何かに集中し没頭することは、辛い体験のフラッシュバックを軽減し、不安を和らげる効果があるのだそう。もちろん、仕事の生産性を上げるためにも不可欠です。
しかし2015年、人間のアテンション・スパン(ひとつのことに集中できる時間)はたったの8秒で、金魚よりも短いのだという調査結果が発表されました。どうすれば集中しやすくなるのでしょうか?
今回は、最新の研究とともに、とても簡単な集中法を紹介します。
テトリスによる「フロー状態」の効果
「テトリス」をご存知ですか? 1980年代に登場してから現在までプレイされ続けている、世界中で大人気のコンピュータゲームです。
そのテトリスには、集中力を高めてくれる効果があるようです。2009年、オックスフォード大学の研究グループは、テトリスをプレイすることで、トラウマによる影響を和らげられると報告しました。
オックスフォード大学の研究結果から、カリフォルニア大学リバーサイド校の心理学者Kate Sweeny氏は、不安を解消するためにテトリスは理想的なツールだと考えたそう。そして同氏が大学生290名を対象に、テトリスを用いた実験を行った結果、「退屈になるほど簡単な難易度でプレイしたグループ」や、逆に「難しすぎるレベルでプレイしたグループ」ではなく、「ちょうどいい難易度のテトリスをプレイしたグループ」の不安が緩和したそうです(2018年9月27日『Emotion』にて公開)。
適度な難易度でプレイしたグループの不安が緩和されたのは、ちょうどいい難易度のテトリスをプレイしているとき、退屈も焦りもなく、意識がゲームに強く集中する「フロー状態」になるからだと考えられています。つまり、不安が入り込む隙間がなくなるほど、夢中になってしまうということ。
また、ドイツのルール大学ボーフムと、スウェーデンのカロリンスカ研究所の研究者らは、テトリスをプレイすることが、PTSD患者におけるフラッシュバック(辛い出来事を思い出し追体験する)の軽減を助けると見出しました(2018年12月末『Journal of Consulting and Clinical Psychology』に掲載)。研究者らは、フラッシュバックに関わる脳の領域が、テトリスのプレイに関わる脳の領域と重なるため、フラッシュバックの軽減効果が生まれるのではないかと話しています。
いずれにせよ、テトリスというとてもシンプルな落ち物パズルゲームが、我を忘れて没頭するフロー状態を作り出すことは間違いありません。そして、そのフロー状態が、嫌な記憶を遠ざけてくれるのです。
「フロー状態」がもたらす多くのこと
「フロー」という概念は、心理学者のミハイ・チクセントミハイ博士によって提唱されました。同氏は、我を忘れ、時間を忘れて何かに没頭するフロー状態に入れば、どんなに難しいことでも可能になると言います。
アメリカの教育機関による組織「Flow Genome Project」によると、フロー状態に入ることで、以下の効果・働きが生じるのだとか。
- 創造性・課題解決能力が4倍になる
- 新しいスキルの学習スピードが2倍速になる
- モチベーションを高める脳内物質(※)が放出する
- 痛みや疲労を感じなくなる (※ノルアドレナリン、ドーパミン、エンドルフィン、アナンダミド、オキシトシン)
また、マッキンゼーの調査結果によれば、経営者がフロー状態を経験すると、その会社は5倍の生産性を発揮できるようになるそう。
「Flow Genome Project」のスティーブン・コトラー博士いわく、1日のうち15%でもフロー状態に入ることができれば「仕事の生産性は通常の2倍に上がる」とのこと。8時間勤務であれば1時間12分。そう聞くと、「それくらいならフローになれるかも……」なんて思ってしまいますよね。
しかし、同氏によれば、平均的なビジネスパーソンの場合、1日のうち5%程度しかフロー状態になれないそうです。
「フロー状態」を手っ取り早くつくるには?
でも諦める必要はありません。ちょっとした方法を取り入れることで、フロー状態にグンと近づくことができますよ。
フロー状態になれる簡単な方法とは、脳科学者の茂木健一郎氏もおすすめの「タイムアタック法」と、コンサルタントで関西学院大学准教授の理央周氏がおすすめする「所要時間を入れたToDoリスト」を組み合わせただけのもの。在り来たりな印象かもしれませんが、驚くほど集中しやすくなります。
「タイムアタック法」とは、時間制限を設けることによって、集中力が増して効率良く勉強や仕事ができる方法のこと。しかも、時間内にやりきることにより、やる気ホルモンといわれる脳内物質ドーパミンが放出され、ますます意欲が高まります。
なおかつ「タイムアタック法」に「所要時間を入れたToDoリスト」をプラスすれば、より制限時間に対して意識的になるので、ますます集中力が高まるはずです。所要時間の記入は、仕事全体のボリューム感を把握することにも役立つでしょう。
「フロー状態」を手っ取り早くつくる方法
フロー状態を手っ取り早くつくる方法に必要な道具は、以下の3つ。
- ペン(おすすめは細い水性マジックペン)
- A4あるいはB5のコピー用紙やレポート用紙
- 光と音の切替がついたシンプルなタイマー
手順は簡単。所要時間を入れた手書きのToDoリストを作り、タイマーで時間をセットして、終わったら線を引いて消すだけです。時間になったら音あるいは光で知らされる→タイマーを消す→終わったタスクを線で消す→またタイマーに時間を入れるという、認知的負荷の少ない単純な方法が、あなたを「フロー状態」へと近づけてくれるでしょう。
なお、注意点は、
- スマートフォンをタイマーとして使わない
- 少しだけ頑張りが必要な難易度にする
です。その理由は、スマートフォンをタイマーとして使うとメッセージの通知などが目に入り、集中力を妨げてしまうから。スマートフォンが視野に入るだけでも、操作を始めたくなってしまう危険性があります。
また、Kate Sweeny氏の研究で明らかになったように、簡単すぎても難しすぎてもフロー状態になれません。ちょうどいい難易度にしておくことが重要です。
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フロー状態に近づける「タイムアタック法」と「所要時間を入れたToDoリスト」のミックスをおすすめしました。仕事や勉強だけではなく、家事やちょっとした雑用にも使えます。ゲーム感覚でどんどんタスクを片づけられますよ。ぜひお試しください。
(参考)
Ruhr-Universität Bochum|Flashbacks durch das Spielen von Tetris abschwächen
Ars Technica|Study: Tetris is a great distraction for easing an anxious mind
ZUU online|「解決能力は4倍、学習スピードは2倍」フロー状態に入るために必要なこと
日本経済新聞|集中力の持続「たった8秒」 スクリーン中毒の実態
Study Hacker|「タイムアタック勉強法」で成績アップ! タイマーをセットして、集中力を強化せよ。
Study Hacker|いつも “余裕に見える” 人が普段こっそりやっている4つのこと。