勉強しようとするとき、仕事を頑張らなくてはならないとき、誰もが頭を悩ませるのがモチベーションの問題ではないでしょうか。やる気が出ない、最初はやる気があっても維持できない、などという悩みを一度は持ったことがあるでしょう。今回は、モチベーションを維持するための大切なポイントについてのお話です。
「好きなことは仕事にするな」仕事と遊びの違いとは
次のような話があります。
イギリスには、夏場に四頭立ての乗客用馬車を毎日30キロから50キロも走らせる、裕福な紳士がいる。相当な金がなければ、このような特権は行使できない。けれども、もしもそれに対して金が支払われることになれば、それは仕事に変わる。そうなったら紳士たちは馬車を走らせたりはしないだろう。
(引用元:ダニエル・ピンク著・大前研一訳(2010),『モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか』,講談社.)
この話から分かるように、報酬は行動に対して奇妙な作用を及ぼします。すなわち、報酬が払われるようになると、いくら興味深いことも、退屈な仕事に変わってしまうのです。
「好きなことは仕事にするな」と言われることがありますが、これにも同じ原理が働いています。どれだけ大好きな趣味であっても、報酬や義務が伴う仕事となってしまうと、楽しくないものとなってしまうということなのです。
モチベーションのカギは「自律性」
では、報酬が仕事に対するモチベーションにならないとすれば、何がモチベーションを生むのでしょうか。それをダニエル・ピンク氏はこう語ります。
自律性は、個人のパフォーマンスや姿勢に強い影響を与える。行動科学の分野で最近実施された多数の研究から、自律的なモチベーションによって、全体的な理解が深まる、成績が向上する、学校生活やスポーツで粘り強さが強化される、生産性が上がる、燃え尽きる(バーンアウト)ケースが少なくなるなど、精神的健康に大きな改善が見られたと報告されている。
(引用元:同上)
自分なりのルールで自分を律し、自分から行動を起こす、という自律性こそが、モチベーションにつながるのです。
モチベーション維持のために、強制はご法度
子供の頃に「勉強しなさい! 」と叱り半分に親から言われ、かえってやる気をなくしてしまったという経験はないでしょうか。ある教育研究者によると、勉強を強制するような指導が逆効果であることの背景には、次の3つのメカニズムがあるのだと言います。
1つ目が、「悪循環のメカニズム」。子供にとって勉強とは嫌なこと。学校でも勉強しなくてはならないうえ、家庭でも勉強しなさいと言われ、もっと嫌になってしまうというもの。 2つ目が、「強制→抵抗のメカニズム」。子供たちは、勉強しなければならないということはわかっている。勉強しようと思っているのに、親から勉強しなさいと言われ、腹が立って反発してしまうというもの。 3つ目が、「偽善嫌悪のメカニズム」。勉強の必要性は理解しているが、親からそれを強制されることで、親が世間体を気にしているように感じてしまい、勉強意欲が減退するというもの。
2つ目のメカニズムはまさに自律性に関係しています。勉強に対する自律性はあるのに、親から強制されると反発してしまうというわけですから、その自律性を尊重しながら勉強に向かわせるのがいかに大切か、分かりますね。
*** 自分自身を振り返ってみてください。仕事や勉強に対し、自律性をもって取り組めていますか? 誰かに強制されて、嫌々ながらに取り組んでいませんか? やる気を出し、そのやる気を維持するカギは、自律性です。自由にやって構わないのです。自分で決めた目標のために、自分で決めた行動を、自分から起こすということを意識してみてくださいね。
(参考) ダニエル・ピンク著・大前研一訳(2010),『モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか』,講談社. 教育研究所ARCS-独断的教育論-|勉強しなさいは逆効果のワケ