「理由は知らないが嫌われている気がする」「やたら不機嫌な表情を見せてくる」「必ず意見や好みを否定される」――そんな人物が近くにいると困りますよね。いっそのこと問い詰めて、白黒ハッキリさせようと考える人もいるでしょう。
しかし、自分に敵意を向けてくる人間と、真っ向から闘うのはおすすめできません。相手の恨みが尾を引き、あとでもっと大変な状況を招いてしまう可能性があるからです。
それよりも、一枚上手になって、その人物を味方につけてしまいましょう。「いつも敵意を向けてくるあの人」を味方につける3つの方法を紹介します。
敵を味方にする方法1:「相手のプライドを尊重する」
「21世紀のデール・カーネギー」といわれるボブ・バーグ氏の著書、『敵を味方に変える技術』には、対人関係を向上させ、人生を成功に導くために必要な、5つの原理が次のとおり示されています。
1. 自分の感情をコントロールする 2. お互いの信念の違いを理解する 3. 相手のプライドを尊重する 4. 適切な雰囲気をつくる 5. 共感を示して気配りを心がける
(引用元:PR TIMES|株式会社ディスカヴァー・トゥエンティワンのプレスリリース|人が動く条件を知っている人だけが、人生のすべてにおいて、成功する!『影響力の武器』チャルディーニ、『7つの習慣』コヴィー推薦! 『こういう時に人は動く 影響力 5 つの原理』発売です!)
3番目の「相手のプライドを尊重する」に関しては、日本の有識者からもその効果を説く声が。
弁護士の大澤孝征氏は検事時代、凶悪犯から自白を引き出す際に、相手のプライドを尊重するテクニックを活用していたそう。同氏いわく、たとえば「組織を束ねるほどの立場なら、分かるだろう?」といった具合にプライドを認め、尊重していることを示すと、どんな人間でも本当のことをいいたくなるのだそう。
ジャーナリストとして活動する一方、企業改革・大学改革に携わる原孝氏も、50代の部下と折り合いが悪い30代の男性が相談してきたとき、「相手の自尊心を尊重」するようアドバイスしたといいます。それを実践した30代の男性は、親子ほど年が上の部下と、少しずつ関係を回復したのだとか。
原氏によれば「相手の自尊心を尊重する姿勢」とは、審査員席や客席、審判席といった相手を評価・判断するような位置から視線を投げかけるのではなく、同じ土俵に上がり同じ高さから視線を投げかけることなのだとか。
相手の話の内容にうなずくのではなく、相手の存在自体に耳を傾けるのだそう。
「それはいい考えですね」ではなく「そうですね、なんか分かります」。「結構、大変そうですね」ではなく、「そうですよね、確かに大変ですよね」といった具合です。ボブ・バーグ氏が示した原理の5番目、「共感を示して気配りを心がける」にも共通します。
敵を味方にする方法2:「ベンジャミン・フランクリン効果」
アメリカ独立に多大な貢献をした18世紀の政治家 ベンジャミン・フランクリンは、ある議会で参加者のひとりに激しく非難されたそう。しかし、敵の心理操作に長けていたフランクリンは、その人物に対し敵意をむき出しにすることも、媚びることもせず、ある意外な行動をとったのだとか。
その行動とは、「あなたの本を貸してくれないか」という手紙を送ること。2度ほどフランクリンに本を貸したその人物は、不思議とすっかり好意的になったそうです。
この出来事は、アメリカの心理学者レオン・フェスティンガー氏が提唱した「認知的不協和」を説明する際によく用いられます。「認知的不協和」とは、矛盾した認知を同時に抱えると、不快感を覚えて一方の認知を変化(あるいは追加)させてしまうこと。「ベンジャミン・フランクリン効果」とも呼ばれています。
具体的に説明すると、フランクリンに敵意を向けてきた人物は最初、
「わたしはフランクリンに本を貸す」≠「フランクリンはわたしの敵」
という状況でした。しかし、これでは一方が友人関係で、一方が敵対関係なので、矛盾が生じ不快感が生まれます。そこで、その人物の脳は不快感を取り除くため、
