結果を出す人はノートに何を書いているのか? アイデアマンが「手書き」にこだわる深い理由。

大手化学メーカー・花王の研究開発職を経て、現在は商品開発コンサルタント、ビジネス書作家、講演家などとして幅広く活躍する美崎栄一郎(みさき・えいいちろう)さん。その著書の多くは、サラリーマン時代の経験を生かした仕事術に関するものです。昔ながらのノートや手帳に加え、スマホにタブレット、メモ機能に特化したデジタルノートなど、記録ツールが増殖しているいま、美崎さんは「記録」というものをどうとらえ、どう活用しているのでしょうか

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹(ESS) 写真/石塚雅人

自分の価値を高めるのは自分の経験

インターネットが普及したいま、どんな情報もすぐに手に入るようになりました。ただ、ネット検索でヒットするのは、他人の知恵や知識でしかありません。でも、実際に自分の価値を決めているものはなにかといえば、自分の知恵や知識、経験です。それなら、それらを自分できちんと記録するべきですよね。代わりに記録してくれる人なんていないのですから。

スケジュール帳は別として、ノートにメモすべきものは日々の経験から生まれる「気づき」です。その「気づき」こそ、ほかならぬ自分自身で生み出すものだからです。たとえば本の編集者であれば、ある本のつくりを見ていて「おもしろい」と思ったことや「あれ?」と感じた違和感を記録するべきです。もちろん、プライベートのことでも構いません。普通はその場でただ思っただけでスルーしがちなことも、きちんとメモするのです

「メモしても忘れてしまうから意味がない」と言う人もいますが、わたしはそうは思いません。だって、たとえ忘れたとしても、紙に書いていたら残っているじゃないですか。それに、書くという行為によって、「なにかいいことを書いた」という感覚は頭のどこかに残っているもの。それによって、もしあとになってその記録が必要になったとしたら、きちんとたどることもできるはずなのです。

サラリーマン時代に訪れた大きな転機

僕がきちんと経験を記録するようになったのは、まだ花王に勤めていたときのことです。当時、僕の社内プレゼンを聞いた上層部の方に「美崎君の話には意外性がないね」と言われたことがあります。僕のプレゼン内容は商品開発に関わる研究についてのものですから、極端にいえば「洗剤を強く撹拌(かくはん)すればよく溶ける」といった事実を報告するもの。基本的には意外性なんてなくて当然なんです。

でも、その人はこうも言った。「ちょっとおもしろい現象だとか、現場でしか見えないものもあったんじゃないの?」と。そう言われると、そういうこともあったかもしれないけど、本来の研究目的外のことだから記録していない。見ようとしていないから見えていなかったわけです

その後、自分の経験や気づきを記録するようになった結果、それまでとは違った成果を出せるようになった。具体的にいうと、シート型の洗濯洗剤を商品化しました。本来、そのプロジェクトはタブレット型の洗剤を開発するものでした。すると、研究途中にちょっと意外な結果が出た。タブレット型にするためにプレスしても、なかなか固まらないということがあったのです。

実験としては完全に失敗……。でも、固まらないことを逆手に取って、タブレット型よりも水に溶けやすいことをウリにしたシート型洗剤の開発につなげたわけです。当初の目的から外れたとしても、そのプロセスで起きたことや自分の経験を生かす。そういう発想を持てるようになったことは間違いありません。

スピードを重視して手書きが基本

わたしの記録方法を具体的にお教えしましょう。まず、基本的に手書きです。とある電機メーカーとの付き合いもあってデジタルノートも使っていますが、デジタルノートの場合でも入力は手書きです。これは、なによりもスピードを重視しているから

カメラで撮影して済むものならそれでいいわけです。でも、自分の気づきを記録する、人の話の要点をまとめるといったことは文字にする必要がある。そして、文字にするにも、スマホでフリック入力をするより手書きのほうが圧倒的に速いですよね。併せて矢印や図などを書き込むといったことになれば、それこそ手書きが最速の手段です。

もちろん紙ベースで記録する際は、ノートやメモ帳のサイズも重要。サイズを選ぶ際には、どういうシーンで使うことが多いかということを考えるべきです。新聞記者の人には、胸ポケットに小さいメモ帳を入れている人が多いですよね。それは、立ったまま使うことが多いからです。デスクでパソコンと並べて使うというのであれば、キーボードと一緒にデスクにしっくり収まるサイズでないといけません。ノートを置くのが面倒だと思った瞬間に使わなくなりますからね。

自分の価値につながるノートを捨てるのはご法度

それから、書くときには「気にしないで書く」ことを心がけましょう。「気にしないで」ということを心がけるというのも少し変な表現ですが、要は「自分だけがわかればいい」ということ。学校でのノートとちがって誰かに提出するわけではありません。気にせず好きに書けばいいのです。僕のノートもぐちゃぐちゃですよ(笑)。

ただ、どんな気づきを得たのか、その「キーワード」は必ず残す必要があります。あとからそれらを見て、どういうことがあったのか、自分がどう思ったのか、それらをきちんと思い出せないようでないと、記録の意味がありません。

また、そのメモをきちんと活用するには、付箋を使ってみてください。僕の場合、ノートの表紙裏にいくつか付箋をまとめて貼っています。そして、記録したことがやらないといけないタスクであるなら、そのページに付箋を貼るのです。あるいは、ノートの上と横で貼り分けて、タスクとインデックスいうふうに使い分けるのもノートを有効に使う手段ですね。ノートの一番の問題点は、閉じると目的の場所にアクセスしづらくなるという点です。その問題を付箋で解決するわけです。

また、使い終わったノートの扱いに悩んでいるという人もいることでしょう。わたしの場合はすべてスキャンしてPDF化していますが、ただ箱に入れて時系列に並べておくだけでも十分です。要は、捨ててはいけないということなのです。

本であれば、いくらでも捨てていい。また必要になれば、あとから書い直すこともできますからね。でも、自分が書いたノートは一度捨てると二度と手に入れることはできません。そこには、あなたの価値につながる経験が記されている。そんな大事なものを手放すことほどもったいないことはありませんよ

【美崎栄一郎さん ほかのインタビュー記事はこちら】 仕事の優先順位を「重要度」で決めたがる人が陥るワナ。 「週1日は “仕事をしない日” をつくる」チャンスを確実にモノにできる人がやっていること。

『面倒くさがりやの超整理術 「先送り」しないための40のコツ』

美崎栄一郎 著

総合法令出版(2018)

【プロフィール】 美崎栄一郎(みさき・えいいちろう) 1971年6月24日生まれ、神奈川県出身。商品開発コンサルタント、ビジネス書作家、講演家、起業家。2009年に上梓した初の著書『「結果を出す人」はノートに何を書いているのか』(ナナ・コーポレート・コミュニケーション)がビジネス書大賞1位に。その後、花王で商品開発に携わったサラリーマン経験を元に、仕事術をまとめた著書は30冊を超える。『[書類・手帳・ノート・ノマド]の文具術』(ダイヤモンド社)は文具本で異例のヒット。『iPadバカ』(アスコム)はiPad関連書籍で最も売れた記録を持つ。2013年よりビジネス手帳の監修も手がける。講演テーマは、時間術、仕事術、アイデア発想術からノート術、デジタルツール活用術など。企業勤務経験から企業内研修の依頼も多い。

【ライタープロフィール】 清家茂樹(せいけ・しげき) 1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。

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