“計画通りに行かない” は普通!? ノーベル経済学賞受賞者が教える「正しい計画の立て方」

何かをやろうとして計画通りにいかなかったとき、みなさんはおそらく、取り組み方を見直したり怠け具合を反省したりすることでしょう。

それにもかかわらず、計画が破綻し続けてしまう。 反省を活かせていないわけではないのに改善されない。

そんなループから脱するために、「計画の立て方」を見直してみませんか? 計画通りに物事が進まないのは、そもそも私たちが正しい計画の立て方というものをわかっていないからなのかもしれません。

今回はノーベル経済学賞受賞者のダニエル・カーネマン氏の教えから、正しい計画の立て方を学んでいきます。

ノーベル賞受賞者が陥った「計画の錯誤」

まずは、カーネマン氏がかつて経験した計画の失敗に関するエピソードを紹介しましょう。

ある年、認知心理学者のカーネマン氏は教科書を執筆する機会を得ました。1年をかけて最初の1、2章を書き上げたころ、彼はチームメンバーに「教科書の最終案を提出するまでにあとどれくらいかかるだろうか」と問いかけたのだそう。するとほとんどのメンバーが「2年前後」と予想。メンバーらの回答した予想は、最短で1年半、最長でも2年半でした。

しかし、その後実際に教科書が完成するまでに、なんと8年の歳月がかかりました。メンバーの予想をはるかに上回る年数がかかってしまったのです。

彼らは何故、見通しを誤ってしまったのでしょうか。

もちろん、彼らの予想がでたらめだったわけではありません。これまでの進捗状況とこれから書くべき量を踏まえ、執筆に要する概ねの時間は把握していました。人によっては、かなり余裕を持たせた予想もしていたほどです。

それなのに間違ってしまった理由、それは彼らが「手元の材料」からしか考えていなかったから。自分たちのスキルやこれまでの経験から見たタスクの難しさなど、彼らの持っていた情報は適切なものであり、その情報に基づき相応の予想をしていました。しかし、その予想の立て方は、あくまで内部情報に基づくアプローチに過ぎなかったのです。

外部情報によって「基準」を把握する

実は、最初にカーネマン氏がメンバーに予想を問いかけた時点で、8年という長い歳月の示唆は得られていました。同じミーティングの中で、彼はカリキュラム作成の専門家から、先行事例に関する情報を得ていたのです。その内容は、「これまでのチームは40%が完成に至らず、上手くいったものでも7年~10年を要している。そして、カーネマン氏のチームのスキルはこれまでの事例の平均よりやや下回っている」というもの。この情報を踏まえれば、カーネマン氏のチームは教科書作成の取組みをとりやめる、あるいは長期にわたることを覚悟する必要があることは、十分に推察できたはずです。

何故彼らが取組みをやめられなかったのか、その点については今回の本題とはズレるので割愛しますが、「埋没費用(サンクコスト、sunk cost)の呪縛」といえば察しのつく方も多いでしょう。 (サンクコストについて詳しく知りたい方はこちらをお読みください→StudyHacker|サンクコストに囚われる人ほど仕事も勉強も失敗するワケ

閑話休題 カーネマン氏たちは、この情報を得た時点で予想あるいは計画を大きく変える必要がありました。何故ならこれまでの事例から、教科書の執筆には7~10年の時間がかかるものだという「基準」が得られていたからです。

カーネマン氏らは、このような基準となる外部情報に加えて、内部情報による補正を行って予想することが適切であったと考えています。この場合でいえば、過去の事例から得た7~10年という期間を基準に、これまでの進捗状況・今後執筆する内容の難易度・メンバーがどれだけ労力を割けるかの予想、といった個別的な状況を考慮することによって、計画を立てるべきであったということです。

計画を上手く立てるためのコツ

カーネマン氏のこの教えは、現在では「参照クラス予測法(reference class forecasting)」という専門的な名前を持ち、私たちが計画の錯誤に陥らないための指針として活用されています。その内容は以下の通りです。

1. 適切な参照クラスを見つける 2. 参照クラスの統計データを入手し、これに基づいて基準予測を作成する 3. 当面のケースに固有の情報を検討し、同じタイプの他の案件に比べて楽観・悲観すべきか十分な理由がある場合には、それに応じて基準予測を修正する

これでは難しいので具体的に、今回はTOEICの点数アップで考えてみましょう。あなたは現在TOEICの点数が500点で、730点を超えたいと考えています。その場合は、以下のようなやり方で目標達成までの見通しを立ててみるのです。

(例) 1. 友人や、通っている英語塾、勉強法クラスタの仲間たちの中で、同じ成績目標を達成した人の情報を得る 2. すでに同じ成績目標を達成した人が日々費やした時間や、実践した勉強法、そして目標達成までにかかった期間を把握する 3. 自分に固有の情報(かけられる時間の多寡・勉強効率など)を検討し、目標達成までに平均より時間がかかるか否か、また、もっと労力を費やすべきかを判断する

以上のように、自分自身についての情報だけでなく他者の情報も参考にしながら学習計画を立てれば、過剰に楽観的な計画にはなりません。自分一人だけで気楽に考えた計画では、目標達成どころか計画の遂行すら危ぶまれる可能性があります。しかし、このステップで計画を立てると、「見通しが甘かった」という失敗に陥らずに済み、目標が現実のものになりやすくなるでしょう。

*** 今回ご紹介した「計画の錯誤」は、楽観バイアスによるもの。視野が狭くなってしまうと「自分たちは上手くいくはずだ」という考えに陥りがちになります。

視野を広く持って情報を多く集め、その情報を自分自身の状況に応用していくこと。それが、実現しやすい計画を立てるための第一歩となることでしょう。

(参考) ダニエル・カーネマン著,村井章子訳(2014),『ファスト&スロー(上) あなたの意思はどのように決まるか?』,早川書房. ダニエル・カーネマン著,村井章子訳(2014),『ファスト&スロー(下) あなたの意思はどのように決まるか?』,早川書房. プレジデントオンライン|富裕層になれない人の9割は、「楽観バイアス」人生 TED|Tali Sharot: The optimism bias 松井亮太(2017),「計画錯誤の実証的研究 タスク難易度の観点から」,組織学会大会論文集,2017年6巻1号,pp.50-55.

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