仕事や勉強を行ううえで、制限時間を設けることは有効だといわれています。しかし、最近の研究では、「締め切り」があると生産性を下げてしまう可能性が示されました。研究の詳細と、その影響を防ぐためのコツをご紹介します。
締め切りがあると生産性に影響?
学際的消費者行動研究の専門雑誌「Journal of Consumer Research」に掲載(2018年3月15日)された論文によると、締め切りがあると“自分の持ち時間を短く認識”してしまうため、生産性に影響を与える可能性があるそうです。
ラトガーズ大学、オハイオ州立大学、ワシントン大学の研究者らは、人が時間をどのように使うのか、2年にわたって累計2300人以上の被験者に対し、さまざまなテストを行ったそう。
たとえば200人の被験者を集めて「予定があるグループ」と「予定がないグループ」に分け、異なる時間内でそれぞれ得られる対価を設定し、被験者に選んでもらいました。すると、予定があるグループの人は、予定がないグループの人と比べて、自分の持ち時間を平均で7.82分短く見積もっていたのだとか。
また、ワシントン大学で158人の学生を対象に行った調査では、「次の予定まであと5分しかない」Aグループと、「5分ぐらい手が空いている」というBグループに分けて作業を行ってもらったところ、Bグループが平均して2.38件のタスクを処理できたのに対し、Aグループが処理できたのは平均1.86件だったのだとか。
つまり、人は締め切りがあると、持ち時間を短く見積もり、それによって生産性が低下してしまう可能性があるということです。
人は時間に対するプレッシャーに弱い?
株式会社サイバー・ヨガ研究所代表取締役の辻良史氏は、人は時間に対するプレッシャーに対し、あまり強くできていないといいます。なぜならば、たとえ文明社会になっても、朝日が昇れば目覚め、日が暮れたら自然に眠りについていた祖先の、動物としての機能が私たちにはまだ残っているから。そのため、分刻みのスケジュールに追われるビジネスパーソンたちは、心身を病んでしまいがちなのだとか。
そうはいっても、締め切りなしで仕事や勉強を行うことはできません。就業時間に納期、成果を示さなければならない期限、テストまでの時間など、さまざまな締め切りがあるからです。
それに、脳科学者の茂木健一郎氏は、仕事や勉強をするうえで「タイムプレッシャー」は有効だと述べています。制限時間を設けることで集中力が高まり、達成することで得られる快感が脳へのいい刺激になり、やる気にもつながるからです。
つまり、締め切りといい関係を保つには「コツ」が必要だということです。
締め切りのプレッシャーに負けない方法
1.いまに没頭する
辻良史氏は、制限時間内に課題のクリアを目指す際は、「制限時間」に意識を向けず、「いまに集中」することだと述べています。「期限」や「結果」を過剰に意識してしまうと、恐怖感や怒り、悲しみや不安など、情動に深くかかわる扁桃体の活性によるストレス反応が起きてしまうのだとか。
したがって、制限時間を設定しても、そのことは忘れるようにして、目の前のタスクに没頭することが重要とのこと。音もしくは光で時間を知らせるアラームのセット、あるいはリマインダーなどを活用し、いまだけに没頭しましょう!
2.タスクを分割する
先述の「締め切りが持ち時間を短く認識させ、生産性を低下させる」という影響に関し、Journal of Consumer Researchで論文を発表した研究者らは、「大きなタスクはその影響を受けやすいが、大きなタスクを分割し、短いタスクにすると達成が容易になるので、その影響を軽減できる」としています。
つまり、ドカンと大きなタスクに締め切りを設けるよりも、それを下位分類したものに、締め切りを設けるほうがいいということですね。なお、この内容に関しては、3番目の「適度な制限時間」が関係してきます。
3.適度な制限時間
産業医科大学の山本氏らは、被験者に対して個々の「作業処理能力」を調べ、その後、簡単なクイズを行ってもらったそう。そして、以下3つのうち、どの方法が最も効率がよくなるか調査したとのこと。
A 個々に合わせた制限時間で行う B 制限時間が一番「長い」人に合わせて行う C 制限時間が一番「短い」人に合わせて行う
その結果、一番正解数が多かったのは、個々に合わせた制限時間で行ったときではなく、「B」のちょっと緩めの制限時間で行ったときだったそうです。つまり、制限時間は、短く設定しすぎると逆効果になってしまうということ。前項の「タスクを分割する」際にも、締め切りに無理がないか、いま一度考えてみましょう。
*** 締め切りのプレッシャーで生産性を下げないコツは、「いまに没頭・タスク分割・適度な制限時間」の3つです。ぜひご留意ください。
(参考) Journal of Consumer Research Oxford Academic|When an Hour Feels Shorter: Future Boundary Tasks Alter Consumption by Contracting Time ダイヤモンド・オンライン| 最先端科学×マインドフルネスで実現する 最強のメンタル|「締切のストレス」を味方につければ仕事の質と量は格段に上がる Study Hacker|茂木健一郎氏もおすすめ! タイムアタック勉強法