夜遅くまで勉強したり、仕事の続きをしたりといったことがよくある。集中できないわけではないが、実際に勉強の効果が生まれているのか、あるいは仕事の生産性が高まっているのか怪しい……。
その不安、的中していますよ。実は、夜遅くまで勉強や仕事を続けることは、大きな経済的損害をもたらすのです。夜の過ごし方を今すぐ変えるべき理由をお伝えします。
長い時間、頑張りすぎる代償
株式会社脳の学校の代表・加藤俊徳医師は、「どうすれば脳を鍛えられるか」とよく質問されるそう。しかし、加藤医師の著書にはこうあります。
脳にとっては「鍛える」のと同じくらい(あるいはそれ以上に)「休ませること」が大事なのです。
(引用元:加藤俊徳(2015),『アタマがどんどん元気になる!! もっと脳の強化書2』, あさ出版 .)
長い時間、しかも夜遅くまで脳を使い続けていると、当然ながら脳は疲れます。疲れで機能が低下しているにもかかわらず、追い打ちをかけるようにPCやスマートフォンで大量の情報を与え続ければ、さらに大きな負担が脳にかかるでしょう。
2015年時点で、OECD(経済協力開発機構)諸国のうち一人当たりの労働時間が最も短いのはドイツだったそう。総労働時間は1,300時間で、日本の約8割程度。それでいて、一人当たりの労働生産性は、日本の水準を50%近くも上回っていたのだとか。
また、2017年時点では、日本の時間当たり労働生産性は47.5ドルで、OECD加盟36か国中では20位。主要7か国では、1970年から続く最下位記録を更新したそうです。
ジャパン・インターカルチュラル・コンサルティング社の社長で、経営コンサルタントのRochelle Kopp氏は、日本の労働生産性が低い原因として、長時間労働による“生産性の低下や心身への悪影響“といったデメリットが理解されないことなどを指摘しています。夜おそくまで長時間頑張れば成果が出る、というわけではないようですね。
夜遅くまで、頑張りすぎる代償
夜遅くまで勉強や仕事を頑張りすぎると、「寝不足」という大きな問題が生まれます。米国のシンクタンク・ランド研究所が2016年に発表したところによると、睡眠不足を原因とした日本の経済的損失は、国内総生産(GDP)の2.92%にあたる1,380億ドル(約15兆円)なのだとか。
ちなみに、睡眠不足による経済的損失が最も大きい国は米国で、睡眠不足による経済損失は4,110億ドル(約45兆円)に達するとのこと。GDPの2.28%にあたるそう。
そして、日本は米国に次いで2番目に睡眠不足による経済的損失が大きいのです。しかも睡眠不足により、日本全体で年間60万日以上の労働時間を損失していることになるそうです。
ランド研究所の試算によれば、睡眠時間をおよそ1時間増やすことで、日本経済には7,570億ドル(約87兆円)のプラス効果があるとのこと。とてつもなく大きい数字ですね。夜遅くまで勉強や仕事の続きをしている場合ではありません。
そもそも、睡眠不足は免疫力や学習力・記憶力を低下させ、肥満の原因となり、気分を落ち込ませるだけでなく、死亡リスクを高めるなどのリスクがすでに知られています。日本で医学博士号を取得後、ハーバード大学医学部に留学し、留学中にボストン大学でMBAを取得したという猪俣武範氏は、「優秀な人ほど残業や居残り勉強はしない」と語っています。ハーバード大学の研究室では、優秀な人ほど決まった時間に仕事を切り上げ帰宅するのだとか。
それに、夜遅くまで長時間頑張りすぎれば、目が疲れます。「ダイヤモンド・オンライン」が2017年9月にアンケート調査を行い専門家が分析した結果、目の疲れによって1日の仕事の進捗に平均で67分遅れが生じるとのこと。日本全体で考えると、ビジネスパーソンの目の疲れによる経済損失は、年間18.9兆円に及ぶのだそうです。夜遅くまで勉強や仕事を続けることには、デメリットが多すぎるようですね。
思いきってダラダラしたほうがいい理由
これまで見てきたように、「長時間頑張らない・遅くまで頑張らない」ことが大事です。精神科医の樺沢紫苑氏は、蓄積した疲労を解消し、「DMN」を働かせるためには、ダラダラする時間が非常に大事であると話します。
ダラダラしている時間、つまりボーっとして何にも集中していない時間は、脳のDMN(デフォルト・モード・ネットワーク)が活発に働いて、脳にインプットされている情報を整理してくれるのだとか。DMNが活性化することによりアイデアが生まれやすくなるのだそうです。
樺沢氏によると、「ボーっとする時間」は以下のように過ごすのがよいそう。
- スマートフォンやPC、テレビは見ない。
- 読書をする。
- 音楽を聞く。
- お風呂でくつろぐ。
- ペットと遊ぶ。
ちなみに、ペットと3分間触れ合うと、リラックス効果のある脳内物質(オキシトシン)が分泌されるそうですよ。
代わりの時間はこうやってつくる
夜に思いきりダラダラして過ごすぶん、勉強や仕事の時間を別に確保する必要があります。おすすめなのは以下の時間帯です。どちらか一方、あるいは両方を取り入れてもいいでしょう。
- 夕食前の「1時間」超集中セット
- 朝食前の「30分間」超集中セット
これまで夜に確保していた時間よりずいぶん短いと感じるかもしれませんが、英国の歴史・政治学者のパーキンソンが提唱した「仕事の量は、与えられた時間いっぱいまで膨張する」という法則を逆手に取れば、「仕事の量は、時間を制限されたぶん縮小できる」ともいえます。勉強・仕事に使える時間が3時間あれば、あなたは3時間で終わるようなペースで作業します。そして1時間しかなければ、1時間で終えられるようがむしゃらになるはずです。
時間制限を設けることで、心理学でいう「締め切り効果」が生まれ集中力が大幅に向上します。加えて、「1時間(あるいは30分間)だけ頑張ればいい」という意識が精神的な負担を減らし、モチベーションを高めてくれるでしょう。
仕事や勉強は、朝は自宅で、夕方の場合はメリハリをつけるためにも、図書館や、個室があるネットカフェなどで行うのがおすすめです。図書館は閉館時間が決まっており、静か。ネットカフェはプライベート空間があり、利用時間に応じた料金がかかります。落ち着いて作業できる環境が整っており、「決まった時間までに終わらせよう」という締め切り効果が生まれるので、集中しやすい場所なのです。
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内閣府が計算したところ、一人当たりの労働時間が10%減少すると、一時間当たりの労働生産性は25%も高まるそう。勉強や仕事に精を出し、夕食を食べたあとは、何も考えず思いっきりダラダラ過ごしてくださいね。
(参考)
内閣府|第2章 第2節 働き方改革が生産活動に及ぼす影響
キャリコネニュース|日本の労働生産性はいつ上がる?主要7か国で最下位 アジア5か国では生産性の上昇率・幅共に最低
サイバーユニバーシティ株式会社|勤勉なのに効率が悪い!?日本の労働生産性は先進7カ国で最下位
サイバーユニバーシティ株式会社|日本の長時間労働への特効薬になるか?勤務間インターバル制度
東洋経済オンライン|日本人が知らない「睡眠ビジネス」の最前線
ダイヤモンド・オンラインPlus|ビジネスパーソンの蓄積した目の疲労による 日本の経済損失は莫大な額に!
Study Hacker|22時以降は勉強するな!? 東大生が実践する "根を詰めない" 勉強法
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ライブドアニュース|ダラダラする時間は大事 精神科医が語る脳機能の裏側
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