PCやデジタル端末が広く普及したため、ペンを使って紙に何かを書き出すという行為が、どんどん減少しています。しかし、それはとても危機だということをご存知でしょうか。今回は、手書き習慣がないと低下する3つのことについて説明します。
「手書き習慣がない」と低下すること1:吸収力
プリンストン大学のパム・A・ミューラーとUCLAのダニエル・M・オッペンハイマーによる研究(2014年5月22日発表)では、PCなどのデジタルツールだけでメモを取ると、新しい知識を吸収しづらくなるとわかりました。
実験に参加した学生たちは、手書きグループとPCグループに分かれ、複数の講演映像を見たのち、概念理解に関する質問を受けたそう。その結果、講演内容を手書きでメモしたグループのほうが、有意に高い得点を取ったそうです。
研究者らは、PCによる「逐語的な書き取り(一字一句を忠実に記録)」が、記憶の低下を招いたのではないかと考え、その次の実験ではPCグループに対し、自分自身の言葉でメモするよう指示したとのこと。しかし、それでもPCグループは、話し手の言葉をほとんど書き起こしてしまったため、結局また手書きのグループよりも成績が劣っていたそうです。
メモしたものを、後日復習してからテストを行うという次の実験でも、PCグループはメモの分量が多いだけで、やはりテストの結果は手書きグループのほうが良かったとのこと。PCを使うと、どうしても何も考えず逐語的にどんどんメモを取ってしまうため、吸収が妨げられると考えられています。
「手書き習慣がない」と低下すること2:前頭前野の働き
文章を書くときの脳活動を調べてみると、手書きの場合は脳の前頭前野が活発に働きますが、PCや携帯電話を使って文章を書いても、前頭前野はあまり働かないそうです。
この結果を見出した東北大学加齢医学研究所所長の川島隆太氏は、自分の手指を使った知的作業は前頭前野を活性化させ、デジタルツールを使った知的作業は、前頭前野を抑制させると述べています。
その理由として考えられるのは、手書きの場合は漢字を思い出し、それを文字として書いて表現する必要がある一方、デジタルツールの場合はその必要がほとんどないから。ちょっとした手紙なら自分の脳をあまり使わずに、ある程度は表現できてしまいます。
前頭前野は、記憶や学習に深く関連し、思考や創造性を担う脳の最高中枢。なおかつ感情を抑制する理性的な脳でもあります。手で書くという行為は、心を落ちつかせ、「考えること」を後押ししてくれる、ともいえるのです。
「手書き習慣がない」と低下すること3:自由度
『デジタル時代だからこそ、使える! 伝わる! 「手書き」の力』を著した和田茂夫氏は、「メモは手書きに限る」といいます。その理由は、自由度があり、一覧性にもすぐれており、伝えたいように伝えられるから。
文章を書いている途中で図解が必要になった場合、手書きなら機能うんぬん関係なく、自由なレイアウトですぐに書けるし、文字の大小も下線も強調も、簡単で自由自在です。
また、切り抜きを貼った横に何かを書き込んだり、切り抜きそのものに書き込んだり、スケジュールの横に関連することを書いたりと、自分が必要な情報をまとめ、ひと目で見られるようにもできます。
『図で考える。シンプルになる。』の著者である櫻田潤氏は、図を用いて考えると無駄な情報がそぎ落とされ、要点が浮かび上がってくるといいます。その際には、自由度が高い手書きが大いに役立つはず。つまり、手書きは考えをまとめる際にも適しているということです。
では、何を書くことから始めればいいのか?
もしもあなたに手書きの習慣がまったくないのであれば、「ネタ帳」から始めることをおすすめします。
先輩や同僚との会話で気にかかったフレーズ、電車内で見かけた広告の気になること、本を読んでためになると感じたこと、仕事中で覚えた(覚えたい)こと、テレビを見ていて耳に残った名言・格言・ことわざ、面白すぎるトリビアなど、何でも書いておくことにより、“引っかかり”をつくってくれます。
あとでそれを見なおし、再度インプットすれば、その雑多な記録がいかにアイデア出しに役立つか実感できるはずです。何より、先にお伝えした「手書き」の恩恵を大いに受け取れるでしょう。また、以下の際も手書きがおすすめです。
- 考えをまとめたい
- アイデアを出したい
- アイデアを整理したい
- 問題を解決したい
- To-Doリスト
文字と図を存分に使ってお試しください。A4のコピー用紙やレポート用紙などを使うと、手軽で、小さすぎず大きすぎず、ちょうどいいですよ。
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手書き習慣がないことの危険性について説明しました。 こちらの記事『「考えがいつも浅すぎる人」に欠けていたのは “手書きの習慣” だった。』も、参考にしてみてくださいね!
(参考)
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー|HBR.ORG翻訳マネジメント記事|なぜ、手書きのメモはノートPCに勝るのか
Study Hacker|「考えがいつも浅すぎる人」に欠けていたのは “手書きの習慣” だった。
ダイヤモンド・オンライン|頭がいい人は、「四角と矢印」で考えをまとめる。 | 図で考える。シンプルになる。
和田茂夫著(2009),『デジタル時代だからこそ、使える! 伝わる! 「手書き」の力』,
PHP研究所.