひ心得ておいてください。

感情トリガーの活用例をご紹介

それでは、実際に広くシェアされたコンテンツにはどのような感情トリガーが盛り込まれているのかを見てみましょう。

・日清チキンラーメン「アクマ変化」

日清チキンラーメンのキャラクターでお馴染みのひよこちゃんが劇画調のアクマに変身する衝撃的なCMです。

可愛いイメージのひよこちゃんが豹変するという“信じられない”展開や、そのシュールさが“爆笑”を生み、Twitterでは8万以上ものリツイートを記録しました。

・アイスバケツチャレンジ

「バケツ一杯の氷水を被るか寄付をする」というこの活動は、“ALS(筋萎縮性側索硬化症)の認知向上”を目的としたもの。

知名度の低い病気の“啓発”や奇抜で“信じれらない”行動という様々な要素がかみ合ったこのコンテンツは、ソフトバンクの孫正義社長やノーベル生理学・医学賞を受賞した京都大学の山中伸弥教授をはじめとする、世界中の著名人をも巻き込む一大ムーブメントとなりました。フェイスブックへの投稿やコメントを通じてこの活動に携わった人数は、2,800万人を超えています。

*** 新しいコンテンツを作るとき、ターゲットに合わせて最適な感情トリガーを盛り込むことで、より効果的な宣伝が期待できます。ぜひ参考にしてみてください。

(参考) 根本陽平,伊澤佑美著(2018)『デジタル時代の基礎知識『PR思考』 人やメディアが「伝えたくなる」新しいルール』,翔泳社. AdverTimes|「人は戦略的にコンテンツをシェアしている」シェアと自己表現の関係性を分析——UM最新調査 Extole|Why We Share 電通報|「インスタ映え」はこれからどうなる?~キーワードは「シェアの細分化」と「コミュニティー」 電通報|思わずシェアしたくなる“感情トリガー”、設計できてる? 株式会社イノーバ|人はなぜシェアをするのか?人間心理で紐解く「シェアの動機」 ダイヤモンド・オンライン|ネット上では賛否両論まで飛び出す「ALSアイスバケツチャレンジ」の伝播力 CNET Japan|難病ALSのチャリティ「頭から氷水」はどう広まったか--Facebook分析

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