“最強の知将” 野村克也はメモ魔だった。「紙に書く」がスキルアップに効く納得の理由。

1990年代、プロ野球チーム・ヤクルトの監督としてデータを駆使した「ID野球」を提唱し、チームの全盛期を築いた野村克也さん

球界きっての知将として知られますが、その野村克也さんとて最初から知将だったわけではありません。選手、監督として生涯を通じて野球を学び続け、蓄積した経験、知識、さらにはそれらの地道な分析、フィードバックにより、知将としての立場を築いていったのです。そして、その学びの大きな武器となったのは、「書く」という行為でした。

構成/岩川悟、清家茂樹(ESS) イラスト/小西真樹

ノートに書き出すことが、 「聞く」ことの質を高めてくれる

かつてわたしが南海に在籍していたときに、ドン・ブレイザーという外国人選手が入団してきた。わたしは彼がチームメートになったのを機に、食事に誘いまくり、野球について質問攻めにした。というのは、彼が日米野球で来日した際に見せてくれた頭脳的なプレーが、鮮烈に記憶に残っていたからである。

ブレイザーに話を聞くときは、いつもノートを手にしていた

ただ会話を重ねるだけでは自分の身につかないからである。

このノートに書き出すという行為が、「聞く」ことの質を高めてくれると思っている。ノートに書き記した文字をあらためて読んでみると、「この答えは矛盾するのでは?」「あのことはそういう意味だったんだ」という気づきがある。そして、振り返ることで、新たな疑問が生まれ、それが次回の質問となる

こうしてわたしのノートは、ブレイザーから学んだ野球理論でどんどん埋まっていった。そしてノートには、その理論を実践したことに対する自分なりの解釈も書き加えていった。ノートを真っ黒に埋め尽くしていく作業はじつに有意義で、興味深く、野球における視野が広がる感覚が楽しかったものだ。

彼がいなければ、また彼に聞くことがなければ、選手としても、そして監督としても、わたしが成功することはなかったと思っている。

メモが習慣になると、 感じることも習慣になる

現役時代から無知無学を自覚していたわたしは、いつもメモ帳をそばに置き、気づいたことや感じたこと、見たこと、聞いたことを書き込んでいた

なぜメモを大事にするのか。

ひとつ目の理由は、メモをすることが習慣になると、感じることも習慣になるからである。メモには、事実だけでなく感じたことも書き留める。それを読み返すことは感じたことを確認することになるし、時間が経つと新しい発見をすることもある。

ふたつ目の理由は、人間は忘れやすい生きものだからである。人間の記憶ほどあてにならないものはない。ときには、平気で自分の都合のいいように事実をねじ曲げる。起こったことを記録として残しておかないと、なにが正解だったのかわからなくなる。だから、メモとして残しておくことが大切なのだ。

わたしは寝ているときも、テレビを観ているときも、気がついたことをすぐに書き留められるよう、必ず近くにメモ帳と鉛筆を用意していた

もちろん、選手たちにもメモを取るクセをつけるように指導していた。監督やコーチ、先輩に話を聞いたとき、その場では覚えているつもりでも、少し時間が経つと記憶が怪しくなってくる。いいアドバイスをもらっているのに、忘れたら意味がない。なかには二度と聞けない有意義な話もあるのだから、もったいないではないか。

*** デジタル機器が飛躍的に進化し続けるいま、メモを取るためのツールにはさまざまなものがあります。スマホ用のメモアプリにはいくつもの種類があり、メモ機能に特化した電子パッドを使っているという人もいるでしょう。たしかにそれらは便利なものです。でも、のちのち自分の「身になる」ことを思えば、やはり手で紙に書くということが大切なのかもしれません

受験生時代、「効率的に暗記するには五感を使え」という言葉を耳にしたことがある人も多いはずです。せっかく頭に浮かんだアイデアやさまざまな気づきをしっかり脳に刻み、社会人として成長していくため、手で紙に書くことを心がけてはどうでしょうか。

※今コラムは、『野村四緑 志の書~夢を叶える心得~』(セブン&アイ出版)をアレンジしたものです

【野村克也さん『人生強化塾』シリーズ ほかの記事はこちら】 成長し続ける一流、失敗を繰り返す二流……決定的な差を生む2つの思考習慣。 「人の悪口を言わない人間」を絶対に信用してはいけないワケ。

【プロフィール】 野村克也(のむら・かつや) 1935年、京都府に生まれる。京都府立峰山高校を卒業し、1954年にテスト生として南海ホークスに入団。3年目の1956年からレギュラーに定着すると、現役生活27年にわたり球界を代表する捕手として活躍。歴代2位の通算657本塁打、戦後初の三冠王などその強打で数々の記録を打ち立て、MVP5回、首位打者1回、本塁打王9回、打点王7回など、タイトルを多数獲得。また、1970年の南海でのプレイングマネージャー就任以降、延べ4球団で監督を歴任。ヤクルトでは「ID野球」で黄金期を築き、楽天では球団初のクライマックスシリーズ出場を果たすなど輝かしい功績を残した。現在は野球評論家として活躍中。

『野村四録 志の書~夢を叶える心得~』

野村克也

セブン&アイ出版(2018)

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