何かを成し遂げようとするとき、周りの協力は必要不可欠です。しかし、常に周りが積極的に協力してくれるとは限りません。どんなに頼んでも消極的だったり、むしろ反発を受けることもままあるでしょう。そんなときみなさんはどうしていますか。
「こんなにお願いしているのに!」と腹が立って声を荒げる。 「もういいや」と投げやりになって協力を仰ぐのをやめる。
こんな経験がある方も多いのではないでしょうか。これでは一向に周りは協力してくれず、良い結果は得られません。では、周りの力をうまく得るには一体どうしたらいいのでしょうか。
今回は、この問いについて、アメリカにおける成人教育、人間関係研究に生涯をささげたデール・カーネギーに学びながら考えていきたいと思います。カーネギーはベストセラー書籍『人を動かす』の中で、「人を動かす三原則」として次の三つを挙げています。
1.盗人にも五分の理を認める 2.重要感を持たせる 3.人の立場に身を置く
これらがどういうことなのか、一つずつ見ていきましょう。
1.盗人にも五分の理を認める
まず、一目見て疑問を持ってしまうのがこの最初の項目ではないかと思います。盗みはどこからどう見ても悪いことなのに、認めるというのはおかしい気がしますよね。
これは、「人を批判せず、理解に努める」ことを表した言葉。カーネギーは、「人間はたとえ自分がどんなに間違っていても決して自分が悪いとは思いたがらないものだ」と述べています。
例えば、自分が正しいと思っている行動を他人から批判されたらどう感じるでしょうか。反省しないどころか、相手に腹を立てさえするでしょう。つまり、人を批判しても、相手の行動は改善されないということなのです。
また、心理学者B・F・スキナーが行った動物の訓練では、間違えたときに罰を与えた場合と、正しいことをした場合に褒美を与えた場合では、後者のほうが訓練の効果が上がることが実証されています。この結果は、人間の心情的な問題に留まらず、脳科学的にも批判や叱責の効果が薄いことを表しているのです。
相手を批判する行為では相手の行動を変えることはできません。自分の感情を発散するために叱責するのではなく、まず相手のことを理解するところから始めましょう。
2.重要感を持たせる
前の項目で、批判で人が動かないことは述べました。ではどうするのかというと、人が動きたくなるような、欲しがっているものを与えればいいのです。
カーネギーは人の欲求として、以下の八つを挙げています。
一、健康と長寿 二、食物 三、睡眠 四、金銭及び金銭によって買えるもの 五、来世の生命 六、性欲の満足 七、子孫の繁栄 八、自己の重要感
この欲求のうち、なかなか満たされにくく、かつ多くの人が常に欲しているものが最後の「自己の重要感」です。他人に認められたい、特別でありたいという願望は誰もが強く持っているもの。これをうまく活用するのです。
相手の良いところを見つけて褒めたり、協力してくれたときには素直に感謝したりしましょう。そうすれば、相手の行動を促せるだけでなく、相手を良い気持ちにさせることができ、相手との良好な関係を築くことができるでしょう。
3.人の立場に身を置く
前の項目で、人を褒め、重要感を持たせることが効果的だと述べました。しかし、的外れな褒め言葉は打算だと思われ、逆効果になってしまいます。そこで必要なのが、「人の立場に身を置く」ことなのです。
これは褒め言葉に限った話ではありません。相手の欲求を正しく把握し、それを利用することで、相手に行動を起こさせることができるのです。
カーネギーは、自らの講習会に参加したある父親の話を紹介しています。その父親は、幼い娘が何を言っても朝食を食べないことに悩んでいました。カーネギーの助言を受けた彼は、ある朝、娘に朝ごはんの支度をさせました。彼女は母親の真似をするのが好きだったからです。彼女が料理のまねをしているときに、父親が台所をのぞきこむと、彼女は嬉しそうに言いました。
「パパ、見てちょうだい。わたし、いま朝ごはんをつくってるの!」
その朝、娘はオートミールを二皿も平らげてしまったそうです。
この例からも分かるように、相手の欲求をうまく満たすことは非常に効果的です。自分がその人だったら何が欲しいか、どうしてほしいか、と考える癖をつけましょう。
言い方を変えるだけでも、今まで頑なに動かなかった人がすんなりとお願いを聞いてくれるかもしれませんよ。
*** いかがでしょうか。
カーネギーによるこの三原則は、人を動かすのに効果的なのはもちろんのこと、人を騙したり嫌な気持ちにさせたりせずに自分の要求を通すことができる点でとても優れています。
批判せず、相手の立場に立って相手を理解しようとし、相手の欲しいものを与えてあげる。
これは人を動かすテクニックというよりも、あなたがそういう姿勢を保つことで周りがあなたに協力したくなる、ということなのかもしれません。
参考 D・カーネギー著,山口博訳(1999),『人を動かす』,創元社.