「わたしはフランクリンに本を貸す」=「わたしはフランクリンの友人」
と、一方の認知を変えてしまったのです。
あなたに敵対心を燃やす人物がいたら、「おすすめの本を教えてほしい」、「おすすめの映画を教えてほしい」、「美味しいレストランを教えてほしい」など、その人物が得意とすることで、相手の負担にならない程度の小さな頼みごとをしてみてはいかがでしょう。
敵を味方にする方法3:「バランス理論」
「バランス理論( Balance theory)」は、アメリカの心理学者であるフリッツ・ハイダー氏によって提唱されました。三者間における認知関係のバランスを保とうとする、人間の心理状態をあらわします。「認知的不協和」とも似ていますが、この理論の例として用いられるのは、以下の3つ。いずれも、“そうしたほうが、心のバランスがとれるから”生じます。
・【坊主憎けりゃ袈裟(けさ)まで憎い】
そのお坊さんが憎いと、そのお坊さんが着ている衣服(袈裟)まで憎くなる(お坊さんだけ憎んで、衣服は憎まないとなると、バランスが悪くなってしまう)
・【友達の友達は友達】
“仲のいい友人” が仲良くしている人物には、無条件に自分も好意を持つ。“好きなタレント” が宣伝するものには好感を持つ(“好きな友人” の友人を嫌いになったり、“好きなタレント” がすすめる商品に興味を持たないのは、バランスが悪くなってしまう)
・【敵の敵は味方】
自分が憎む「敵A」がいる。「敵A」と憎み合う「敵B」がいる。「敵B」は自分と同じように「敵A」を憎んでいるので、「敵B」自分の味方であるという考え(“敵の敵” が敵だと、バランスが悪くなってしまう)
――この、最後の例【“敵の敵” は味方】をアレンジしてみると、いつも敵意を向けてくるあの人を味方につける方法のひとつになります。
たとえば、あなたを敵視する「敵A」が敵としてみなしている「敵B」を、あなたも敵とみなしてしまうわけです。すると、「敵A」にとって、あなたは敵の敵になります。いわゆる「バランス理論」で「味方」になるというわけです。
ただし、単なる“いじめ”になってしまわないよう、共通の敵は「個人」ではなく、「組織」や「遠くの存在」であることが条件です。たとえば、仕事のコンペティターや、好きなタレントやスポーツ選手のライバル選手、ライバル国など。
「今度こそ、あの会社の商品を負かしてやろう!」「今度の決勝戦では、〇〇なんかに絶対負けてほしくないね」といった具合です。共通の敵になりそうな対象を見つけたら、すかさずうまく利用して、相手が知らないうちに認知のバランスをとってもらいましょう!
*** 「いつも敵意を向けてくるあの人」を味方につける3つの方法を紹介しました。
1.相手のプライドを尊重する 2.ベンジャミン・フランクリン効果 3.バランス理論
相手に悟られないよう、そっとお試しくださいね。
なお、こちらの『「敵意むき出し人間」がコロッと味方に変わる魔法の心理テク。“あの頼みごと” が効果的だった。』では、認知的不協和、ベンジャミン・フランクリン効果と、その活用法をより詳しく紹介しています。よろしければ一緒にご覧ください。
(参考) PR TIMES|株式会社ディスカヴァー・トゥエンティワンのプレスリリース|人が動く条件を知っている人だけが、人生のすべてにおいて、成功する!『影響力の武器』チャルディーニ、『7つの習慣』コヴィー推薦! 『こういう時に人は動く 影響力 5 つの原理』発売です! Study Hacker|「敵意むき出し人間」がコロッと味方に変わる魔法の心理テク。“あの頼みごと” が効果的だった。 Wikipedia|バランス理論 新潟青陵大学・新潟青陵大学短期大学部|世の中を見る目、人を見る目1(心理学総合案内こころの散歩道/) 原孝著(2007),『人間関係が一瞬で変わる「自己表現」100』,PHP研究所. PRESIDENT編集部編集(2018),『PRESIDENT(プレジデント) 2018年6/18号(「聞く力」入門』,プレジデント社.