事業の創出や新商品の開発において、前例を真似すれば結果が出る時代はとうの昔に終わりを告げ、現在では全く新しい発想、斬新なアイデアが求められるようになっています。
そんな昨今、米国シリコンバレー発のイノベーション創出メソッドが多くの分野において導入され、確実な成果を上げているのをご存知でしょうか。導入している日本企業を見ると、日立製作所やブリヂストン、ヤマハ、ヤフー、リコーなどの有名企業がずらり。
そのメソッドの名前は「デザイン思考」。一体これはどのような思考法なのでしょうか? 今回は、今話題のデザイン思考についてご紹介したいと思います。
デザイン思考とは、デザイナーの思考法から生まれた手法
デザイン思考とは、デザインの考え方をビジネスに役立てる思考法のことを言い、次のように定義することができます。
デザイン的プロセスを利用し、クリエイティブなアプローチから、様々なビジネスの問題を解決する手法
(引用元:freshtrax|デザイン思考入門 Part1 – デザイン思考の4つの基本的な考え方)
デザイン思考が注目され始めたのは2000年頃のこと。発端となったのはアメリカシリコンバレーにあるデザインコンサルティング会社IDEO(アイディオ)です。IDEOはある番組の企画で、全く新しいショッピングカートを5日間でデザインしたことがありました。この番組の放送後、IDEOには様々な企業のトップからの問い合わせが相次ぎ、カートをどのようにして生み出したのか、その開発のプロセスに関する質問が寄せられたのだそうです。こうして、IDEOのデザイナーたちがどのように創造性を発揮しているのかについて、焦点が当てられることになりました。
では、デザイナーが行なっている習慣的な行動とはいったい何なのでしょうか。 ロゴデザインを例にとってみます。まずデザイナーはクライアントにヒアリングを行い、クライアントがそのロゴに込めたいポイントを抽出していきます。そして、ロゴに盛り込むべきポイントが確認できたら、真面目な形のものから奇抜な形のものまで、印象の異なるロゴ案を複数提示します。そこで選ばれたもので決定することもあれば、改良を重ねることもあります。複数の試作品を作成して改善点を探り、よりクライアントの希望に沿った形を探求していくのです。
このようなデザイナーの行動パターンを、一般的なアイデア創出の際にも活用するために、デザイン思考が生まれました。
4つのプロセスで確実にイノベーションを生み出す
デザイン思考には大きく分けて4つのプロセスがあるとされています。
(1)ユーザーを詳細に観察し、ユーザーになりきって共感する
まず、想定されるユーザーの行動する様子を詳細に観察します。そして、ユーザーになりきり、日常に潜むニーズに共感するところから始めます。そうすることで、予期せぬニーズと遭遇する可能性が高まり、イノベーションの起きる可能性も高まるのです。
(2)問題の本質を見極める
通常の問題解決プロセスではどう解決するかに重点が置かれますが、デザイン思考においてはその問題自体がそもそも解決すべき問題であるのかどうかを疑います。もっとも解決すべき課題は何かという問いについて、観察と共感を通して得た隠されたニーズへの手がかりをもとに、議論を重ねます。ポイントは、表面的なニーズや課題ではなく、その裏に潜む本質的なニーズや課題に迫ることです。
(3)解決策をブレストする
発見したニーズや課題に対して、解決策を可能な限り多く提案していきます。最良の解決案はすぐには出てきません。質より量を意識して、とにかくたくさんのアイデアを出します。重要なことは「できそうなこと」よりも「できたらいいな」に注目する、ということです。技術的な実現性や経済的な制約は後ほど検討する問題として横に置いておき、できるだけ多面的に発想することが大切です。 (ブレストの具体的な方法については、STUDY HACKERの記事で多数紹介されています。ぜひ参考にしてください)
(4)プロトタイプを作成し、改善を重ねる
数ある解決策の中から、いくつか良さそうなアイデアを選び、改善点を探しながらアイデアをブラッシュアップします。そして、最初に見極めた課題を解決し、さらに新たな価値を与えてくれるような最良の策を選択します。その後は即座にプロトタイプ(その後の改良の土台となる原型)を作成します。この段階では、低コストで手軽に短時間でプロトタイプを作成することが重要。開発に関する議論を深め、新たな改善点を発見し、時にはユーザーとの対話も交えながらアイデアを洗練していく土台として、このプロトタイプを活用していきます。
以上の4つの段階の中で、問題を再定義したり、解決策を選定し直す必要が生じたら躊躇なく前の段階に戻ったりするのも、デザイン思考の特徴です。
Wiiもデザイン思考から生まれた
では、実際にデザイン思考を取り入れ、成功を収めた事例にはどのようなものがあるのでしょうか。事例の一つとして、任天堂の家庭用ゲーム機「Wii」が挙げられます。Wiiの開発過程は極めてデザイン思考的であるとされています。上記の4ステップにしたがってWiiの開発過程を簡潔に振り返ってみます。
(1)ユーザーを詳細に観察し、ユーザーになりきって共感する
社員の家庭を観察した結果、ゲーム機があると子のリビング滞在時間が短いことを発見し、親と子の関係悪化につながっていることを理解するに至った。
(2)問題の本質を見極める
「家族で楽しめ、家族の関係を良くするゲーム機を開発しなくてはならない」という問題を設定した。
(3)解決策をブレストする
ゲーム機のデザインや機能として、「誰にでも受け入れられるデザイン」「家族がみんなで使用できるリモコン型コントローラー」「リビングのちょっとした隙間にも設置できるコンパクトな本体」など様々なアイデアを出した。
(4)プロトタイプを作成、改善を重ねる
幾度もゲーム機の施策と改善に取り組んだ。リモコン型コントローラーのプロトタイプ作成は1000回以上にもおよび、重さや形状、ボタンの数、片手での操作性などの改善を重ねた。
ユーザーの観察から生まれた発想を出発点として、ユーザーに寄り添うような開発プロセスによって生み出されたWiiは多くの人々に受け入れられ、大ヒットとなりました。
*** いかかでしょうか。デザイン思考についての理解は深められたでしょうか。 デザイン思考の要となるのは、ユーザーを観察し共感することにあります。観察や共感なくしては、解決すべき新たな問題は見出すことができず、イノベーティブな開発にも至りません。 何か新たなアイデアを創出したいときは、ユーザーの視点を重視するという姿勢を心がけて、ぜひデザイン思考のプロセスを取り入れてみてください。
(参考) Build Insider|Design Thinking入門(2)0から1を創り出すデザイン思考 ― 新たなイノベーション創出手法 Build Insider|デザイン思考の活用事例 freshtrax|デザイン思考入門 Part1 – デザイン思考の4つの基本的な考え方 freshtrax|【やっぱりよくわからない】デザイン思考ってなに? Le Dome|ロゴデザインの制作プロセス 任天堂|社長が訊くWiiプロジェクト~Wiiが誕生したいくつかの理由~Vol.1 Wiiハード編 中野明著(2015),『超図解「デザイン思考」でゼロから1をつくり出す』,学研マーケティング.